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読めばすっきりする、社会課題とデザインの関係

今日は山口周著『ビジネスの未来』の中で紹介される「問題のマトリックス」の上に、僕の考えるデザインの現在地点が整理できそうだと気づきこのノートにまとめました。(西克徳)。

問題のマトリックスとは
企業の課題解決とともに育ったデザイン技術
課題領域とスキル
まとめ

問題のマトリックスとは


山口周著『ビジネスの未来』より

まずは山口氏の問題のマトリックスの説明を簡単に。
山口氏は問題を、難易度を縦軸、普遍度を横軸で捉えます。シンプルですね。仮に今が18世紀後半、産業革命後の日本だとします。今の社会を支える便利なものはほとんどない時代。資本主義OSの中で僕たちは働き始め、経済合理主義的な考えが行き渡った社会だと思ってください。

僕たちが何かの事業を始めようと考えると、問題の普遍度が高く(多くの人が困ってる問題)その上解決が簡単な問題=『A』の解決から手をつけようと考えます。電球が発明されているなら、電球をたくさん作って多くの人に買ってもらうことを考えたり、薪を使わず電気でご飯を炊く方法を考えてみたり、食物を腐らせないように保管する箱を作ってみようとします。
なぜなら『B』方向の問題は難易度が高い。その当時なら工業化が進む社会での大気汚染の問題とか、労働時間の問題とか、今ならSDGs問題などがこの『B』となるため、その前にやることあるだろ、と思うのは当然です。
そして『C』問題も、解決方法は難しくないものの、困っている人が少ないため解決の経済的報酬が見込めませんから、後回しになります。
最後の『D』問題はつまり、100万人に一人の難病患者の命を救うような問題で、医師が寄り添うことはあっても、大企業がその患者を救うために新薬を何百億かけて開発してくれることは望めないでしょう。

山口周著『ビジネスの未来』より

このように資本主義OSの社会では、問題は『A」ゾーンを中心として放射状に解決されていくという性質を持ちます。そして『A』の問題を上手に解決し、広めた企業は20世紀に大企業となり、その後でA/Cの中間点や、A/DやA/Bの中間点問題に軸足を移動しつつある。これが山口氏がこの図を持って説明してくれている概要になります。
そう考えると、大企業が中小企業(A/C)の仕事を奪おうとするのは、いい悪いを別として、なるべくしてなる自然現象と言えなくないわけです。

企業の課題解決とともに育ったデザイン技術


山口周著『ビジネスの未来』より

いま「それほど関心を持たれない」ものばかり作って社会課題解決に前向きでないと思われる大企業も実は、19世紀から見れば、僕たちの社会をとても便利にしてきてくれた存在であることがわかります。微妙な問題は、100年にわたる人間を中心とした『A』の問題解決が、周辺にあった問題の質を変えてしまったことにあるとも言えます。若干とばっちりですね。

話をデザインに戻します。デザインはこの『A』問題を解決してきた大企業と共に育ってきて、その多くは世界中で中小企業の中に蓄えられた技術と捉えることができます。デザイン部門を社内に抱える企業もありますが、大半のデザイン会社は特定の企業のためだけに存在せず、自由に様々なジャンルのデザイン知見を蓄えています。

そして今世紀になって、デザインは課題解決の有力な手段と見直され、その発展はカンブリア大爆発とも言えるほどの広がりをみせています。20世紀までは美術・芸術大学出身者が社会の中でデザインを担ってきましたが、21世紀には非美術大学出身者によるデザイン会社が誕生し、活躍するようになりました。多種多様なデザイナーを大学の出身で分けるのも気が引けるのですが、案外的を得ているので敢えて言いますが、今の社会には大きくこの2種類のデザイナーが活躍しているとお考えください。

課題領域とスキル

Grand design ltd.

