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核反応の本質を解く鍵 — 結合エネルギーが紡ぐ『質量消失の誤解』を超えて
核分裂や核融合でエネルギーが放出される仕組みは、従来「質量がエネルギーに変換される」という単純化された形で説明されることが多かったのですが、その本質はより深いところにあります。それは「結合エネルギー」という概念で統一的に理解することができます。
原子核内では、核子(陽子と中性子)同士が強い核力によって結びついています。この結合には「結合エネルギー」という形でエネルギーが蓄えられており、アインシュタインのE=mc²によれば、このエネルギーは質量として観測されます。しかし、強い核力には重要な特徴があります。それは非常に短距離でしか働かないという性質です。
この性質により、原子核の大きさによって核子間の結合の効率が変化します。小さすぎる原子核では核子の数が少なすぎて効率的な結合が形成できず、大きすぎる原子核では距離が離れすぎて核力が十分に働けません。その結果、核子あたりの結合エネルギーは、鉄(原子番号26付近)で最大となります。
これは最適化問題として理解することができます。それぞれの原子核は局所的な安定状態(局所最適解)にありますが、十分なエネルギーが与えられると、より安定な状態へと遷移できます。軽い原子核は融合によって、重い原子核は分裂によって、より効率的な結合状態に移行することができ、その過程で余分となった結合エネルギーが放出されるのです。
このように、核反応におけるエネルギー放出は、核子が消滅したり変化したりするわけではなく、核子間の結合の仕方がより効率的になることで余分となった結合エネルギーが解放される現象として理解することができます。この理解は、一見複雑に見える核反応の本質を、結合エネルギーという単純な概念で統一的に説明できる物理学の美しい例と言えるでしょう。