【ともにつくるひと】みずき工房|水木雄平さん
インタビュー「ともにつくるひと」。
graftの仲間である、さまざまな分野のつくるひとをご紹介します。
私たちの強みは、最高の腕を持つ職人さんと一緒にものづくりをしていること。そんな職人さんたちのことをもっと知りたくて、graft・スタッフの武田由梨が、リスペクトしている職人さんに、普段は聞けないあれこれを伺います。
第2弾は、みずき工房の水木雄平棟梁。graftのこれまでにおいて、水木棟梁を抜きには語ることができません。棟梁が目指すものに共感して苦楽を共にした仲ですが、そんなみずき工房の家づくりで大切にしていることから棟梁がプライベートではまっていることまであれこれと、みずき工房の工場でお聞きしました。
一生手放せない道具の思い出
––竹中大工道具館に行った時に、西岡常一棟梁の音声が流れていて、大工の道具は自分の爪と同化させるように使わなきゃいけないみたいなことを仰っていて、はあっ! そんな感じなんだって。
そんな道具の中でも、水木さんにとって、これは絶対売らないくらい大事な道具は何ですか?
水木さん:正繁作の鑿(のみ)。どんなに貧乏でもそれは売らなかった。その人が87〜88歳くらいの時に出会ったので、嫁さんに内緒で一気に30本くらい買ったんよね。薄々、勘付いとったと思うけど(笑)
で、ねえ、つくりも格好いいんよ。なのに、格好悪いやつの値段の半値くらいで、切れ味もいい。要は、仕事が早かったんよ。
兵庫の工場にも行ったんやけど、仕事場がグジュグジュ。これで、あんないい仕事をするんやって。掃除するなら、鑿の1本つくるって。
––ええっ! 仕事ができる人って仕事場が綺麗っていうイメージが。
水木さん:道がないから、商品を踏んでいくんやもん(笑)。でも相当いい人やった。亡くなってやっぱ寂しかったけど、しょうがないよね。これねえ、世界に1本なんよ。自分が考案して図面を書いて。あんたは、よう考えとるって言われたね。
この人は鑿一本やったんやけど、やっぱり、センスがいいっすね。亡くなって、みんな凹んどる。
不器用でも好きだから続いた
––大工になると志したのはいつからなんですか?
水木さん:20歳くらい。高校の建築科を卒業してから、最初、現場監督をするサラリーマンやったんよ。で、サラリーマンが向いてないってわかって。
1年はその会社に行っていたけど、そのうち釣具屋の店長と仲良くなって、で、現場監督をやめて大工になれって言われて。まあ、それで、背中を押されたような。だから釣りで人生が変わったかも(笑)
––21歳から大工を始めて、自分に合っていたのですか?
水木さん:面白くなってハマった。子どもの頃は、絶対大工にならんって思っとったのに。普通、逆やん? 前世で大工やって、何かあったんやろうね(笑)
––でも、実際になってみたらすごく自分に合っていて、続けてきたんですね。
水木さん:不器用やから向いてないと思うけど……。やけど、好きやけん、このままできたみたいな。家守屋の大石さんの息子さんとかは器用やけど、自分は逆やと思う。でも好きやけん、続けられた。
––宮大工時代は主に寺社仏閣を手がけていたんですか?
水木さん:そうそう。でも言うても、あそこは実際に仕事をしたのは3年くらい。あとは掃除。すぐやらせてくれるところもあるけど、そこは雑用ばっかり。それで、7年くらいおったんかな。4年目くらいから、ちょこちょこ仕事をさせてもらえた。
仕事させてくれんので、逆にやりたい気持ちになる。だから、夜、どっかに手伝いに行って夜なべでしたりとかしてた。社長がどう思っていたかは知らんけど、やらさないっていうことはいいことかもしれん。人にやる気を起こさせる。先輩を見てたら、やりたいやりたいって、テンションが上がってくる。それはうまいなって。社長の意図かどうかわからんけど。
––なるほど。宮大工の世界って、慣習というかそういうものだったんですね。
水木さん:いや、器用な子には仕事をすぐさせていたから、そこを見とったんかなあ、どうやろ。まあ、その人に応じた育て方をしとったんやと思う。後輩に抜かれたりしとったけど、人生の最後に勝てばいい話だし。まあ、勝ち負けじゃないかもしれんけど。
だから、エリートじゃないねえ。庶民(笑)。まあ、自分で考えて、自己流やねえ。
––住宅をやりたいって思い始めたのは、いつからですか?
