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【番外編SS】芹沢くんのやきもち

本編は↓をご参照ください。
無料で読める範囲ではふたりの関係はまだ明確ではないためネタバレと言えばネタバレですが、想定の範囲内ではあります(笑)。

「…今日、和泉さんとの距離、めーーーーーっちゃ近くなかった??」
俺の不満を聞いた恋人は無言で瞬きを繰り返した。意図が伝わっていないらしい。
「…上司と部下だからね…?」
「そういうことじゃなくてっ!」
抱きしめると息を呑む。そんなところも可愛い、俺の恋人。
「もーいや、ほんと。なんであの人あんな無駄にイケメンなわけ?仕事ができるイケメン、将来部長確実の管理職、しかも独身。不安しかないんだけど」
そんな人種は滅びろ。
抱きしめた腕のなかで、恋人が身じろぎし、もしかして、と小さな声でつぶやく。
「…やきもち…?」
「そうだよ!!」
信じられない、と呆れる彼女が、俺のほうこそ信じられない。彼女はこんなにも魅力的で、それが近くにいる人間に気づかれないはずはないのだ。
ましてや物理的にも心理的にも距離の近い上司部下。
「…見ててわかるよ、ふたりの信頼関係。俺の上司も言ってる。和泉さん丸くなったって。部下が優秀で楽なんだろうってさ」
え、と驚く顔が少し嬉しそうで、その素直さに心がざわめく。…ちょっとひどくないか?
「ミキさんにそんな気がないのは俺もわかるけど、和泉さんはわかんないじゃん。ミキさんへの期待感が、いつプライベートな好意になってもおかしくないと思うけど?」
「だいじょうぶよ」
なぜか自信満々に言って、恋人はにっこり笑う。自分のことにはあんなに自信がないのに、なぜ上司のことには自信満々なのか。ちょっとおかしくないか?
「なんで」
「だってあの人、仕事以外なーーーーんにも興味ないもん」
「は??」
どういうことだ。謎の言葉を放った彼女は、なぜか得意満面だ。万事控えめな彼女には珍しいそんな表情がとても可愛い。…ちがう、そうじゃなくて。
「どういうこと?」
「部下として接してるとわかるんだけど、ほんとに円滑な業務遂行以外には興味のない人なのよ。業務上必要なことならそれはもう労力を惜しまず徹底的に指導してくれるんだけど、極論、わたしの下の名前を覚えてるかも怪しい」
「ウソだろ」
そんなことあるか?自分の右腕である部下の名前を覚えてないかもしれない?
「ほんとだよ。慣れるとちょっと面白いよ。雑談も完全に『仕事として』してるんだもん。部下になったら絶対わかる。この人部下としての自分以外に興味ないんだな、って。なんなら『ついてこられない』ってわかった時点で、部下としての興味も失くすな、って」
「なにそれ。怖い」
ふふ、と小さく彼女は笑う。
「そう。もう緊張感半端ないよ。笑顔も指導も、全部『仕事だから』なんだもん。個人的な親切心とかたぶんないと思う。人当たりはいいけど、人間に興味ないんだろうなって思うよ」
だから、と彼女が俺を正面から見る。
「和泉さんとわたしがどうこうってことは、絶対ない」
そうなのか?半信半疑な俺に、彼女はイタズラな顔でさっきの、と言った。
「『仕事ができるイケメン』『将来有望な管理職』『しかも独身』…まるであなたのことね」
滅びちゃったら、困るなぁ…。
…その展開は、ちょっとズルくないか?
とりあえず、やきもちをやいている場合ではないようだ。…今すぐ、もう一度抱きしめなくては。

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