インチキ医療の罪と罰
ごきげんよう。ツイッターで何気なく流れて来たツイートを見たのですが、少し思い出したことがありました。
昔書いたのですが(最期に見る夢をいくらで買いますか?)、僕の父は2年ほどの闘病を経て肺がんで死にました。10年ほど前のことです。
手術をしたり放射線治療をしたり抗がん剤治療をしたりと、大学病院のお医者様と相談しながらとりうる限りの治療をしたのですが進行は止められず体中の転移を経て亡くなりました。最期は僕も病院で看取りました。
ガンという病気は亡くなるまでの間に話をしたり最期の時間を家族と取れるのが今考えるとよいところ、、という考え方はもちろんあるのですが、やはり本人も家族もその闘病期間は苦しいものです。
で、何を思い出したのかというと、インチキ薬の話です。
癌と余命を告知された父の心中を推し量ることは難しいですが、とにかく癌というのは痛いものらしく、波打つように来る痛みに苦しみ、気力もすっかり落ちてゆく父を見るのは本当に辛いものでした。
ずっと看病しながらそんな死にゆく父の姿を見続けることが母には耐え難く、なんとかしてやりたいという気持ちが抑えることが出来ず、「癌が消えた!」という怪しい本を読んでは一本数万円もする謎のジュースみたいなものを欲しがり、誰にもらったのか怪しいチラシを見ては一かけら数万円の幻のキノコを買いたいと言い、誰に紹介されたのか怪しいセミナーに出かけては奇跡の水を作る何十万もする謎の機械の購入申込書にサインをしていました。
僕は「これが買うて欲しい」という母の話を聞いて、最初は何をバカなことを言ってるのか!と母の無知蒙昧ぶりに情けなくなり、これから先端治療などでお金がかかるかもしれないし、父が死んだらまた生活にお金もかかるだろう。そんなインチキ薬に大金を払うなんて馬鹿げていると説得しようとしましたが、母は「なんでそんなことを言うのか?お父さんがよくなるかもしれへんのになんでそんなこというんや。おまえはお父さん治したいとおもわへんのか。おまえはおまえは(以下意味不明)」みたいな感じで既に会話にならずでした。病気で苦しんでるのはオカンではなくお父さんでしょうが。
僕は病床の父に相談をしました。父はインチキなものに引っかかるということの対極に居た理詰めの人間でしたし、金貸しとしてあらゆる商売と人間の裏の裏まで見て来た人間ですから、インチキ薬にひっかかっている母を良しとはしないでしょう。
しかし、父のぽつりと言った言葉は予想をしてなかったけど、言われてみると、あぁ、、そんな回答があるのか。。というものでした。
「おかあさんの好きにさせてやってくれへんか」
は?あなたは血の滲む思いで稼いだ1円の価値を僕に叩き込んできたんじゃないんですか?そんなしょうもないものにうちのカネはビタ一文出すなとオカンに説教をしてくれるんじゃないんですか?
・・・あなたは最期まであの人を好きにさせるんですね。こんな身体になってまで。
僕はこれまで選択に悩んだら親父に必ず相談してきました。あなたが恐かったから。あなたに逆らったこともない。それももうすぐ終わる。あなたはもうすぐ死んでしまうのだから。こんなに弱ったあなたに今更逆らう価値もない。わかりましたよ。あなたがそう言うのなら。
僕は母がメールしてくる「癌に効く」インチキ薬を一つも真贋を調べることもなくショッピングカートにぶちこんでひとつ残らず買いました。貯金をはたいて。
父はどう見てもクソまずそうな色をしたジュースや、「奇跡の水」を作る機械で作ったどう見てもただの水を文句ひとつ言わず飲んでは、「なんか昨日より体が楽やわ」と言って母を喜ばせていました。
父にとってはそれが正解だったのでしょう。
僕には何が正解だったのかはいまだにわかりません。
そんなことを思い出しました。