水木さん:まあ、28とか29歳くらい。まあ、なんかちょっと違う経験してみたくて、で、変わった。
それまで、お寺やったんで新建材を使わんから、自然素材が当たり前になっていて、で、いざ、住宅の会社に行ったら、ボードとか色々使う。まあ、しょうがないよなって、していたけど、だんだん疑問に感じてきて……。まあ、そこは酒井さんと一緒やと思うけど。
で、いよいよ嫌になってきて、野の草設計室の橋詰さんと出会って衝撃を受けた。こんな仕事があるんやって。
––始まりが宮大工だったから、土壁も当たり前。それがベースにあるんですね。水木さんがゴミを出したくないって言っていたのが印象的で、確かに自分のやっていることはすごくゴミを出す職業だよなあ。だから、建てて壊される時のことまで考えておかないといけない職業だなあって、改めて思ったんですよ。
水木さんがそれを思ったのもベースに宮大工があって、普通の建材を使う会社に入って違和感がたくさんあったからわかったということなんですか?
水木さん:うーん、やりおって、だんだんだんだん、感覚的にも受け付けんようになったと思う。酒井さんも、感覚的にわかる人よね。そこの潔癖具合は、多分、似ていると思う。
ゴミになるとか、今の家づくりは罪や。だから、最低でも悪いことはしたくない。まあ、悪いもんをつくってきたから。毒を売るようなもんやからね。
––酒井は、同じことをやり続けるのが苦手だから、職人を見ると、コツコツ自分の技術を積み重ねている姿がとても眩しく見えるそうです。
水木さん:キラキラしとるんですね(笑)。だけど、大工って、工程が変わるから、割と飽きにくい仕事やと思う。例えば、造作とか。造作でも、天井張る時もあれば、床を張る時もあるし。外をやる時もあるし、割と飽きんのよ。変わっていくから。
まあ、刻む時とか、工場仕事が一番好きかな。つくるプロセスが一番好き。普通、できた時が嬉しいやん。それは、あんまりないよね。
––プロセスというのは材料調達の時から? いっぱいストックがありますもんね。
水木さん:でも買うた訳じゃないんよ。製材屋さんが専属で使わせてあげる代わりに置かせてくれって。で、ある程度、乾燥材が揃っとるから、パッとできる。
製材屋さんとは、向こうの言い値で気持ち良くやってきたから、それで、結構信頼してくれとる。で、ちょっとした問屋さん的な立場になれたんよ。来たお客さんにぴったりのものを出せるとか。
––独立した時に工場もあったんですか?
水木さん:昔、中古の家を持っとんたんよ。で、この家、売ってくれんかっていう不動産屋が来て、その時は断った。何日かして、またその不動産屋とばったり会って。で、工場を探していたから聞いてみたら、「おう、買うたんよ。俺のを借りたらいい」ってなって。
それで、最初数万円で貸してくれとって。「何ぼ払えるんぞ」って言われて正直に答えたら、「もうええわい」って。あの人がおらんかったらできてない。まあ、今は数倍くらいにはなったけど、それでも、相当安いと思う。まあ、だからやれってことなんかな。その2、3年前にも探したんやけど、その時は全然ヒットしなかった。ダメな時は全然ないからね。
野の草設計室の橋詰さんに連絡をもらって、工場をなんとかしないといかんってなって探したら、こうやって見つかった。大工からしたら、この環境と設備は最高にいいんよ。広さがあるし、クレーンがついとるし、リフトもただでくれたし……、くれたっていうか勝手に使いおるし。
––すごい! なんかもう、本当にやれやれって言われている。
水木さん:もう、本当に、どうもねえ、不思議なもんで(笑)。
人に、仲間に恵まれて
––橋詰さんの仕事から独立が始まったっていうことですか?
