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醤油と建築。歴史をつなぐ、新たな挑戦に寄り添う|梶田商店

本物の味にこだわり、醤油や味噌の醸造業を営む梶田商店梶田泰嗣さん沙織さん。代々続く古い蔵を、磨けば光る原石と感じた梶田さんご夫妻は、代替わりしての新たなチャレンジとして、蔵の改修をgraftに依頼しました。

お施主さまインタビュー「しなやかな暮らしを紡ぐ」では、梶田さんご夫妻とgraft代表の酒井が、当時のことを振り返りながら語りあいます。梶田さんが醤油づくりを通して実現したいことは、食だけでなく、どの分野の世界にも通じること。それは、graftが建築を通して実現したいことにも重なるものでした。

今回のお施主さま:梶田泰嗣さん、梶田沙織さん(株式会社梶田商店/愛媛県大洲市)
聞き手:酒井大輔(graft)
構成:新居田真美


本物を追求する醤油蔵の新たな挑戦

料理好きなgraftの食卓に、梶田商店の醤油は欠かせない。芳醇な香りで、ひと匙、ひと回しかけるだけで、シンプルな料理が味わい豊かになる。県内外の料理人やソムリエからも、信頼を置かれている醤油だ。

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その味が生み出される理由の一つは、今では数少なくなってしまった自社醸造であること。原料の仕入れから醤油になるまでの全工程を自社で行うため、地元の農産物を厳選し、生産者の想いも汲みながら醤油づくりができる。添加物にも頼らない。さらに、早く醸造させる製造方法をとらず、蔵で受け継がれてきた微生物とともに、職人が寄り添いながら、時間をかけて自然に醸していることも、この蔵でしかできない味につながっている。

記録を辿ると、1874年以来、愛媛県大洲市で「巽醤油」を醸し続けてきた醤油蔵。県道43号線に佇む建物は、積み重ねてきた年月を感じさせる佇まいだ。

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暖簾をくぐると、醤油や味噌が並んでいて、漂う香ばしい醤油の香りを感じながら、じっくりと選ぶことができる。


私たちの身体をつくる「食」。日々の積み重ねだからこそ、何を食べるのか、それを自分の意志で決めることはとても大事だ。だからこそ、13代目の梶田泰嗣さんは、命をつなぐ食べもののつくり手という自負の元、昔ながらの本物の味に、真面目に向き合ってきた。同じ想いを共にする奥様の沙織さんは、自社の醤油の味を伝えるとともに、自分も含めた忙しいママさんが子どもたちに安心して食べてもらえるお惣菜や食材、信頼できるつくり手が醸す日本酒やナチュラルワインなどを販売する店「iino assemble」を思い描く。そんな新たな挑戦を始めるために、蔵の改修をgraftに依頼した。

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伝統的な醤油づくり伝統的な建物や技術を生かす建築。つくるものは違っていても、自分も周りも生かしあうものづくりに携わる、そんな人たちがチームとして協働する中で、graftは二人の想いを受け止められたのだろうか。梶田さんご夫妻にお話を伺った。


人を生かし、建物に新しい命を吹き込む

梶田泰嗣さん(以下、泰嗣さん):実は、酒井さんに相談する前に、設計図を書いてもらった方がもう一人いらっしゃったんですよね。でも、体育館のような建物っていう感じで、あのまま出来ていたら、雰囲気とかいろんなものが180度違う場になっていたなあと。

だけど、酒井さんは、うちの建物のことから、建物全体を見ていただいて、この場所、この雰囲気に一番寄り添った形のものをつくってくれた。だから、価格では表せないくらい、満足しているよね。結果、建物に新しい命を吹き込んでもらっている

