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ゲヴュルツトラミネールを食べに行った話

ワインの仕事に携わるようになって約6年。
数あるブドウ品種の中で、最も好きなのがゲヴュルツトラミネールだ。

ブドウとは思えない、ライチやグレープフルーツの華やかな香り
香りの華やかさに関しては、他のどのブドウ品種とも一線を画し、グラスに注いで香りをとるだけで(なんならコルクを香るだけで)幸せな気持ちになる。

ゲヴュルツトラミネールの特徴的な香りは、発酵中に生じるものではなく、ブドウ自身に由来する香りだと言われている。

ならば、ブドウそのものから華やかな香りがするのか?
醸造前のブドウ自体はどんな味わいなのだろう?

というのをここ数年、漠然と気になっては忘れ、を繰り返してきた。
まとまった休みを取るのは難しいし、ブドウの収穫のタイミングだって年によって違うだろうから予定も立てづらいだろう…
などと思ってあきらめていた。

それが、今年の4月に会社員を辞めたのをきっかけに、ようやく行動に移すことになったのだった。


ワイナリーに問い合わせ

まずはゲヴュルツトラミネールを栽培しているワイナリーを調べて、問い合わせてみることにした。

普通に考えて、収穫期のクソ忙しいタイミングで、素人が訪問させてください!(しかもブドウを食べたいなど)と言っても無理があるだろうなと思っていたので、1件目は当然のごとく断られた。

そこではじめて気づいたのだが、ワイナリーに一切メリットがないんだよな、この提案(最初に気づけ)。

自分が逆の立場でも、何処の馬の骨とも知らないヤツに、ワインの勉強してます!ブドウ食べさせてください!と連絡が来たら許可するか?と考えると、無理だろ、ということは容易に想像できる(最初に気づけ)。

そこで色々と調べると、様々なワイナリーで「オーナー制度」が設けられていることを知った。

ワイナリーによって差異はあるが、概ね、ワイナリーにお金を支払うことで、植樹や収穫の体験ができたり、ワイナリーのワインが送られてきたりするというサービスが受けられるしくみだ。

これだ、と思った。

そもそも、無料タダでゲヴュルツを食べたい!などという厚かましい考えでいたわけではない。こちらが対価を払っているならば、お願いも通りやすくなるのでは?と考えた。

早速、そういった制度を導入しており、かつゲヴュルツトラミネールを栽培し、収穫体験もできそうなワイナリーをピックアップし、問い合わせ。

様々問い合わせた結果、あるワイナリー様に承諾していただくことができた。(本当にありがとうございます)

これで人生で抱えていたモヤモヤが1つ解決する!
うれしい。

さっそくオーナー制度に申し込み、(訪問日を事前に調整させていただき、)ワイナリーに向かった。

ワイナリーまで行くよ

自社畑を持つワイナリーのほとんどは交通の便が良い場所にあるわけもなく、最寄り駅から最寄りのバス停までバスで20〜30分、そこから徒歩で約30分。

この日は雨の予報だったがギリギリ降っていない。

この景色が15分くらい続きます。

稲がきれいですね。

その後、大きな道路沿いに出て、10分ほどでワイナリーに到着。
メールでやり取りをしてくださった方と、本日ご案内いただくワイン担当の方にご挨拶。
早速軽トラで畑まで案内いただくことに。

収穫前のクソ忙しい時期に本当に恐縮すぎる待遇だ。
(オーナー会員として)数万円払っているとはいえそれにしたって恐縮すぎる。

畑についたよ

そして念願のゲヴュルツとご対面。

ここの列全部ゲヴュルツ!!!

縮小してごまかしているがテンション上がり過ぎて写真のブレがひどい。

最初はゲヴュルツトラミネール!

動揺し過ぎてピントが合わない様子。他の写真もだいたいこんな感じで苦笑い。

結論から言おう。

ライチの味なんて全くしない!!!!

あのゲヴュルツ特有の香りも一切ない。

不思議!!!!!

お話を伺うと、なんでも圧搾する段階でようやく、ゲヴュルツらしい香りがしてくるのだとか。

いやー、流石にあんなに華やかな香りなんだから、ブドウの段階でも少しくらい片鱗あるやろ、と思っていた。

まったく ない!

フツーのブドウだ。

シャインマスカットなどの生食用の、大粒で甘いブドウではなく、学校給食で出てくるような小粒のブドウ。

ただし、種が多いのと、果皮を押すと、果皮に果肉がかなり張り付くため、口に入ってくる実はかなり少なく感じた。

ゲヴュルツはあと数日で収穫、とのことだったので、思っていたほど酸っぱくはない。種が多いのでそのまま食べるのは難儀するというか、食べられる箇所が少ないという印象は受けた。

そしてせっかくなので、と他のブドウ畑にも案内いただいた。恐縮すぎる。

ピノ・ノワール様

網がかかっているのは鳥よけのため。ちなみに網からはみ出した房のブドウは全部消えていた

淡いルビー色のワインのイメージから、もうちょっと果皮の色が淡いと勝手に思っていたので、メルローですか?と聞いてしまった。
ピノ・ノワールです。

見た目の黒々としたツヤに反して、酸味はあるもののキレイな味わい。果皮もそのまま食べたがそれほど渋みを感じず、ピノらしいといえばそうかな~という印象。
まあ、ブラインドで食べたら絶対わからないと思うけど…。

メルロー様

もっとたわわに実っているところ撮りなさいよ…という自責の念にかられる

こちらがメルロー。(全然わからん)
メルローはそもそもワインになっても味に個性がないので(超失礼)、ブドウを食べてもワインと似たニュアンスは感じられなかった。しいて言えば、ピノよりは果皮が渋かったかな?という感じ。