水木さん:橋詰さんの案件が決まってから、1年あったんやけど、その間何もなかったんよ。で、合間合間でリフォームの仕事をしていて、そこを行きながら、空いた時に工場を直したりしていた。そしたら、ここの大家さんが「喫茶 米門」のオーナーさんを紹介してくれて。それで、まあ1年なんとか仕事を。そんな風に周りがいろいろと助けてくれた。
––助けてくれるのは人徳のような気がします。でないと助けてくれなさそう。
水木さん:人間性がいいってこと? そうやろうか? 自分ではわからんけど(笑)。まあ、仕事に対して正直なところはあったかもしれん。仕事以外は適当やけど(笑)。まあ、酒井さんもいろいろ助けてくれたし。
酒井さんとは、道後の家の時に見学会に来とって、すれ違いざまに喋った。そっからやね。酒井さんも、あの時、新建材を使う仕事が相当嫌になっとったんよ。
––建てたものが短期間で壊されることが多いから、壊した後の破棄されるところを見に行ったら、衝撃的だったって言ってました。
水木さん:まあ、その辺、純粋よね。あの人。次世代に負の遺産を残してはいかんって。
––水木さんの現場って、いい人が集まって楽しそうな雰囲気ですよね。
水木さん:ゆるゆるよ。どうせやったらねえ、楽しく。昔、行きおったところがピリピリした雰囲気で、もう毎日行くのが憂鬱。棟梁がクソ真面目で、仕事になったらワアワアいう人で、そこの会社の社長とかもピリピリしとる。それが、相当嫌やった。
建前の打ち合わせの様子。左から、藤井さん、水木棟梁、村田さん、髙田さん、酒井。
––何か、大工さんがピリピリしていると、それがつくる空間にも反映されてくるって、心持ちみたいなのが反映されてくるよねっていう話をしたことがあって、そうなのかなって思ったんですよ。
水木さん:気持ち、大事やねえ。何かで読んだけど、大石さんも脱力がテーマって書いとったやろ、そういう気持ちでやるって。
建前とかでピリピリする人がおるんよ。棟梁がテンパって、わーって、叫んだりして。そうすると、みんな精神的にしんどくなって、足元が見えんなる。ゆるい雰囲気やったら、こう安全確認しながらできるから。「早くせんかー」とか言われたら、もう、焦ってしまうやん。
まあ、そんなんもあるから、普段はゆるく。求めることはちょっと厳しいかもしれんけど、それでいいかなって。
みずき工房YouTubeより。
みずき工房が行った建前を記録した映像。冒頭に、村田さんの手刻みのシーンが登場。伝統構法の建前の工程、木組みの迫力とともに、水木棟梁と大工チームとの和やかな休憩シーンも収められている。
動画制作:Ko-ki Karasudani
––それに大工のみんなが応えてくれるんですか?
水木さん:応えてくれる。村田さんもすごいからね。髙田君もやけど。村田さんは相当場数を踏んでる。なんか、機械屋さんが連れてきてくれて、で、まあ、パッと仕事を見て、相当綺麗にしてるって言ってくれて、それからやね。勤めていた会社を年末に辞める予定やったんやけど、9月に早めてくれて助かった。村田さんがおらんかったら夜逃げしとったかも(笑)
相談中の水木棟梁と村田さん
––すごいタイミングで村田さんが来てくれたんですね。
水木さん:マジで。なんか弟みたいな感じ。本当におらんかったら、まあまあ、やばかったんよ。3件が絡んでいたから。髙田君はそれから後やねえ。15年ぶりぐらいに電話してそれから。
髙田さんは、水木さんの宮大工時代の弟弟子
水木さん:人を引きつけるんかなあ。まあ、自分が楽しんどるだけやから。それを周りの人が一緒に楽しんでくれたらいいし、無理なことを言うこともないし。だけどいろいろ人には助けられとる。酒井さんを筆頭に。
最初ねえ、孤独やったんよ。一人でこっち方向に来たから。で、酒井さんと大石さんが、こっちの方に来てくれて、最初から色々助けてもらった。
家守屋・大石さんの記事はこちら▽
––住宅の工務店の時、違和感はあったけど、それを獲得できたからあれはあれで、学びがあったということなのでしょうか?
水木さん:あれもねえ、思いおったんやけど、大工ってやり方が違って、一人は形式にとらわれん人やって、仕事が荒い人やったんよ。もう一人は、昔からの決まり事みたいな形式にとらわれて、その人は仕事が丁寧やったんよ。だから、自分はその中間を行こうと思って。仕事はきちんとして、やっぱ形式にとらわれたくないから、この真ん中を行ったらいいんやなって。もしかしたらあの2人で、今のスタイルがあるんかもしれん(笑)
それとか、伝統構法をしている工務店にも行ったんやけど、ほぞ穴がカタカタやったんよ。あれも逆に、これやったらできるやんって思えて。あそこに行ったから、几帳面にしているのかもしれん。
––それは刻みが雑ということなんですか?
