韓非子を読んで刺さったことまとめ 後編「善意に頼るな、ルールを決めろ」
前編の続きです。
それでは、11篇以外の内容をざっくり?とまとめてみたいと思います。
前編でも言いましたが、自分の中で勉強になるなーという部分を抜粋しています。韓非子のすべてを網羅しているわけではありません。
あと全体的に、会社に例えているものは私の解釈だとお考えください。
あと、7,000字超えてしまったので覚悟してお読みください。
法と術
韓非子の中で、何度も記述され、「どちらか一つも欠けてはならないもの」とされているのが、「法」と「術」。
「法」は今の法律。「術」は、君主の持つべき「スキル」と自分は解釈しました。
安定して国を治められる法
韓非子には、「国を治める人が明君であり、道徳のある民しかいないのなら、法がなくても国は治まる」とあります。
けれど、韓非の生きた戦国時代では、そうではなかった。
才覚のない普通の君主でも、道徳のない民でも、法と賞罰を設ければ、国は治まる。
それなのに、なぜ法を使わないのか?というのが、韓非の考えです。
誰でも理解できる、誰でも守れる法を作る
ルールははっきりと、具体例を詳しく書くこと。
頭の良い人にしか理解できない、行えないルールを作ってはいけない。
法は貴賤に関係なく平等である。
法に従い、親しい者も疎遠なものも等しく賞罰を与える。
身内や重臣だからといって、法を免除してはならない。
罰を与えることより、法を守らせることが大事。
法を破ったものを罰することは大切だが、それよりも大事なのは、法をすみずみまで広く行きわたらせること。法を守ることは良いことで、法を破れば厳しい罰が下ることを誰もが解るようにし、罰を未然に防ぐこと。
法や賞罰でコントロールできないものは排除する
法を破る者を排除するのはもちろんだが、賞すべきことをしたのに、褒賞を受け取らない者についても、排除する。
法を守らないことを良しとする者は、国を乱すもとになる。
ものごと、人物を正しく判断するために大切な術
韓非子には、「人君としての災害は、人を信用することから起こる」というくだりがあります。
君主と臣下の関係は利害関係でしかなく、臣下は君主の様子をうかがい、どうすれば自分が利益を得られるかを考えている、と。
なので以下、かなりドライな考え方が述べられます。
誰にも心を許してはならない人生は、なかなか普通の人間にはしんどいな、と個人的に思いました。
君主は、自分の考えや好き嫌いの感情を表に出してはならない。
臣下は何かにつけて君主に取り入ろうとする。
だから君主は慎重に発言・行動し、考えていることを誰にも悟られてはならない。
自分の意見は何も言わず、何も知らないふうにふるまうと、
「こういう意見を言っとけば気に入ってもらえるだろ!」ということができなくなるので、臣下は自らの意見を言うようになる、ということです。
君主は自ら動かない
君主は常に第三者的な立場に自分を置き、自らは動かず、臣下に仕事をさせ、臣下の向き不向きを見定める。
君主自身は物事を考えず、臣下に考えさせて判断する。
臣下に考えさせると、自分に利益になる発言をするんじゃないの?となりますが、これを防ぐのが後述する「発言と実績」です。
臣下と一緒に仕事をするのはNG。
自ら動き考えるということは、意思表示をしていることと同じ。
つまり、君主の好き嫌い、得手不得手が明らかになることになり、それにつけ込むものが出てくる。
また、君主自ら動いて失敗した場合、君主に直接不満がいくことになる。
臣下に考えさせて間違っていた場合、それは臣下の責任になるからね、という考えです。
臣下の意見や進言を、他の人に漏らさない。
たとえば、役員からの意見を、社長が秘書に相談していたとする。
それがバレると、「社長は俺たちの意見を秘書に相談して決めてるらしいぞ。秘書にメリットのあるような提案をすれば、自分の意見を採用してもらえるんじゃないか?」と考えるようになる、ということです。
国的には、君主の素行よりも「術」を持っているかの方が大事
もちろん、国政をおざなりにしていればいずれは国は滅びるが、臣下の言うことをはっきり見分けることができれば、たとえ趣味にかまけていたとしても、国はある程度存続する。
逆に、臣下を見抜くことができないなら、たとえ君主自身が質素堅実に生きていたとしても、国は自然に滅びる。
君主の握るべき2つの権力「刑罰」と「恩賞」
刑を重くするのは、罪人を責めるためではなく、罪を防ぐため。
