百万石メモリーズ 第十二景「船出の大野湊神社・浄化の霊山医王山寺」
百万石メモリーズについて
江戸から加賀藩に嫁いできたお姫様「珠姫(主人公:たまひめちゃん)」が前世の記憶を半分抱えて輪廻転生し、現代の加賀百万石を訪れる。 加賀百万石の各地にあるパワースポットや歴史的な場所を巡る物語。
この物語は、第一景から第十二景まであります。今回の話は第十二景となります。
第十二景ではエピローグの後に、あとがきを701文字掲載しています。
「百万石メモリーズ」全12章
■第一景 珠姫のお寺天徳院・白蛇龍神の金澤神社
■第二景 珠姫が通った子宝観音院・金沢城鬼門封じの五本松宝泉寺
■第三景 殿様の眼病治した香林坊地蔵尊・縁切りと縁結び貴船明神
■第四景 百万石まつりの尾山神社・十二支巡り願掛け香林寺
■第五景 希望が見える富樫城址・三天狗が守る前田家の裏鬼門
■第六景 利常の小松城址と浮宮天満宮・大聖寺の金龍山実性院
■第七景 奇岩胎内めぐり那谷寺・女人救済の遊郭串茶屋
■第八景 白山信仰の白山比咩神社・金運の金劔宮
■第九景 入らずの森気多大社・隠し砦の妙成寺五重塔
■第十景 海流が交わる聖域珠洲岬・日本海を守る須須神社
■第十一景 化け鼠と戦った猫墓法船寺・夢枕に立った白蛇養智院
■第十二景 船出の大野湊神社・浄化の霊山医王山寺
第一景は無料でご覧いただけます。
第二景から第十二景までは、各話後半部分が有料(1話100円)になっております。
一挙に最終の第十二景までご覧いただきたい方は、下記の電子書籍ストアにて販売中です。
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百万石メモリーズ公式サイトはこちら
→https://www.granzella.co.jp/contents/book/
登場人物紹介
・珠姫(たまひめちゃん)
江戸から加賀藩に嫁いできたお姫様で、この物語の主人公。
前世の記憶を半分抱えて輪廻転生し、現在の加賀百万石の様々な場所を巡る。
・タケチョ
徳川家康公の前世の記憶を半分抱え、輪廻転生した。
孫である珠姫が心配で、豆狸の姿に変身して旅に同行している。
著者:麻井 紅仁子
編集・イラスト:ほんだしょうこ
第十二景
船出の大野湊神社~浄化の霊山医王山寺
「本当にお世話になりました!
こんなに良い旅ができたのは、リョウスケさんのおかげです」
「めっそうもございません、姫」
「いやいやお前は良くやった!」
「ですから、僕はあなたの御供ではありませんからお気遣いなく」
「お前はどこまで堅物なんじゃ」
「今日で姫とお別れかと思うと…」
「たまも淋しい…!
それに、たまにはもう一つ心残りが…!