水木さん:いや、それが普通なんよ。だけど、僕は嫌やから。
––水木さん周りの大工の仕事しか見てないから、当たり前かと思っていました。
水木さん:そこの工務店のやり方に合わせんといかんから、昔はカタカタの仕事をしてた。きちきちにつくりおったら怒られる。
構造見学会では、模型を使って説明
コンセプトは「ちいさい・ちょうどいい・ほんもの の家」
––みずき工房のコンセプトは水木さんが考えたんですか?
水木さん:酒井さんが考えた。でも「ちいさい ちょうどいい ほんもの の家」で、2軒くらいおっきい家が建つという(笑)。なので、「ちいさい」を消そうかって言っていて(笑)。でも、小さい家は暮らしやすいって思う。
––思い浮かべる小さい家ってどのくらいなんですか?
水木さん:坪で言えば、20〜25坪。だいたい45畳。平屋やったら値段が高くなるから。総2階みたいなので。家族構成は夫婦に子どもが2人おって、2人は屋根裏部屋。そんな方が子どもは好きやろう。いずれ独立するから、大きくて、子どもが出たら寂しくなる家はちょっとどうかな。
––今、一般的に建っているのは、そんなのばっかりだと思います。
水木さん:どうせ出て行くのだから、小さめの方が。ダイレクトに値段下がるしね。子どもにとっては、あまり、ガチガチに鍵をしてというのもどうかと思うけど、ある程度プライベートなとこも必要かな。
水木さん:「ほんものの家」で言えば、木の乾燥にこだわっている。乾燥していなかったら、日本一の大工がやっても腕がたたん。沈んでいくみたいな。そこが難しい。
最低1年は乾燥してるけど、今、1年しとるところ、あまりないんやないかな。まあ、3年くらいは干したいなあ。本当に乾かそうと思ったら、10年。で、木が閉まって熟成していく。
そういう木は市場にもあまりないけど、置いている人がためてくれていたから、割と乾燥材を使える。
––では、計画が決まって、お施主さんと契約して入金があって買いに行って、それを1〜3年乾かす期間があって、そこから建前が始まるって感じ?
水木さん:それをしていたら、期間がしんどいから、買うとるやつの中から選り分けている。それやったらすぐ使えるし、そこで短縮できる。で、どうしてもないもんは、もう原木を買いに行ったり、買ってきてもらったり、市場に行ったりして探して。
やっぱり自然乾燥が一番いいけど。最近ちょっと思うのが、どうせ薪ストーブとか暖房を焚くから、だからちょっと乾燥機に入れてもいいんかなって思ったりしてる。その暖房の温度に慣らすために。今までは入れおらんかったけど。
––そっか、暖房がないお家なんてないですよね。
水木さん:薪ストーブをつけとる家は、だいたい隙間ができている。だから、つくる前に、その状況を人工的につくってあげたほうがいいかもしれん、って最近思う。
––それも、今の暮らしに合わせて、やり方を更新していくんですね。
水木さん:一現場やったら、いろいろ課題が出るから、そんなもん。
水木棟梁が考える、心地よい空間とは
––水木さんのつくる空間は、いろんな細かい整っていることの積み重ねで、美がつくられている気がして。神経質とは思わなかったんですけど、全部繊細につくっているんだろうな、なんでそんなに追い込めるんだろうって思っていました。
この間、板垣邸を見学させてもらったんですよ。2階の天井の木目が揃うように全部順番を選んで、1枚1枚張っているというのをお施主さんから聞いて、実際に見てみたら、すごい綺麗でした。
水木さん:あれも、いいんか悪いんかわからんけど(笑)。住みだして、お客さんが気にならん……、意識せんように。無意識になるように。
––違和感がないように。
水木さん:そうそう。
––違和感がないためには、整えるところは整えていく、の積み重ねですよね。
水木さん:その天井が良かったかどうかは(笑)
––でも、お施主さんは「すごいでしょう」って話してくれますよ(笑)
水木さん:その「すごいでしょう」も言われんくらい。それがいいな。
––素材はもちろんだけど、水木さんの中で、心地のいい空間はどんなものですか。
水木さん:まあ、自己満足というか、そういう作品づくりをしないことかな。普通でいい。
だから、お施主さんとのちょっとした他愛のない会話の中で、好みを感じ取るようにしてる。敢えて聞いてみたりもしたり。そこで、好みを察知して、それを取り入れる。付き合っていたら、なんとなくわかってくるやろう?
––確かに。でも「普通でいい」の「普通」は難しい気がします。
水木さん:その一番、究極で難しいところを目指す。「ちょうどいい」「だいたい」。なんか空気みたいな感じかな。何も気になることがないみたいな。
––水木さんにとって、そういう空間ってどこになるんですか?