シラー様

シラー。強そう(個人の感想です)

シラーと言えばスパイシー。ですがブドウの段階では当然スパイシー感はない。メルローと比べると果皮はやや渋いか?といった具合。

余談 収穫について

この畑で、ひとつの房なのに色づき具合がバラバラになっているブドウを発見。

こういうのは1粒ごとに収穫するのだろうか?でもそれ大変すぎない?と思い質問したところ、醸造用には使わず、房ごと落としてしまうそう。

ちなみにこちらのワイナリーでは、収穫はすべて手作業。選果は収穫時に1回のみ行い、醸造所に運んだらすぐ圧搾するとのこと。

ネッビオーロ様

そしてこちらがネッビオーロ。

日本でネッビオーロを栽培しているのか、と驚き。ネッビオーロと言えばバローロ。聞けば、オーナーがバローロにあこがれ、植樹されたとのこと。

ネッビオーロは開花は一番早いが、果実の成熟は一番遅いとのことで、確かに食べさせてもらった中では一番酸っぱく、果皮も渋い。青さもやや感じた。

ネッビオーロは栽培しているのに、赤ワインの王道品種であるカベルネ・ソーヴィニヨンはないんだ、という素朴な疑問が浮かんだのでお伺いしたところ、カベルネ・ソーヴィニヨンは、気候的に合わないため栽培されていないそう。

こちらのワイナリーは海寄りの場所に位置するのですが、内陸の盆地的な気候の方が、カベルネには合うんだそうです。

勉強になる〜〜〜!

余談 栽培について

ちなみに、畑には房ごと落ちているブドウがちらほら。

もれなくブレる写真。

専門的な話になりますが、こちらの畑では、仕立ては垣根仕立て(ギュイヨ・サンプル)。また、一つの枝に2房だけをつけるようにして栽培されています。
写真は余分な房として間引かれたブドウです。

他の果物でもそうだと思いますが、ひとつの木につく実が少ないほど、栄養がたくさん届くので凝縮感のある果実になります。つまりワインにも凝縮感が出るということになります。

ただ、間引くとそのぶん収穫量が減りますから、できるワインの量はもちろん少なくなります。

さて、トラックに揺られて(本当にありがとうございます)次の区画へ。

ソーヴィニヨン・ブラン様

もっといい写真撮れなかったんですかね?ホントに

こちらがソーヴィニヨン・ブラン。

ブドウは一切香らなかったゲヴュルツトラミネールですが、ソーヴィニヨンブランは、晴れの日は少しグリーンな香りがすることもあるそう。

周辺を香ってみたが確かに青い香りが…?!と思ったが、単に下に生えている青草の香りだった。がっかり。

ピノ・グリ様

ピノ・グリ。メタリックでかっこいい~!(小学生かな?)

ゲヴュルツを見たときも、グリっぽい色合いだなーと思ったんですが、ピノ・グリはもっと力強い色合い。

ブドウとは思えない色合い

ゲヴュルツもピノ・グリもグリ系の品種です。グリ(gris)とはフランス語。英語でグレー(gray)、つまり「灰色」のこと。ざっくり説明すると、灰色を帯びた紫色の果皮を持つ品種のことです。

普通白ブドウは、先程のソーヴィニヨン・ブランのように青~黄色の色合いなのですが、グリ系は黒ブドウまではいかないけれどそこそこ紫みがかった果皮。ちなみに日本といえばの甲州もグリ系の品種です。

最後はシャルドネ!

絶妙にピントの合っていない写真をとる技術に定評があります

最後は白ワインと言えば、のシャルドネ。
ソーヴィニヨン・ブランと比べると少し黄色味を帯びた果皮。

なるほどこれでソーヴィニヨン・ブランとシャルドネを見分けることができるぞ!(見分ける機会があるかは不明)

以上のブドウ畑にご案内いただきました!
現場からは以上です。

結論

ほとんどのブドウは、樹にっている段階では、ワインになった時に感じられる特徴的な香りを持たないことがわかった。
(ただし、ソーヴィニヨン・ブランに関しては、淡くグリーンな香りが感じられるときもある、ようです。)

(ゲヴュルツトラミネールに関しては、)圧搾した段階ではじめて特徴的な香りが出るというのは、本当に不思議だ。
果皮の外側に果肉・果汁が接することで、果皮についていた酵母と果汁とが反応して香るのだろうか?
それだったらブドウを粒ごと食べた瞬間に香りが出るはずだけれど、それは一切感じられなかった。
大量に圧搾しないと香りが出ない(感じられないくらい微量の香り成分)という可能性もあるか。

これは、ゲヴュルツトラミネールの苗を自分で買って育てて収穫して、潰してみるしかないかな?(アルコール発酵させると密造酒になってしまうので、果汁はすぐ飲む必要があるけれど、香りを確認したいならそれで充分だろう。)
それはそれで面白そうだ。

疑問は尽きないが、改めて思うのは、ワインって本当に不思議な飲み物だな。ということ。

あまりにも素敵すぎる体験をさせてもらったので、情熱のままに記事を書きました(実際は訪問からだいぶ月日が経っているが)。

謝辞

どこの馬の骨とも知れない者の突然の問い合わせに丁寧にご対応くださり、収穫前のお忙しい中、諸々手配をしてくださったワイナリーの皆様に、この場を借りて深く御礼申し上げます。
※ワイナリー名を出すと、「ここに行けばゲヴュルツが食えるぞ!」と変な話題になってしまうのは困ると思いましたので、ワイナリー名の共有は控えさせていただきます。

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ゆーり
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