梶田沙織さん(以下、沙織さん):なんか、その建物の歴史がまた繋がった感じ

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泰嗣さん:そうだね。階段をつくってください、トイレをつくってください、こういう売り場にしたいんですっていうことを、僕らなりのデザインを考えて酒井さんにお願いしたんです。それを単に遂行しただけでなくて、その売り場が今まであった建物とどう融合していって、どういうふうに時間とともにその店になっていくのか、お客様にとって喜ばれるものになるのかどうなのかって、いろんなことを考えてくださって、アイデアを出してもらった。だから、違和感ないっていうか、満足度が全然違ったんだろうな。

あの、自分の仕事に置き換えると、お客様って、手づくりだからきっと美味しいのができるよねって思っている人もいる訳ですよ。農業でも無農薬だから全てがいいと思っている人も多くいる訳です。でも、無農薬だからいいものかって言ったら、無農薬っていうそこだけに捉われていて、中には、化学肥料をバリバリ使っている無農薬の農家さんもいる訳で、それって非常に怖くて、危なかったりするんですよね。無農薬だから何でもかんでも、安心で美味しいかって言ったら、そうじゃないんですよ。そこは、どういった仕事をするかが大事だと思っていて、そういう意味で僕は酒井さんの仕事は本当に素晴らしいなって思っています。最後は結果じゃないですか。

酒井さんという建築士さんが、その建物のことを最大限に生かしてくれたっていうか、一番最初に僕らが想像していた出来上がり以上のものができているっていうのが、お願いした側としての僕の一番素直な意見ですね。僕らが支払った対価以上の仕事をしてもらっていると思う。

やっている途中で、細々とこういうふうにしてくださいっていうのはありましたけど、終わってから、もっとこうして欲しかったなあっていうところってないよね。

沙織さん:うん。ちゃんとこう、ゴール地点はあるんですけれども、そこをただまっすぐ進むんじゃなくて、そのゴール地点に行くまでに問題が発生したりする中で、ちゃんとその時々に適切に判断していただいて。こう曲がりながらも、ゴールよりもっといいところを目指してくださるっていう。今回、そういった仕上がりだったんですよね。

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酒井:ありがとうございます。あの、僕の中で、やっぱり二人のキャラクターが入ってきたんです。二人が描かれたビジョンって、それは最初、沙織さんからお話を聞いていて、僕も前からあの建物のこともよく知っていて、そこを自然食品を扱う店舗にしたいっていう話から来たから、その目で眺め始めた。その後に、沙織さんからスケッチがやってきて、その時点で、イメージとミックスされて、描いたそのものをどう再現するかになったんですよ。それがあの紙(図面)になっているんですけど。だから、最初から絵をいただけていたんです。

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泰嗣さん:縛りを与えていたんですね(笑)。

酒井:デザインって面白いのは、縛りがあった方がいいものができるんですよ。自由課題って言われることほど、解き放たれるほど、難しい。アーティストじゃないんですよ。

泰嗣さん:わかる、わかる。

沙織さん:やっぱり、ある程度、着地がなんとなくわかった方が広がるというか。

酒井:そうですね。だから、店舗もそうだし、まあ、デザインもそうだけれど、必ず運用するものだから、運用する人のことも知りたいんです。だから、そのためにずっと会話をしてたら、まあ、二人とも、たくさん返して下さるので、逆に、その縛りが良かった

それで、あとは、それと大工の大石さんとのマッチングなんですよ。そのための図面を描くから。だから、僕が忙しすぎたっていうのもあるけれど、描きすぎない図面を描いたんです。細かいところを、収まりとかを描きすぎない図面を描いていて、だから、本当に細かいディテールは、家守屋・大石誠さんの作です。

大工の家守屋・大石誠さんと司さんについては、こちらの記事をどうぞ▽


酒井:細かいディテールで言うと、あのトイレに入るところの(カマチ)とか、全部大石さんのアイデアで、僕のアイデアではないんですよ。だからそれは、僕がお二人の意向を伝え、どうしようかって一緒に悩んで、ポンって出してきてくれた答えがそれ。だから、苦労したというよりも、みんなが出し切ってくれたそれを僕は楽しんでいたっていう(笑)。
「おおっ、そう来る! いいっすね! それ、マジで?」「大石さん、それ大丈夫ですか、金額合わないことないですか?」「いや大丈夫、大丈夫」って言ってくれるから、もう安心して、お願いしますって。

