見出し画像

2021年宇宙の文字

最近、好きだったSF映画を家で見返すことにハマっています。グランドデザインの市川です。

2020年は宇宙開発ベンチャー スペースXによる、初の民間の宇宙船による軌道飛行が行われました。そして2021年には、初の完全民間有人宇宙飛行ミッションの計画が予定されているそうです。そういった流れもふまえて今回は、宇宙とタイポグラフィについてまとめてみたいと思いました。

まずは映画に使われている宇宙のタイポグラフィから、

2001年宇宙の旅

初めてみたのは、私が小学生の頃、当時レンタルビデオ店が全盛だったのですが、父親が映画のビデオを借りてきては、家で繰り返し観ていた記憶があります。その父親が好きだったものは、小学生の自分には眠気を覚えるほどでしたが、黒い板と赤い表示灯?レンズ?のようなコンピューターの「無」の感覚がが強烈に記憶に残っており、それがSF映画の金字塔「2001年宇宙の旅」だとわかったのはもう少し時間がたってからでした。

2001のコピー

上記のFuturaが使われているポスターが有名ですが、本編のタイトルシークエンスではGill sansが使われています。(見出し画像も同じ書体で再現してみました)月からみた地球の太陽フレアのシーンは円で構成されていることもあり、ジオメトリック(幾何学的)サンセリフが宇宙空間にはとても相性が良く納得の書体選定だなと再構成してみて感じました。タイトルシークエンスの2001のOOはアルファベットのオーを使っているようです。

他にも宇宙船のインターフェイスにはUniversが使われているなど、今改めて観ても、随所にタイポグラフィ選定が合理的に行われていたことに驚きます。50年以上前の映画なのに、今観ても時代を感じさせない普遍的なイメージはこういったタイポグラフィのディテールにも現れているんだなと思いました。

インターステラー

2001年宇宙の旅のオマージュが随所にみられる2014年の映画。先述の「2001年宇宙の旅」好きの父親に「これ絶対観た方が良いよ。多分気にいるから」とおそらく最初で最後になるであろう自分から映画のオススメをしました。(普段映画を勧めたりしない間柄なので少し恥ずかしかったですが、間違いなく好きそうだったので)

inのコピー

こちらのポスターはDidot、タイトルシークエンスではGoudy old styleが使われています。Didotは雑誌VOUGUEに使用されるなどスタイリッシュな部類に入りますが、Goudyは1915年に作られたどちらかというと“old style”なローマン体で一見するとSF映画っぽくない書体のように思います。

しかし、監督のクリストファー・ノーランが1930年にアメリカで実際に起きた乾燥現象を導入部のインスピレーションにしたという背景や、少し丸みを帯びた柔らかい印象が、サンセリフでは表現しきれないこの映画のテーマとしている情緒的な雰囲気(ネタバレするので未見の人のために敢えてあいまいにしています)がとてもマッチしているように思いました。

画像2

宇宙からは離れるので余談になりますが「ブレードランナー」のオープニングロールもGoudy old styleが使われていて、一見こちらも本編の未来像とは相反するようですが、この映画は1940〜50年代の映画にみられた探偵物にインスピレーションを得ているという背景を知ると納得しました。当たり前かもしれませんが、SF映画というジャンルだけでなく、映画のテーマやコンセプトにしっかり沿った書体選定をしていて、完成度が高い映画はそういった設計もしっかりしているんだなと感動しました。

画像8

では、映画の世界だけでなくリアルな宇宙開発では、どのようなタイポグラフィが使われているのでしょうか?

NASA

アメリカ航空宇宙局(National Aeronautics and Space Administration)は、「2001年宇宙の旅」の公開から1年後(!)の1969年にアポロ11号が月面着陸を果たしました。当時のNASAのガイドラインにはHelvetica、Futura、Garamond、Times new romanを用途に分けて推奨書体に設定していたようです。

nasaのコピー

https://www.nasa.gov/sites/default/files/atoms/files/nasa_graphics_manual_nhb_1430-2_jan_1976.pdf (参照:5.3ー5.6)

画像5

http://idsgn.org/posts/know-your-type-futura

また月に残してきた銘板の書体としてはfuturaが採用されていたり、宇宙飛行で最初に認定された腕時計OMEGAのブランドロゴもfuturaがベースとなっていたりと、現実においてもfuturaと宇宙の関係性の深さがうかがい知れます。

スペースX

冒頭で紹介したスペースXのウェブサイトで使用されている書体は、2014年時点ではFutura PTを使用していたようです(ここでも!!)

画像6

https://blog.typekit.com/2014/11/21/sites-we-like-moonbase-planetary-spacex/

現在はDINを使用しているようです。

スクリーンショット 2021-03-16 20.29.43

https://www.spacex.com/

スペースXによるロケットの着陸シーンはまるでSF映画をみているかのような未来感を感じて、現実とSF映画の世界の境界がいよいよ近づいてきたなと感動しました。スペースXは「クルードラゴン」の宇宙服の原型デザインを映画「アベンジャーズ」の衣装デザイナーに依頼するなど、テクノロジーにおけるデザインの重要性はますます高まっていくように思います。これからさらに民間の宇宙開発が進むことで、デザインがどのように進化していくのか注目していきたいです。

最後に、SF映画はいつ観ても新しい発見があり、とてもわくわくします。未来感のある書体、デフォルトでダークモードのインターフェース、曲線を多用した美しいインテリアなどディテールを見るのは単純に楽しいですし(昔のSFではたまにモニターがブラウン管だったりするのはご愛敬として)、いつ実現するんだろう?と子供の頃に憧れた気持ちが蘇ってきます。未来のデザインに少しでも関われたら嬉しいなと思いました。

SF映画のロゴタイプやもっと詳しく知りたい人には以下の書籍がオススメです。特徴が強すぎるゆえに今回は敢えて紹介していませんが、書籍のはじめに紹介されているSF映画におけるEurostile Bold Extendedの登場率には「こんなところでも!」とついにやけてしまいます。↓は元となったブログ記事(英語)

全然関係ないのですが「2021年宇宙の旅」という展示が表参道でやっているそうなので近々いってみたいと思います。

↓タイポグラフィに関する弊社のマガジンはこちら↓
よろしかったら登録よろしくお願いします。

Twitterでも日々発信しています。フォローしていただけると励みになります。


いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集