水木さん:まあ、米門さんが良かったなあ。奇をてらうみたいなの嫌やし、普通にしようと思ってやったから。自分が住んでもいいような気持ちでつくった。逆にそれが良かったのかも。
––何時間でもまったりできそうな感じでした。
水木さん:寝て帰る人がいるって。2時間くらい(笑)。
––最高! また、行きたいなあ。
水木さんのお家は、自分で建ててらっしゃいますよね。水木さん的に居心地のいいお家なんですか?
水木さん:中途半端にしとるのがちょっといかんかな。入れんでもいいところは建て具を入れてなかったり。トイレとか絶対入れんといかんところは入れたけど。まあ、なくても生きていけるやろうっていうところは、後回しにした。その辺とかをちゃんとしたら、まあまあええ。まあ、雨風しのげたらいいかな。
割と外観が好評で、中村好文さんを参考にしたんやけど、お施主さんの中にも、水木さんの家がいいって、結構言ってくれる人がいる。ロフトみたいなところをつくって、子ども部屋はそこに。家を事務所にしてもいいっていう構想はあるんやけど、道がねえ、軽自動車がギリギリ。
外壁は杉板やね。杉のバーっと節があるやつ。だんだん経年変化でグレーになる。自分で言うのもあれやけど、なんかうちの通りをパッと見て、いい感じになってきたなあって。もう7年くらいかな。
棟梁に聞く! 心と体のメンテナンス
––なんかインタビューって緊張するんですよね。最近調子が悪かったこともあって、インタビュー前に整体を予約してみました。水木さんは、どうやって体のメンテナンスをしているんですか?
水木さん:ここ10年くらい、ずっとメンテナンスできてない状態やった。車で言ったらオイルが差せてない状態。で、最近、ちょっと余裕ができたから、釣りとかバイクに乗ったりとかできるようになった。
––以前から心のメンテナンスは行ってましたよね。
水木さん:ヨガは最近真面目に行ってる。三津のパン屋さんでチラシを見て、なんか、ここ本物やって思った所に。その時、精神状態があんまり良くないなって思っていて、呼吸やなあって思ってた。ずっと行ってない時期もあるけど、最近ちょっと本気でやってる。呼吸が整うから体調が良くなると思う。
––ヨガかあ。何をしようかな。
水木さん:別に精神状態は良好なんやろ?
––良好というか、波があります。東京にいた時に1回心身を崩して、そこから、なんか、波あるなあみたいなのがあって、それをどう整えたらいいのかがわからない数年間で。それで、鍼灸や整体に行ったりとか、カイロプラティックとかもやってみたんですけど、通うのも大変で。松山に来たから、どこか一ついいところを見つけたいなあって思って探し中なんです。自分に合う、整える場所を。
水木さん:まあ、人間、あるよね。その波を消していくためのことだから。そこが、ヨガで変わってくる。ポーズして、瞑想して。すごい人になったら、いつも気持ち良い状態でいられる。たまに心が気持ちいい時があるやろ?
––なんか、ノッてる、なんでもできそうな時ってありますね。
水木さん:その状態になっていく。一番、幸せなことだから、してみたらどう?
––でも、水木さんと同じところに通うのは恥ずかしいかな。調べて、ちょっと様になった頃に(笑)。釣り道具もありますが、釣りも何かいいんですか?
水木さん:無心。この間、山に行った時も5時間くらいしおったんやけど、一瞬やった。いやあ、いいよ。無になれる。
フライフィッシングの仕掛けを見せてくれた
––そうか、無になれるのか。無になれること、なかなかないなあ。
水木さん:ヨガは最初はいらんことが入ってくるけど、釣りはない。ある意味、瞑想かもしれん。知人が、釣りは瞑想だみたいなことを言ってたなあ。
釣れんでもええかもしれん。もちろん釣れたらええけど(笑)。こないだは海で30匹くらい釣れた。
––それ、全部捌くんですか?
水木さん:いや、嫁さんがね。結婚して10年経って、初めて捌けるって知った(笑)
水木棟梁とgraft酒井は似たもの同士?!
––graftの現場ってどんな印象ですか?
水木さん:やりやすいねえ。やっぱり。こっちの提案を受け入れてくれる。職人ファーストみたいな。大石さんと同じこと言ってるかな(笑)。そこは大石さんも自分も感じてる。金銭的なところも、すごいよくしてくれて、逆に酒井さん大丈夫?