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写真上:改修後 写真下:改修前

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酒井:多分ね、現場のみんなが楽しかったと思うんですよ。わくわくしながら、やっていた。僕も図面以上のものが出来上がってくる楽しみがあったから、現場に行くのが楽しかったし、多分、それがみんなに伝染すると思って、毎日やっていた。だから、大石さんも、お二人がちょっとずつ自然にどんどん喋ってくれるようになったのが嬉しかったって喜んでいたんですよ。声かけてくださるのが。

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写真上2枚/階段の踏み板をよく見ると、節穴に埋め木がなされている。梶田商店のロゴの桜や醤油瓶のデザインに、大石さんの粋な遊び心を感じとれる。

泰嗣さん:いやあ、大石さん、すごく素敵です。僕が、何より嬉しかったのは、酒井さんが連れてきてくださった大石さんとの出会いです。あの、極端な言い方をすると、結局、人なんですよね

酒井:いや、もう本当に、僕も大好きなんです。すごく尊敬しているんです。

沙織さん:大石さんに建物をよろしくお願いしますって言ったら、家守として、これからもお願いしますっていう言葉が返ってきて、すごいなあって思った。なんか、今、任せられる人って、そうそう職人さんも少ないですし。うちのお父さんなんか、いつも仕事をじいっと見てました(笑)。

酒井:でも、それも、大石さん、嬉しかったんですよ。あの、昔の図面とかを、持ってきてくださったりとか。そういうお施主さんとのやり取りを、また息子の司君が見ているわけなんですよ。そうすると、いつか自分も棟梁になった時に、ああ、お施主さんとああやって話したらいいんだとか、そもそもお施主さんと話していいんだとか、そういうことをわかっていく機会にもなったと思います。

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つなぎ直せ、紡ぎ直せ、次につなげるための進化を

沙織さん:まあ、リノベーションもいろいろあると思うんですけど、一気に全部を変えるってすごく難しいと思うんです。お金もかかるし。その中でちゃんと計画性を持って対応して、今はここをやりましょうって言ってくださって。だから、ゆっくり、無理しないで、ちゃんと直していける

酒井:住みながらつくる感じですね。

沙織さん:そうです。住みながら、一個ずつ確実に直していく、使えるようにしていくというように、本当に、こちらの歩幅に合わせていただいています。

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沙織さん:梶田の場合は醸造業なので、第一優先を考えると、お父様の時代っていうのは、どうしても機械とかで、建物ではなかった。そこはどうしても最後なので、放ったらかし状態に。でも、だからこそ、今やらなければならないと思っています。やっぱり、蔵って面構えじゃないですか。中じゃないんですよ。

だから、そこをどこまで外の人たちが中の空気を感じることのできる空間をつくるか。これからはそうじゃないといけないと思うんですよね。閉鎖的でなくて、外から、人を引っ張るためにはどうするかっていう。

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沙織さん:今まで閉じていた空間でものをつくってきていたんで、それを変えるっていうのは、なかなか難しい。最初、蔵人さんたちの意識は、なんでそんなことをするんだって思っていたと思うんです。でも、今は、逆に中の人たちが「何してるんだろう?」っていう興味を持ってくれて、意識改革にちゃんと通じているところはありますね。

あとは、やっぱり、田舎なので、どうしても首都圏の考えが入ってくることがあまりないじゃないですか。もう、今までの時代の流れのままなんですよね。だから、そこに少しでも風を入れることで、みんな意識が変わってきていると思います。で、動きも変わってきているし、ちょっと社交的になるっていうか、外の人にもちょっとずつ対応できるようになることを私たちも期待しているんですけど。だからこう、今回の改修は、蔵人たちにとっても、すごくいい影響を与えてもらっています