良かれと思って刑罰を軽減することは、刑罰を侮って罪を犯す者を増やすことになる。
生活を十分満たして慈愛をかければ、刑罰は軽くてもうまく治められるというのは間違いだ。
人は、生活の資材が十分にあれば努力を怠り、取り締まりが緩やかであればのびのびと悪事を働く。
困窮していないのに懸命に働くのは聖人だけで、普通の人間はそうではない。
ここも考えは一貫していて、『他人の善意に期待をするのではなく、ルールを定めて守らせろ』と言うことです。
褒賞が手厚く、正しく与えられれば、臣下はよく働き仕事を惜しまない。
功績の多い者には地位を与え、努力を極めた者には恩賞を厚くする。
つまり、社員に何かさせたければ、インセンティブを用意すべきだということ。
韓非子的に言えば、インセンティブもないのに努力するのは聖人だけだ。ってところですかね。
例えば、収入が一定以下の人にお金を支給する「生活保護」は、韓非子的に言えば収入が一定以下の人に「褒賞が与えられる」つまり、それを「国が推奨している」ということになるから、韓非子的にはNGってことになる。
(現行の生活保護制度を否定しているわけではなく、あくまで「韓非子的には」という例です。)
韓非子的にはベーシックインカムもダメそうだな。
逆に「子供を産んだら給付金」であれば、子供を産むことが国にとっての利益であり、それに対して賞を与えるわけなので、「韓非子的には」理に適っている、ということですね。
繰り返しますが、「韓非子的にOK/NG」というのは、「韓非の生きた時代とその時の社会のしくみの中ではOK/NG」ということです。
賞罰の決断は自ら行い、賞罰の権限を他人に与えてはならない
たとえば社長が、「今度、君の部下のA君を昇進(もしくは降格)させようと思うんだよね~」と事前に部長に漏らしてしまう。
部長は、部下Aに対し「俺が社長に進言したから、そのうちお前は昇進(降格)するぞ」と辞令が出るよりも先に伝える。
部下Aは部長が決裁権を握っていると思い、社長よりも部長に気に入られるように動くようになる。
たとえば部長が、「社長が社員の降格辞令を出すと、社員から悪く思われますよ。降格人事については、ぜひ私に一任してください!」と提案し、社長の了承を取り付ける。
部長が降格人事の権利を持つことで、社員は部長のことを恐れ敬うようになる。部長の勢力は大きくなり、社長を脅かす。
つまり、賞罰の内容を他人に漏らしたり、賞罰の権限を他人に譲渡したりするのは、自分の権力を削いでいることになるので、やるな。ということ。
発言と実績
発言はそのまま「言ったこと」。
実績は、「言ったとおりにやった結果」と解釈しました。
「言ったこと」と「やった結果」が一致していることが大切
臣下を見極めるには、意見を述べた臣下に、それに見合う仕事を与えること。意見通りに仕事をし、実績を残せば賞を与え、そうでなければ罰を与える。
「言ったこと」を確かめもせず鵜呑みにしてはいけない。
口の上手い人がもっともらしいことを言うと、その通りかも!となってしまいがちだけど、言っていることは何なのか、論点がずらされていないか、冷静に判断しよう。
重要なのは、「進言した言葉と、実際の成果が異なるから罰する」こと。
つまり、「進言以上の成果が上がった場合も罰する」ということ。
これは、大きな成果が上がったことよりも、「進言した言葉と、実際の成果が一致しないという害のほうが重大」だと考えるからです。
言い損も黙り損もない
発言することがよしとされる世界では、実績がなくとも、もっともなことを言っていればよいということになる。
発言には必ず責任を持たせ、その発言通りに実践することを求める。
一つのことについてたくさん進言をする臣下は、その中から君主に選択させ、自分の責任を免れようとしている。
君主は、一つの事柄について一つの進言しか認めず、必ずその一つに責任を負わせること。
臣下には必ず発言の責任を取らせ、発言しない者についても、必ず意見を求めて責任を追及する。
発言にも沈黙にも、責任が伴うということを示すべきである。
今の世の中、声の大きい人が有利になりやすいじゃないですか。それを否定するとともに、「声を上げないことも無責任だ」ということを言っている。
ほんとにそうなんだよな~と頷くしかなかった。
批判するなら代案を出せ
食事を自分で用意することもできないくせに、飢えた人に食べ物を与えよと言うのは、飢えた人を生き延びさせる者とは言えない。
