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【ダメ、絶対シリーズ/新規事業編】(5分で読めます)

読んでいただきたいのはこんな方

  • 会社で新規事業を企てている経営者またはお勤めの方

  • 起業をしようと考えている方


新規事業は危険な香り

先日まで、約10年従業員150人弱、売上150億円弱、営業利益8億円強の総合広告会社のCOO、CEOをしていました。その間、社員発案や自身での発案の新規事業を行ってきました。一般社団法人を立ち上げて、独立的に動かす組織もいくつか作ったりもしました。

社員が若いこともあり、新規事業!と言うと目を輝かせて、我も我も、と提案してくれました。もちろん、それら全部を通すわけにはいきません。精査に精査を重ねてやっていこうと決めたものでも、数年で立ち消えや手仕舞いをしました。

また、診断士としてさまざまな企業の新規事業案件にも携わってきました。特にコロナ禍で始まった事業再構築補助金は新規事業バブルを生みました。こうしたものの実体験や見聞もここでお話できることはしたいと思います。

そうした自身の経験に加えて、クライアントや同業者のトップの方々や経済同友会に参加されている経営者の皆さんと話してわかったことは、うまくいくのは本当に難しいと言うことです。センミツ(1000のうち3つ)うまくいけば良いという方もいらっしゃいました。そこまでは大袈裟にしても、新規事業の難しさを言い表しているものと思います。

一方でうまくいかない新規事業には総じて、それなりの理由があることもわかりました。そしてそれは、自身の経験と他の自分以上の経験を持たれている方々の話をマージしてみて、一定の共通項があります。

名監督の代表でもある故・野村監督は言われていました。
「勝ちに不思議な勝ちあり、負けに不思議な負けなし」この言葉は、私が今上で述べたことの本質、核心をついた名言です。

野球とビジネス、もちろんルールや作法は違いますが、新規事業でもうまくいくものは、運、とは言いませんが、巡り合わせなど不思議な部分があったりします。ただしうまくいかない(野球で言う負けの)時には必然的な要因があり、そこに不思議な点はないといえます。

そうした負けに不思議な負けなし、となるような新規事業にはどんな共通項があるか、ここではその5つの共通項(ポイント)を挙げていきたいと思います。

うまくいかないケースその1)事業発案が自身のものでない場合

まず最初に挙げたのは、事業提案者が自ら思いついたものでない場合です。なんだ当たり前じゃないか、と思われる方はきっと大丈夫かと思います。一方で、実はこういうケース多かったりします。昨今はSNSの発達でさまざまな情報が簡単に入手できます。新しい事業に関しても、若いスタートアップの起業家が成功している、と言った輝いた話もニュースに溢れています。そうした影響もあるのかもしれません。

社内でも提案に来る社員(総じて若い社員が多いですね)の中でそう言うケースがありました。ある事業提案を受け、その環境分析などは、広告会社に勤めているだけあってできるのですが、そもそもが今周りで成功している事業をトレースしているのでそうした分析からは問題は出てきません。残念なのは、その分析で成功してしまうと思ってしまう点です。

そこから先の事業設計、例えば4Pの考え方、SCMをどう作るか、損益分岐点の計算はどうなっているのか、と言った当たり前のことを聞くと、曖昧にしか答えられません。挙句、投資金額は?と聞くと結構な額を言ってきます。

社内トレーニングの場だと割り切り、最低限の準備はしようねと話しましたが、意外とこう言うケースがあります。スクリーニングのざるで言えば最も目の荒い部分での脱落はこうした自ら発案のものでない新規事業提案です。

うまくいかないケースその2)既存事業とシナジーがない場合

続いてが、既存事業とのシナジーがないケースです。その1のざるの目よりは荒さが小さくなりますが、これもかなり荒い目の割によく見られます。新規事業を単に「自分のところでやっていない事業」と解釈しているとこう言うものが出てきます。冗談のような、こんな提案がありました。「自分は千葉にある親から譲り受けた土地でアパート経営をしています。会社(東京都中央区)の近くの土地を一区画購入してビルを建て、そこの管理を別会社化して自分が経営したいです」と言うものでした。私より年上の先輩社員でした。総合広告会社と言っても剰余金で20億程度の会社です。東京の一等地を買ってビルを建てたらそれだけで消えてしまいます。そしてそこに、親の土地を譲り受けて運用しているノウハウだけを頼りに、会社の将来を託すことができる経営者を私は知りません。

診断士で最近手伝うことの多い事業再構築補助金でも、再構築の事業として
・エステ
・インドアゴルフ
・サウナ
・無人餃子店
・コインランドリー
と言った事業に進出した中小企業が多く、問題となりました。こうした事業で申請した多くの企業は元々全く関係ない事業を営んでいたものの、この補助金があることで触手を伸ばしたものです。さらに言うとコンサルと称して、そうした事業を中小企業にパッケージでセールスするケースもあったと聞きます。

こうした事業は大体うまくいきません。ただし、畳みたいと思っても、その事業を畳むと補助金を返却しないといけないためにっちもさっちもいかないというケースもあると聞きます。こうしたケースを取り上げているYouTubeもいくつかあります。下にその一つを貼っておきます。

