胸さわぎの腰ぎんちゃく
同志Aからのお題:腰ぎんちゃく
大漁だー! その昔、籍を置いた会社は、腰ぎんちゃくの宝庫だった。ざっくざっく。
社長は出世ルートの外縁部からひたひたとトップに上り詰めた家康型。創業家の力を封じ込めるのに成功し、直下の剛腕リーダーをごぼう抜きで事実上のナンバー2に据えた。上に忠誠、下に剛腕な彼の周りには、いつもピリピリとした空気が漂っていた。
毎月のグループ全体の会議には、各部門、新規事業、子会社の代表らが全国各地から集まり、1日がかりで進捗を報告していく。
ある古参幹部の番が回ってきた。社を代表する重鎮の一人だ。しかし報告の途中で、社長が携帯電話(当時はガラケー)をいじり始めた。関心ないのかな、と思っていたら、社長の隣で静かにしていたナンバー2から突然、大先輩である古参幹部に容赦ない質問が次々と。幹部は慎重に言葉を選びながら答えていたが、何とも気の毒な光景だった。
休憩時間に「あれは、社長がおねえちゃんにメールしてると見せかけて(ナンバー2に)指示を出してるんだよ」と社内事情に詳しい社員がこっそり教えてくれた。真偽のほどは定かでないが…。
ナンバー2の配下にも「強気を助け 弱気を憎む」輩がごろごろ。その中の1人は、上司の前では覚えめでたき好青年を演じつつ、中途入社の私には別の顔を見せる。彼が担当している分野について電話で尋ねた際、こう返された。「これぐらいも知らねえのかよ、バーカ」。耳を疑うとはこのこと。半ズボン小学生並みの「バーカ」を社会人になって聞くとは思わなかった。
次の会社でも、現場を取り仕切る常務が社長の腰ぎんちゃくで参った。ゴマをすりつつ、癇癪持ちの社長から怒られるのが彼の日課だったが、その怒りを社員に無変換でぶつけてくるのだ。
ある夏の日、社員総出で社屋地下の倉庫を大掃除した。常務の指示で、不要なものはブルーシートをかけて、ごみ収集日まで1階の空きスペースに保管することに。しかし翌朝、隣の建物に近い置き方を見て、社長が「放火されたらどうするんだ! 隣が燃えるぞ」と常務に激高。すると彼は自分が指示したはずなのに、社員に「放火されたらどうするんだ! 隣が燃えるぞ」と怒鳴り散らす。一堂、呆気に取られた。
ジンベイザメなどにくっついているコバンザメは、サメではなくスズキの仲間だそうだ。白身で旨いらしいが、腰に巾着をぶら下げた人間界のコバンザメは、煮ても焼いても食えないねえ。
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