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酒井:建築は目に見える変化だから影響を受けるというのは絶対にあると思いますね。そして、それは、お施主さんだけじゃないというのが、今、すごくよくわかって、ちょっと嬉しいです。環境を変える意味ってそういうことがあるんですね。刺激なんですよね。それが意識にまで及ぶっていうのは、ちょっと僕も気にはしていたんですよ。泰嗣さんの話は、前からチラチラ聞いていたし、沙織さんと話すとやっぱり、そこに想いがあることがわかっていたんで。で、あと、やっぱり代替わりの時期だったじゃないですか。

沙織さん:はい。ちょうど。

酒井:組織としても、すごく大きな新陳代謝の時期だったでしょう。だから、何かやりたい気持ちがそこに繋がっているっていうのがわかった。ただ、人の意識を変える難しさは、一朝一夕にはいかないっていうのもわかっているから、これ、長丁場やなと。それでも、そこに、沙織さんがチャレンジする姿勢が日に日に見えて理解できたから、その時のことを思い返すと、今の話は、驚きだし、感動しているし、すごいなと思っている。

沙織さん:いや、もう、本当に、埋もれているものがすごい多すぎるなあって。まあ、それは日本全国そうなんだと思うんですけど。そういったものをもう一回こう掘り出して、新しいものにする……じゃないな、なんだろう。なんて言えばいいんですかね。

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酒井:僕ねえ、なんかストンって切られているような気がするんですよ。ここから先、もっとよくできていたはずのダイヤの原石みたいなものを、なんか、多分、経済性とか生産性とか効率性とかで、いろんなことをストンと切ってしまったんだと思うんです。で、それを、つなぎ直せ、紡ぎ直せ、で、アップデートしろ、次につなげるための進化をさせなさいっていうお題をもらっているような気がするんですよ。だから屋号をgraft(接ぎ木)って言うんですけど。

古いものの良さに気づいたならば、それを磨きなさい、もう一個次の上のステージに進化させなさいっていうことを、今、代替わりした僕たちが担っていかなければならない。なんかこう、都会から田舎に来た僕らは、新しいものをゼロからつくるイノベーションっていうよりも、それはそれでやっている人たちがいるのでいいんですけど、でも何かもっとこう土着的なものと向き合わなければならないと思うんです。

都会だったらとっくに進化していたはずのもの、もしくは、都会では廃れてなくなったものがまだ残っているならば、それをうまく加工したい。というか、した方が、たぶんより都会にないもの都会の人が羨ましがるもの、もっと言うと、都会の技術で磨かれるはずのものをつくっていける気がするんですよ。

だからねえ、僕、沙織さんがやろうとしていることも、結局、そういうことだろうなという理解なんです。

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沙織さん:だって、都会にいたら、こういった古民家なんてすごくみんな探しているじゃないですか。空くたびにすぐ入られて、直して。

でも、お父さんたちの世代は、こんなものもういらない。あの蔵自体をもう使えないから、見て見ぬふりをして、放っておいてしまった。でも、私から見たら、すごく原石です。

酒井:遺産ですかね?

沙織さん:はい! だから、私がそのまま都内にいたら、絶対にすごく羨ましいなあと思いますね。こんなところを、この蔵を変えていける。でも私にはその力がないので、やはりそれを表現する、形にしてくれる人の存在って、自分の中でやりたいことにつなげるためには、必要不可欠といいますか、自分だけでやるのは無理ですね。それこそ、大石さんを職人っていうんですけど、私、酒井さん自体が職人の域だと思います。本当に。

酒井:ありがとうございます。嬉しいです。

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リノベーションと新築、どちらがやりたい?

沙織さん:その、古いものを次に紡いでいくのと、新しいものをつくるのと、どちらの方がやりたいんですか? どっちも?