中小企業の新規事業では、既存事業が有するリソースやアセットをうまく転用、利活用できることが重要です。事業再構築補助金などでも、そうした点は採択時に見られていました。

もちろん、大企業のコングロマリット化においてはここで言うような話は当てはまらないケースもありますが、最近でいえば楽天グループの楽天モバイルなどは、グループの全ての収益をもってしても支えきれないくらいの大赤字になっていたりします。大企業でもシナジーのない場合は、中小企業と同じことが起きるという例と言えます。
この例を挙げた後、ピッタリのYouTubeがあったので、こちらも上げておきます。ちなみに、このスガワラくんYouTube、とても好きでよく見ています。

うまくいかないケースその3)土地勘がない場合

その2と似たようなポイントになってしまいますが、土地勘のない事業には手を出さない、と言うのが重要です。

シナジーがリソースやアセットの利活用性だとしたら、土地勘は進出事業に対するノウハウやネットワークと言えます。その2のところで貼ったインドアゴルフに進出した企業などはシナジーも土地勘もない最悪のケースと言って良いでしょう。

極端なことを言えば、第3次産業に属している企業が、第1次産業に進出するようなものです。そう言ってふと思い出したのが、ユニクロがかつて野菜事業に進出したお話です。これはある意味この話の最もわかりやすい事例といえます。(ユニクロが第3次産業というわけではありません)

ただし第3次産業に属している企業が、第1次産業と組んで、お互いの強みを活かし、補完関係を築き新事業展開をすると言うような時は、これには当てはまりません。

ブランド米やブランド野菜などはそうした好例です。また、ドローンなどによる生産性向上化イノベーションなども産業を跨いでの好例です。むしろそうした提携(アライアンス)は今後の就労人口が少なくなっていく中での日本産業レベル維持・向上のための鍵となっていきます。

うまくいかないケースその4)レッドオーシャンに飛び込む場合

誰もみすみす飛び込みたくて飛び込んでいるとは思えませんが、こうしたケースも多く見受けられます。特に、発案者がその新事業に対しての思いが深い時には起きがちです。

最近こんな相談がありました。テラスハウスの民泊版を作りたいという事業構想でした。恋愛市場は極めて成熟市場です。また民泊市場もかなりの飽和状態です。その中で、この事業構想は、発案者に熱い思いがあり、どうしてもしたいと言うことでお話を聞きました。

勝ち目という点で、市場をどう見ているかと聞くと実証実験をした何組かで好評だったことと、自分の周辺にやってみたいという知り合いが何人かいるということが裏付けでした。固定費だけはかかるこのビジネスに対して、その先の継続的な集客に対する計画について聞くと、それはこれからということでした。また、恋愛ビジネスに潜むリスクへの対策なども検討されていないと言うことで、もう少し網羅的に潰すポイントを潰して行った方が良いというお話をさせてもらいました。

もっと言うと、今までこう言うものがなかったから、早く始めたいと言うことを言われたのですが、成熟市場において今までなかったものは、ないなりの理由があるかもしれないと伝えさせてもらいました。ここでは、リスクの点、スケールアウトのさせ方などから先行者がいなかったことが考えられます。

スティーブ・ジョブスやイーロンマスクでない限り、成熟市場、すなわちレッドオーシャン市場に飛び込むのは一旦待った方が良いと思います。どれだけ自分たちが食えるスペースがあるかを考えることが大事です。基本的には小さな池の大きな魚を狙うことが中小企業の視点の置き方としてまずは持っておきたい考え方です。この辺りはまた別の機会にお話したいと思います。

うまくいかないケースその5)熱量が少ない場合

最後は、極めて情緒的な物言いですが、熱量です。その1とも関連しますが、自身の中で燃え上がるような熱量でやってもうまくいかないことが多い中、この熱量が少しでも足りないとうまくいくものもいきません。

かつて多くの新規事業に関して提案を受け、また自らも行った中で言うと、このポイントが、成功の鍵を握る最後かつ最大の鍵だと思います。ですので、提案を受ける時には必ず、その提案者の熱量を確かめました。今時の会社でしたので、労務問題に発展するような聞き方はできませんでしたが、それでも、どこまで本気でやりたいかを確かめないことには、みんなが汗水垂らして稼いでくれたお金をそこに投資するわけにはいきませんでした。

全てがうまくいくわけではありませんが、やはり発案者やチームの熱量が高い順に、新事業は発展性と持続性があるというのが実感です。再構築事業でも、心からその事業をしたいという方の新事業は採択されますし、その後もしっかりと回っている傾向にあります。

まとめ

書いていたら、大体は当たり前のことだなあ、って思いました。逆に言うと当たり前のことができないからうまくいかないのだとも言えます。そして、こうした当たり前のことをし続ける胆力と熱量が何よりも大事なのだと自分の中では結論づけています。

新規事業については、この続きを用意していますので、引き続きお読みいただけると幸いです。

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