金石には利常様が寄進された神社があると…ニシトモが言ってたわよね?」
「はい今、車を止めますね。…この大野湊神社は加賀前田家の原点かもしれませんから最後にとお連れしました」
「あら…どういうこと?」
「藩祖利家様が加賀入りしたとき、七尾から海路でこの金石(宮ノ腰)に上陸され、本陣を整え尾山城(金沢城)にむけて出発したことは前にお話ししましたよね」
「ええ、不思議だなぁって思ったから覚えてる」
「僕が思うに、まだその頃は畠山や一向一揆の残党を掌握できていなかった。だから、陸路を避け海路から来たのだと思います」
「なるほどねぇ」
「ですから、この町には利家公ゆかりの逸話もあれこれ残っています。
利家様が一人の老婆に世話になり礼をと言ったところ、その老婆は自分が立っている周りを杖でくるりと囲み、この土地を下されといったそうで」
「あら、なんと欲のないおばあちゃん」
「で、利家様はその無欲の老婆にその土地を与えましたが、老婆と利家様の絆でしょうか今も宅地の隅っこ、その一部分だけ所有者が違うそうですよ」
「へぇ、子孫も売れないんだ!」
「なんでもその土地を売る話をするとよくない事が起こるという言い伝えがあるようです。
そんな関係からも前田家はこの神社に何かとお手を入れられました」
「まぁ!りっぱな能舞台があるわよ」
「二代藩主利長様が建てられました。
関ヶ原の勝利祝いで能を奉納したのがはじまりだそうですが、四百年後の今も春の祭礼には神事能が奉納されてます」
「すごい歴史なのねぇ~!」
「はじめは藩が運営してましたが、いつの間にか地域住民が執り行うようになり、奉納のあとこの舞台では専門家や地元の愛好者はじめ今では幼稚園児にいたるまでが謡で出演しますよ」
「へぇ…園児まで?素敵ねぇ」
「金沢の無形文化財にも指定され四百年の歴史になっています。…姫、今通ってきた道ですが何か気がつきませんでしたか?」
「ええ、なんだかお城からま~っすぐ続いてる気がしたのだけど、まさかねぇ」
「俺も気になったぞ、城下町にしては敵の進入路になるのではないかとな」
「今は金石街道とよばれる、海へ続くあの一本道も利常様が造られました。
港から宮ノ腰に上がった荷を素早く便利に城下まで移送する目的です。
川沿いのくねくね道に松明を持たせた人間を一定の間隔で立たせ、金沢城から一直線になるよう線を引き整備したんですよ」
「さすがぁ…たまの利常様、頭良い…!」
「戦のない時代は産業や物流とお考えだったと思います。」
加賀二宮といわれる荘厳な佇まいの大野湊神社。その境内はさすがに見事なものでございます。
この本殿三棟は利常三十五歳の時寄進いたしましたもので、屋根瓦には剣梅鉢、前田家のご紋がしっかり見てとれますでしょう?
「ねぇリョウスケ、この大野湊神社って年に一度お里帰りするってニシトモが言ってたけどどういうこと?不思議だわ」
「ああ、それはですね、千三百年祭をされたほどの歴史のあるお社で、場所はここよりさらに海寄りにありました。そのお社が七百七十年ぐらい前に炎上し当時からあったここ離宮、八幡宮に遷座されたのです。
その後、昔のお社があった浜近くに仮御殿を作り、年に一度、八月に三日間だけ懐かしい場所にお里帰りをされるという珍しい神社なのですよ」
「仮御殿にその三日はお泊りされるの?」
「はい。そして神様のお供として悪魔祓いや獅子舞、米揚げや子供奴など、大勢の町衆が神様と一緒にお里帰りを祝うのが夏祭りなのです」
「へぇ…楽しそうね」
「神様と氏子が一体になれる三日間かもしれませんね」
大姥局の化身と会い、長年の心のしこりが取れた珠姫ですが、そろそろ現世旅とお別れせねばならず…。ですが、ここにきてまだ何か思い残すことがあるのでしょうか、何かうかないお顔をされてますこと。
お約束ですもの仕方ございませんが…。
ほら、飛梅の技を持つ臥行者がもう浜辺までお迎えにきていますよ。
……おや?すらりとした青年がリョウスケめがけて走ってきましたよ。
「やぁ!先輩どうされたのですか⁉」
「おぅ、ショウゴ!お前こそ、めずらしいなぁ!どうしたんだ?」
「バドミントンのインカレで明日から神戸なんで仲間と必勝祈願にきたんです!」
「おうそうか!でもなんでこの大野湊神社なんだ?お前ん家はここの氏子だったか?」
「いえ、ただ、ここが何となく好きなんです。気持ちが落ち着くというか」
「そうかぁ…頑張ってこいよな、ベスト4に入ったら焼肉食わせて祝ってやるぞ~!」
「はーい、それじゃ!」
「珠姫様、姫! どうされましたか?」
「おい、おい、たま!いかがしたのじゃ?」
「リョウスケ、今の方は?どなたなの?」
「あぁ、大学の後輩で、ショウゴといいますが彼がなにか?」
「お願いねぇ、あの方をもう一度呼び戻してください…あの方、利常様です」
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