酒井:たぶん、どっちもだと思うんですよ。でも、もっと言うと、僕ねえ、変な言い方ですけど、やっぱり今ここに来て、新築大事やな、新築がいいなと思ってます。

これだけ古い建物を見たときに、まあ、当たり前ですけど、新しかった時代があるじゃないですか。で、100年超えて残っている意味があるなあって思うんですよ。だから、それを、つくりたい、つくるべきやなって思っていて。ただ、それって本当にいいものをつくりたいっていう想いなんですけど、そのために今、すごく良い教材で学ばせてもらっているって感じです。

僕自身もだけど、そこに携わる大石さんとか、司君みたいな若い子が先人の技を解体しながら知れるんですよ。そうか100年前はこんなことをしていた、90年前はこんなことをしていたんだっていうのを。だから、これを学び切った後につくるものを僕も見たいんですよね。

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沙織さん:酒井さんは、昔からの建物をリノベーションしたりしてますけど、たまに思うんですよ。新しいものをつくったら、どんなものをつくるのかなって。

酒井:それをねえ、やりたくなっているんですよ。で、自分も設計者である以上、自邸をつくりたくて、そこに注ぎ込もうと、今思っているんです。何年もかけてそれをやろうと思っていて、僕らの大工仲間もやっぱりねえ、これからに残す新築をやりたがっています。それは、大石さんもそう。古い建物を触るのもすごく楽しいんだけど、やっぱり、学んだことを生かしたいんですよ。で、それを引き継ぎたいのかな。本能的に。それを未来に残したいのかな。

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沙織さん:面白い! なんかパッと、ルーブル美術館で絵を模写している人を思い出しちゃいました。先人のものをずっと自分たちで模写して書いていて、で、いつか、モノにした時に、自分の作品をつくる。皆さんそうですよね。

酒井:美ってそういう世界なんですね。

沙織さん:海外の美術館に行くと、本物の作品の下で、皆さん、一生懸命描いている。ずーっと模写して、模写して、学んで、そして、生み出していくっていうのが、すごく今それがパッと思い浮かびました。

酒井:ああ、そういうことか。それに近いかもしれないですね。

沙織さん:誰かが教えるとかではなくて、もの静かなものの中で、それをこう、盗み、学んでいく姿勢

酒井:ああ、だから大石さんたちは、間違いなくそういう謙虚さがあって、だからこそあの屋号だし、なんですよ。だから、やっぱり普段からそういう方々と接しているから、もし、僕が職人っぽく見えるんだとしたら、そういう文化が入っているんだと思います。そういう空気感とかを見抜く沙織さんがすごいと思いますよ。ご自身が創作活動とかをやってきたっていうのがあるかもしれないですね。

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沙織さん:いやいや、なんにも。でも、向き合うっていうのは、やっぱり、孤独だけれども、いろんなものが入ってくるんですよね。感性が鋭くなるっていうか。

酒井:わかりますよ。なんか、感度を上げていけばいくほど、情報量が多くなるので、自分を保つのが結構大変になるんですよ。でも、その中で形にしないといけないから、何かそういう形にする作業って、決めていく作業なんで、そこからまた絞り込んでいったりするんですよね。そうなると、結構、辛い時期があるんですよ。マインド的に辛い時期がある。でもね、それは、僕は想像するに、実際手を動かしている人の方が、大変なんだと思っているんです。僕なんかは図面を書いて、横で、頑張れ頑張れって言っているだけだから。

沙織さん:でも、その頑張れに、私もすごくやらなきゃなって思いましたよ。後ろを押してもらっているなって、すごく感じます。素晴らしいアイデアを持ってきてもらえるので、すごくこうイメージが湧くんですよ。自分のマインドを上げるのにも助かっているというか、やはりなかなかそこまで言ってくれる方っていないです。お金とかは抜きにして、今後も、一緒に付き合っていける