––ちゃんと、職人さんに儲けてほしいって。
水木さん:酒井さんが儲けとるのかなあって思う。やっぱねえ、そうじゃないと、嬉しさ半減するしね。こっちも。まあ、これからよくなるやろう。
––水木さんと酒井ってタイプが似ているんですかね。似た者同士っていうか。
水木さん:似とるとは思う。顔は似てないけど(笑)。似とる感じする?
––うーん、しますね。どこがって言われると、なんか、人を優先しちゃう感じとか。
水木さん:優先しとるかなあ。
––優先っていうか、なんか、例えばお施主さんがよくなるために、まあみんなそうなんだけど、全力を出す先、スイッチがそうなのかなって。
水木さん:まあ、運命共同体って言っていたからなあ(笑)。「水木さんがやめる時は、僕もやめます」みたいなことを。ボランティアで、いろいろ宣伝もしてくれていたからね。感謝してる。
構造見学会の時の水木棟梁と酒井
水木さん:それまで全部一人でしてたんよ。今の家のレベルで一人はちょっと無理やなあと思って、それから酒井さんに間に入ってくださいって感じ。いろいろ決めてくれて、もう、決めてくれるだけで助かった。とはいえ元請けでもお客さんと話はできるから、ええよね。
だから、うまく話をしてくれる人がそういうのは適任ではあると思う。あの話術は真似できん(笑)
––そうしたいなあって見てるんですけど、お施主さんと話をする時にやっぱりすごく硬くなっちゃって。まだまだだなって。
水木さん:でも、あれは、酒井さんだからできるんやと思う。ゆりちゃんの個性を出したらいいと思うよ。
––ゆりスタイルが何か、その辺、まだわかってないので、探しています。
水木さん:酒井さんは特別だから(笑)。やっぱ話していたら面白いよね。惹きつける。
––何かその場が和みますしね。
水木さん:うん、素晴らしい。
みずき工房の未来
––みずき工房のこの先をどう考えていますか?
水木さん:さっきも言うたけど、悪い事せずに終われたらいいなって。
––いいものをつくり続けて、ですかね。
水木さん:いいものとは思い続けとるけど、内心。今の時代、悪い事せん方が難しいことない? 素材にしても。
だから100%は求めんのよ。今の時代無理。それやったら、車に乗るなっていう話になる。だから、もう仕方ないとこは仕方ない。なるべく、悪いものを出す量を減らすみたいな感じ。
––まだまだ、住宅をつくり続けていたいですか?
水木さん:釣りしたい(笑)。けどまあ、目が見える間はつくりたい。目が悪くなったら、もうええ仕事ができんなるから、その時は、引こうかなあって思っとる。で、もう段取り役に回る。まあ、この10年くらいは、段取りばっかりずっと年寄りがやるようなことをしてきたから、またそこに戻るかもしれん。来年、戻っとるかもしれんけど(笑)
墨付けをしている水木棟梁
––いや、まだ目が見える間は頑張らないと。
水木さん:そうやねえ。
––段取りに回っても、同じ志の大工がいないと実際にものは生まれないから、仲間が常にいる状態でないといけないっていうことですよね。
水木さん:同類が寄ってくることない? やっぱ、大石さんみたいにねえ、ああやって若い子を育てんとなあって思う。自分が育ててもらうんかもしれんけど(笑)
だから、学校にちょっと行ってみようかなって、近いうちに。高校の時の担任が校長先生になっとるみたいだから。ええ子が来てくれたらいいのに。ちょっとわからんね。未来はわからん。
3時間にわたるインタビューでしたが、水木棟梁の感想は「一瞬やったねえ。あんまり喋った感じがしないなあ。まるで無の境地! 釣りみたい」。今すぐ釣竿を持って海に向かいそうな雰囲気でした。伝統構法で、可能な限り自然素材を使うという、一般よりも難しい仕事にストイックに向き合いながら、こうした一面も持ち合わせているところに周囲の人たちは魅かれるのかもしれません。
<取材を終えて>
「悪いことをせん方が難しい」
心に残る言葉でした。
建物に使う素材のことは、graftで仕事をするようになって強く意識をするようになったのですが、目の前にある状況、情報を当たり前とせずに、なるべく悪くない方を選ぶことを忘れないようにしたいなぁと改めて思いました。
みずき工房
愛媛県伊予市宮下558
TEL 089-992-9731
https://mizukikoubouehime.wixsite.com/mizuki-koubou