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世界を理解する「身体性」
トンビは風を見つめるとき、単にその存在を認識するだけではありません。風への働きかけの可能性(アフォーダンス)と、風から働きかけられる可能性(逆アフォーダンス)の両面を見抜き、それらの完全な一致の中に風の本質的な意味を理解します。この特化型の身体性において、思考と行動は完全に一体化し、羽ばたくことなく最適な飛行が実現されるのです。自然界では、生物は長い進化の過程でこのような特化型の完全な一致を実現してきました。この意味と行為の完璧な調和こそが、世界の自然な美しさなのです。 一方、人間は万能型の身体性を獲得する方向で進化してきました。そのため人工環境では、アフォーダンスと逆アフォーダンスの不一致が起きやすく、それが行動の失敗を引き起こします。扉の例では取手があるのに押し扉の場合が示すように、人工的な手がかりはかえって誤った行動を誘発することがあります。これは特化型の自然界ではほとんど見られない現象です。しかし、この不完全さこそが、人間に無限の可能性をもたらしているとも言えます。 世界に内在する意味を正しく認識するためには、持続的な身体性を伴った双方向の理解が必要です。人間の場合、それは一時的な観察や一方向の関係性だけでは得られない、時間をかけた継続的な関わりの中で培われるものです。世界には意味が内在しており、その意味は私たちが世界に働きかける可能性と、世界から働きかけられる可能性の両面から成り立っています。私たちは特化型ではなく万能型として、この意味の認識に身体と思考の両面から取り組まなければなりません。それは時として試行錯誤を必要としますが、そこにこそ人間ならではの理解の深さがあるのです。