飲食店さんだってこれから先がわからないと思うんです。そういった中で、自分がこれから新たに食の仕事を始めようとする時に、背中を押してくれたり、酒井さんの考えを教えてくれたりして、すごくいい流れ、いい気をいただいています。自分のお店を開業するまでって、本当に寝る暇もご飯を食べる暇もないと思うんですよ。そのマインドをそのまま保つのは結構しんどい中でも、酒井さんの声がけがあることによって、何回も起き上がれていて、ありがたいです。

そして、本当に任せていられるんですよね。その任せている時間、自分のスタートに向けた準備をちゃんとできる。必要な時は一緒になって、明日もお願いしますって、それぞれの分担仕事でやっていただけるような。

酒井:そうですね。プロジェクトメンバーっていう感じですよね。本当に。

沙織さん:だから、本当に楽しいんですよ。

酒井:そうですね。僕も楽しいです。

沙織さん:つくる方が、出来上がるまでが楽しくて、その後をちゃんと考えなきゃいけないのにダメですね(笑)。でも、本当に一緒に考えている時間がすごい楽しいです。

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良いご縁が、良い循環を生む

泰嗣さん:あの、酒井さんのおかげなのか何なのかわからないけど、酒井さんとこうやって話していると、いい風っていうかね。酒井さんと絡んでなんかやっている時に良いことが起こるよね(笑)。

酒井:なんか、逆にプレッシャーになってくるんですけど(笑)。

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泰嗣さん:いや、でもねえ、先ほども言いましたけど、僕らも大石さんとの出会いは、本当にありがたかったし、そういうきっかけをつくってくださったのは、酒井さん。その酒井さんと出会うきっかけをつくってくださったのは、うちにとってはすごく大事なお客様、愛媛県松山市の道後の生活道具店「BRIDGE」の店主・大塚さん。大塚さんが酒井さんを紹介してくれた。

だから、やっぱり、僕は、縁尋機妙 多逢聖因(えんじんきみょう たほうしょういん)っていう言葉をすごく大事にしていて、ある方から頂いた言葉なんだけど、本当になんていうか回っていますよね良い方向にどんどんご縁がつながるってありがたいなあと思いますね。だから、良い気が流れてくるじゃないですか。

良い施主さんがいらっしゃって、その方が酒井さんと組んで、で、良い借主さんが現れて、で、そこに良いお客様が集ってきて、で、良い流れがこう、生まれてくる。その一つのお仕事をされているのが酒井さんだと思うし、僕らもそうありたいですよね。

うちの巽醤油を使っていただくお客様にとって、この醤油美味しいな、よかったなって家庭料理に使ってもらって、その家族の人が喜んでくれて。で、それが飲食店さんだったら、そこに来るお客さんが美味しいねっていい形になって
、っていうね。そういう存在で僕らもありたいなと思うけど、まさに僕らにとって酒井さんは、そういう場をつくってくださるから、なかなか他の人にお願いしづらいよね。

沙織さん:もうできないですよね(笑)

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互いを尊重するフラットな関係を

泰嗣さん:大石さんを見ていて素敵だと思ったのは、手に職を持ってらっしゃる人ってすごいなって。

酒井:本当にそうですね。どんな角度で、どんな難題を降りかけても応えるんですよ。

泰嗣さん:それがすごいよね。それって、結局、技術があるから応えられるわけですよね。

酒井:そうです。そうです。

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写真上/家具も手がける、大石さん制作のワインボトルスタンド。空間に馴染み、ワインボトルを引き立たせる。

泰嗣さん:いや、本当にすごいなあ。職人さんってかっこいいなあって思いますね。

沙織さん:自分もでしょう(笑)

泰嗣さん:僕は、表現しているものが、お醤油っていうかね。まあ、同じ職人さんかもしれないけど、あの、僕らの仕事っていうのは、一人一人に対してカスタマイズできないんですよね。例えば、A さん用の醤油、Bさん用の醤油、Cさん用の醤油って、一人一人にカスタマイズされたお醤油ってなかなかしないし、できないじゃないですか。単価も違うから、それって僕らにはできないことで、すごく羨ましいことでもあるんですよね。