「自分ではアイデアもないくせに、人に解決することを求める」のを、賢明な君主は受け入れない。
ほんとにそうなんだよな~~(2回目
上に立つ者の心構え
自分の問題として考える
自国が侵害されるかどうかは、自国の問題であり、他国の状況を問うのはおかしい。自国が他国に侵害されないような力を付けていれば、相手の強さは関係ない。
力もつけずに他国の状況をうかがっているようでは、侵害されないのはただの運であり時間の問題である。
これ、自国を「自分」、他国を「会社」、侵害を「クビに」として読み替えてみるとなかなか趣深い文章になります。
感情に振り回されない
臣下の言うことが気に入ったときは、「臣下が自分に何を吹き込もうとしているか」探る。
腹が立ったときは、相手が何を仕組んでいるかを見極め、感情が落ち着いてから判断をくだす。
君主が自ら行わなければ、庶民は信じない。
たとえルールを決めても、リーダーがやらないのでは部下には浸透しない。
いわゆる「先ず隗より始めよ」ってやつですね。
みんなこれルールだからやれよ!って言ってる側が全然やらないってこと、マジでよくありますよね(個人の感想です)。
情報を得るときの心構え
特定の人間のみを介して情報を入れることを避ける(その人物のフィルターを通った情報しか入らなくなるため)。
本当に判断が難しい事は、賛成が半分、反対が半分になるものだ。もし意見が極端に偏っている場合は、疑いを持ち、詳細を調べる。
絶対にあり得ないことでも、周囲の人がそう言えば真実だと思い込んでしまうことがある。その危険性を認識し、常に肝に銘じるべきだ。
意見を聞くときは、公の会議を開く場合であっても、まずは一人一人に意見を聞き、文章に残す。
会議の発言と事前の意見を照らし合わせ、多数に迎合するだけの人を見分けることができる。
その他心がけ
優秀か否かの判断はするが、愛憎による差別はしないこと。
愚か者と知恵者の判断はするが、誹|《そし》ったり褒めたりはしないこと。
客観的な基準で物事を考え、勝手な推測はしないこと。
互いに約束を守り、騙しあいのないこと。
臣下を見極めるコツ
貞観政要には「部下を試してはならない」という記述がありますが、韓非子には下記のような内容が書かれています。
偽の情報を渡すなどして臣下の才能を試す。
これはわかりにくいので例示を。
例:
大臣が部下に、「役人Aの家に、毎晩馬車に乗って行く者がいるらしいので、様子を見に行ってほしい」と指示をした。
部下は翌日、「馬車は見ませんでしたが、何やら箱を持っている者とAが話しており、Aが箱を受け取っているのを見ました」と伝えた。
大臣は、役人が賄賂を受け取っているのではと疑っていたが、部下にあえて正しい情報を伝えないことで、正確な情報を得ることができた。
つまり、「賄賂を受け取っているようだから確認してくれ」と伝えると、部下が大臣に気に入られようと、もしくは役人を貶めようとして、偽の情報を伝えてくる可能性があるから、異なる情報を与えて正確な情報が何かを確認する、ということですね。
間違ったことをわざと言い、自分に迎合する臣下がいないか試す。
こちらも例示を。
例:
宮中にいる王が、「門の外に白馬が駆けて行ったようだが見えたか?」と嘘を言った。
ほとんどの臣下は「見えませんでした」と言ったが、一人の臣下が外に出て行き、「見えました」と言って戻ってきた。
こういって誠実ではない臣下をあぶりだしていた。
臣下の仕事のさせ方
一つの仕事に集中させよう
自分の職務を超えて業績を上げようとする臣下には、罰を与えるべきだ。
それぞれの官職ごとの職分が互いを侵害するようになると、臣下同士の対立を生み、互いに讒言しあうきっかけを生む。
つまり、「良い社長は、社員の仕事の範囲がぶつからないようにしてもめごとを防ぎ、社員には仕事を兼務させずに一つの仕事に特化させ、他の人が業務に口出しできないようにして争いを防ぐ。」ということ。
自分が今まで勤めてきた会社では、ふんわり分業はするものの「足りない部分はみんなでサポートし合おうぜ!!」という雰囲気でしたが、仕事ができる人がサポートするので仕事量が増え、仕事ができない人は仕事量が減る。
でもサポートしたところでインセンティブがあるわけでもなく、サポートした人が損をする。
逆に、サポートしないと「お前気が利かないやつだな」と言われる始末。
仕事の範囲がぶつからないようにし、一つの仕事に特化させることで、仕事内容が明確に線引きされ、グレーな部分がなくなり、この不毛な文化がなくなるのでは??
