【番外編SS】あなたとランチ。
本編(ふたりのこれまでの関係)は↓からどうぞ。
ふたりの話題は↓のひとコマです。
「何食う?海鮮丼?」
そう言ってわたしを見る瞳はいたずらな光にきらめいていて、眩しいくらいにかっこいい。…ズルいなぁ、と心のなかで呟く。
「それ、いつまで言うの」
「だって、ランチって言ったら思い出しちゃって。俺の撃沈ぶりをね」
ふふ、と楽しそうな微笑み。
「撃沈?」
「だってそーじゃん。情報交換なんて言って必死で口説き落としてさ。なのにあんまりその気なさそうだから、日和って定食屋なんか選んじゃって。しかも話題は上司がいかに素敵で憧れてるか、だし。…まじで終わったと思ったよ」
「…そうだったの?」
「当たり前じゃん。何年も好きで、ようやくの初ランチだよ?それが、色気はねーわ隙はねーわ、しまいには追い打ちでもっと好きにさせられて、それなのにミキさんはそんなこと気づいてもいなさそうだし。さすがに俺も心折れかけたよ」
そう言われると居た堪れない。あの頃のわたしは仕事の成果に必死過ぎて、彼の気持ちを受け止められなかった。結局、その気持ちがわたしを支えてくれていたのに。自分のことは、意外とわからない。
「…ごめん」
「違うよ、俺が下手だったってこと。平気なふりして、余裕見せて、そしたら支えとして必要としてくれるんじゃないかって思ってたの。浅はかで笑っちゃうんだけどさ。…弱いとこ見せたりしたら、『そんなんならいらない』って思われるんじゃないか、って思っちゃってたんだよね」
わたしを見て、ごめん、と囁く。
「ミキさんがそんな人じゃないって、だから好きなんだってわかってるはずなのに。焦りすぎちゃって、ほんと余裕なかった」
そんなふうに言える彼は強い。自分にもわたしにも、いつもとても誠実だ。
「初めて知った、そんなこと」
「そりゃね?カッコ悪いじゃんこんなこと。好きな人の前ではやっぱカッコつけたいよ。…でも無理しても意味ないってわかったから、もうしないけどね。俺、自分に甘いから」
「…ウソつき」
自分に厳しくて、わたしに甘い。…わたしの恋人は、わたしのことを愛しすぎてる。
「わたし、あなたがいつも余裕に見えるから、ズルいなって思ってた。…わたしばっかりどんどん好きになっていくのに、あなたはどこまで本気なのかわからなくて、好きになっていく自分が怖かった。…好きになった後で、あなたがいないとダメになった後で、あなたに嫌われたらどうしよう、って」
そんなワガママな不安ばかり感じていた。自分の気持ちを伝えることもしなかったのに、彼からの好意に甘えていたのに。伝えてくれる彼の不安や焦燥には無関心だった。
わたしの言葉を静かに聞いた彼は、花開くような笑顔で言った。
「ふたりとも下手過ぎ。…でもこれからは、ちゃんと言えばいいもんね?」
「…うん」
「じゃあ気を取り直して。…何食う?」