秋です、伊良子清白の「漂泊」もオススメ
むしろ戸に 秋風吹いて
川沿いの旅籠屋(はたごや)さびし
哀れなる 旅の男は
夕暮れの空を 眺めて
いと低く 歌いはじめぬ
亡き母は 処女(おとめ)と成りて
亡き父は 童(わらわ)と成りて
銀河を 渡る
旅人は 歌ひ続けぬ
嬰児(みどりご)の
昔に かへり
微笑(ほほえ)みて
歌いつつあり
(追憶)
男J、女A、結婚歴50有余年。
二人が歩いてきた道は間違えていなかったようである。
誰かさんと誰かさんが麦畑、こっそりキスして いいじゃないか。
そして結婚、死が二人を分かつまで、幸せいっぱい 添い遂げた。
意見の食い違い、といえば、旅行先をどこにするか、くらい。
A女は、外国大好き、とりわけ、パリにはぞっこん惚れこんだ。
「雨の朝パリに死す」というアメリカ映画の題名みたいに、
生涯を終わりたい、とまで。
J男はといえば、日本のひっそり閑とした里山を好んだ。
しみじみ親への愛惜を歌う伊良子清白の「漂泊」に想いを重ねてみる。
哀れに見える男が夕暮れの空に向かって、ボソボソと呟くように歌う
のは、妻に早逝されたのであろうか?
パリで映画女優マリー・ルイズ・ダミアのシャンソンを聴き、自分をヒロインに見たてるA。
道後温泉に浸かり、土佐の高知の宿屋で、クジラを肴に大酒を食らい、坂本竜馬を気取るJ。
でも、JはAに従い、欧州に出かけたし、シャン・ド・マルス公園南東の端っこにある旧陸軍士官学校前からエッフェル塔へと進路をとり、ナポレオンに想いを馳せながらオイチニ、オイチニと散歩したこともある。
半面、AはJと共に、島根、鳥取の温泉郷を訪れ、夕焼けが綺麗な湯の里も散歩した。
この時、J&Aは珍しく、スコットランド民謡 Comin thro `the Ryeを日本語版で合唱したのだった。
夕空晴れて 秋風吹き 月影落ちて 鈴虫鳴く
思えば遠し 故郷の空 ああ我が父母 いかにおわす
秋の気配、伊良子清白の「漂泊」は色んな連想を誘いました。(終わり)
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