という気持ちがふつふつと湧きました。
余談になりますが、自分がこれまでの会社員経験で学んだのは、「足りない部分はみんなでサポートし合おうぜ!!」というのは、全員がその意識を持っている職場でない限り成立しないということです。
さらに余談ですが、この文化が奇跡的に根付いていたある職場は、その姿勢がルールではなく、信頼の厚いリーダーによって成り立っていたので、リーダーが変わった瞬間に崩壊しました。
国が亡ぶ兆候
傾きかけている国の特徴。これだけですぐに国が亡ぶわけではないが、
ここに何かしらの外部要因が加わると、滅んじゃうかも…というものです。
具体例がすさまじく多かったので、ざっくり分類して紹介します。
君主がダメ
感情的で気が短く、思ったことがすぐ顔や態度に出て秘密を隠しておけない。
優柔不断で発言が二転三転する
頭はよくても行動しない。決断力がない。
臣下の進言も聴かに自分勝手にものごとを進め、自分で定めた法を破る。
仕事をおろそかにし、指示も大まかで失敗しても反省しない。
貪欲で贅沢を好み、趣味に傾倒する。
礼節をわきまえず無礼な態度をとる。
(ただの悪口じゃん…笑)
力関係がねじれている
力関係がねじれていると、争いを生む原因になる。
君主の権力よりも大臣の権力が強く、民衆も君主より大臣を信頼しているが、君主がそれを問題だと思っていない。
嫡子(正当後継者)よりも庶子(後継者でない子供)が優遇され、正妻よりも妾が尊ばれ、大臣よりも取次ぎ役のほうが重用されている。
君主よりも太子(次期後継者)のほうが臣下も多く、実力がある。
法が守られない
重用している臣下の意見を、真偽を調べず鵜呑みにして採用する。
侍女や妾など、政治に詳しくない者の意見を採用し、法に外れたことをする。
君主の親族に功績以上の恩賞が与えられ、贅沢をしているが、君主がそれを禁止しない。
功績のない者が高い位につき、実績のある者の身分が低い。
コネで官職が得られ、地位や褒賞が賄賂によって決まる。
臣下について
外国から来た者が、財産や家族を自国に置いたまま、リスクを取らずに政治に参与する。
君主が大臣を辱めておきながら、傍に仕えさせたままにしておく。(恨みを持った臣下をそばに置いておくと、謀反を招く。)
大臣同士や、君主の親族同士が権力争い・勢力争いをしている。
対外関係
地勢も弱く財も蓄えもなく、防御も十分でないのに軽率に他国を攻める。
小国で、力が弱いにもかかわらず、他国に対し無礼な態度をとるなど外交力がない。
その他
自分のためにしていると思って行動する
人のためにしていると思うと、相手が礼も言わないことを責めたり恨んだりすることになる。
人々が人生を楽しいと思わなくなれば、君主は尊重されないし、死ぬことを嫌がらなくなれば、君主の命令には従わない。
『社員が不満を持っていれば、社長は尊重されないし、クビになることを嫌がらなくなれば、会社の命令には従わない。』
と勝手に読み替えると、なかなか趣深くしみじみとしました。
表から見えるものだけでなく、その理由を考える
車職人が「人が金持ちになるように」と願い、棺職人が「人が早死にするように」と願うのは、車職人が善人で棺作りが悪人だからではない。
車職人は人が金持ちになると車が売れ、棺職人は人が死ねば棺が売れるからである。
つまり人は、善悪の感情は関係なく、利益を享受できる方を望むということ。
また、ある人は知識人を集めて主君を助けたが、別のある人は知識人を集めて国を混乱させた。
二人とも同じことをしているが、何のために知識人を好むかが違う。
つまり、表向きの行動を見て判断するのではなく、「どうしてそうしているのか」をきちんと見極めなければいけない。ということ。
おわりに
前編後編に分けたのに後編だけで貞観政要をはるかに超える文字数になってしまった。
たぶん、例示や自分の感想・実体験を交えなければ短くはできたと思いますが、それだときちんと理解できないというか。
見出しだけ読めば、「言ってることはもっともだし、そうだね。」ってなるんですけど、なんでそうするのか、そうしないとどうなるのか、それが解らないと本当に自分の糧にならないんですよね。
貞観政要、韓非子ときたので、次は君主論か菜根譚を読みたいなあ。と思っています(まとめるかは不明)。