では、美大が排出してきたデザイナーと、非美術大学出身のデザイナーにはどんな違いがあるのか、ということになります。僕なりの答えを先に言えば、それはデザインにおける「どのプロセス」に特化しているか?ということだと思っています。

そもそもデザインは、上に記したように最低3つのステップが整理されている必要があります。それは『WHY』『WHAT』『HOW』です。
美大出身のデザイナーは主に『HOW』の表現技術に突出しています。彼らはどのように表現し伝えるか?デザインによってどのような差別化が有効か?に強みを発揮します。それに対し非美大系のデザイナーは、『WHY』や『WHAT』に軸足を置きます。

20世紀に大企業は、企業は商品を美しくデザインし、広告をすることで商品をたくさん販売していました。作れば売れるという時代を経て、他者との差別化が重要になった20世紀後半、デザイナーは商品の差別化においてとても重要な役割を果たしました。この時代において重要であったのはデザイナーの『HOW』の技術であり『WHY』『WHAT』は企業の利益の最大化のために以下のように整理されていました。

『WHY=そこにある不便を解決するため』
『WHAT=この商品』

一方、モノが溢れ『A』ゾーンの問題解決がいよいよ限界点に達した状態の現代。本当は90年代から企業は競合と同じような商品を作り、パッケージを変え、広告を変えることで売り上げを上げてきていました。しかしもう全ての商品において「ハズレがない=イノベーションがない」状態が何十年も続いています。そうなると自然と目につくのは『A/B』『A/D』『A/C』=僕らの豊かさの外にある問題となります。この中で『A/C』問題は大企業にとって小さな市場へのアプローチに過ぎませんから、これまでとやり方を大きく変える必要はありません。市場規模の小さいところも取りに行くだけです。

山口周著『ビジネスの未来』より

一方でこれまでより難易度の高い『A/B』『A/D』問題は『HOW=手段』を論ずる前に、「なぜ行うか=WHY」だから「なにをすべきか(つくるべきか)=WHAT」部分の言語化と合意がとても重要になります。さらにこの問題はこれまで蓄積してきた勝ち筋でない取り組みですから、収益も不確実となります。さらに公益に資する活動でもありますから、ステークホルダーとして国や地方機関、大学なども巻き込んで「産官学」の取り組みが合理的とます。
そこでは異なる文化が交わるわけですからなおさら『WHY』『WHAT』の言語化と合意の重要性が上がります。結果、このエリアでのデザイナーに求められるスキルは大きく変化します。この新しいニーズに非美大出身のデザイナーが活躍していると言えるのです。

まとめ

ここまで非美大系デザイナーと一括りにしてきた人達は具体的に誰なのかと申しますと、Nosigerの太刀川英輔さん、Takramの田川欣也さん渡邉康太郎さん、ミミクリデザインの安斎勇樹さんです。彼らは『HOW』より『WHY/WHAT』を重視した初めてのデザイナーであり、偶然か必然かアカデミア文脈を持つデザイナーでもあります。太刀川さんと渡邉さんは慶應大学、安齋さんは東京大学、田川さんはロンドンのR.C.A.で特任助教授などを務めています。そして共通するのは、共創のためのワークショップを事業の柱に据えているようにも見えます。
一方で美術・芸術大学も新設学科を作ったり、一般大学からの編入を促したり迷走とも受け止められる様々な取り組みを行なっているのは、この創造における『WHY』『WHAT』の重要性を意識した取り組みと捉えるとすっきりしませんか?(本当はどうだか分かりません)
これまでデザインはマーケティングとの乗算の中で企業へ成果を提供してきました。しかし解決すべき問題が「プロダクトを使ってもらうことで便利になる」法則から脱し、何らかのサービスの提供やインフラの改善など、複雑・複合的になるにつれ、情報学、社会心理学、機械工学などの「学術」と乗算の中に『WHY』『WHAT』を定め、成果を出していくことが求められているようにみえます。
これは『HOW』スキルはもうだめだという話ではありません。ご存知のように、世界中のエリートが美意識を鍛えています。(注1)もし『WHY』『WHAT』議論から参加し、理想的な『HOW』に繋げられる人がいたとしたら、その人はどれだけ重要になるでしょうか?
『WHY』『WHAT』『HOW』を瞬時に行き来しながら、ありたい未来を作っていく、そんなデザイナーの登場こそ、僕は次世代的と言えると思っています。

(注1)


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