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泰嗣さん:先日、1回でつくる通常の3分の1の量で仕事を受けちゃったら、ああー、これちょっと、次回からこの3倍の量で受けないと割が合わない、ごめんなさいだわっていうことがあって。これだと、みんなが横に繋がれないっていうか、誰かがどっかで無理しちゃっているんだよね。

沙織さん:それを考えると、今回の改修は、私たち頼む方、酒井さん、大石さんが、ちゃんとこう、横につながっている

泰嗣さん:今、すごくいい表現をしてくれて、僕らが目指しているところっていうのは、そういうフラットな関係なんです。

梶田商店図r3

泰嗣さん:例えば、ここ(醤油のつくり手)に自分がいるじゃないですか。実は僕らは、出発点じゃないんですよ。あの、僕らが仕事をするためには、材料をつくってくれている農家さんがいるわけですよ。農家がいて、で、僕らがつくった醤油を伝える人がいる。この伝え手が何なのって言ったら、これが、いわゆる、うちらからするとパートナーになったりするんだけど、販売店さんだったり、飲食店の料理人だったり。そして、この先にお客様がいるんですけど、これが、直接の場合もある。

スーパー(販売店)は、お客様の言うことを絶対聞くんですよね。で、そのスーパーが聞いたことが全部うち(加工する人)に来て、言うことを聞く。そして最終的に農家(生産者)。だいたいこういうふうになるんですよね。つまり、トップダウンじゃないけれど、パワーバランスが一番強いのは消費者。次に販売店がちょっと強くて、最後にいじめられるのが原料の生産者なんです。常に上から下への感じになるんだけど、僕はここをフラットにしたい。お客様が逆に、販売店に感謝して、で、うちのことも見えるし、実はうちには、こういう農家さんがいるんで、って、農家さんのことまで見てくれる。お互いがお互いを尊重しあいながら、意見が言いやすい、っていうか、風通しがいい関係ができたら、一番嬉しいなっていう。

対等にっていうか、お互いを尊重しあいながらやっていると、人間関係もそうなんだけど、そういう意味では、うちのお客様に対して、媚びへつらうということもしなくてもいいし、ちゃんと対等にエンドユーザーも含めてつながっていくことができると、無理をする必要がないじゃないですか。どこかに無理が、しわ寄せがいくこともない

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泰嗣さん:これ、何の仕事にも通じると思うんですよ。なんか大石さんの話でいうと、うちが施主っていうか依頼主。うちがまず酒井さんに仕事を依頼しました。そうすると、酒井さんがそこで考えて、大石さんっていう大工さんに依頼。だから、言い方悪いけど、一番いじめられるのって大工さんじゃないですか。

沙織さん:でも、今回は、なんか、元請け、下請けっていう感じじゃないですもんね。

酒井:そう、チームなんですよ。僕はその中にお二人がいると思っています。


しなやかな人ってどんな人?

最後に、graftのコンセプト「しなやかな暮らしを紡ぐ」について、聞いてみた。

泰嗣さん:しなやかな暮らしを紡ぐっていうのは、僕がパッと思い浮かんだのは、無理のない暮らしかな。無理がないっていうか、自然っていうか。ナチュラルっていう言葉がいいのかどうかわかんないけど、人それぞれだと思うけど、息苦しくないっていうか。

沙織さん:そうだね。のびのびしてるとか。

酒井:そうですよね。

泰嗣さん:変に肩肘張る訳でもないですし、伸びやかなっていうか、健やかっていうのもなんかちょっと違うけどね。無理のない自然な普段通りっていうかね。

酒井:しなやかって僕、好きなんですよ。あの、折れないっていう。ただ、ふにゃふにゃでもない、硬い訳でもない

沙織さん:でも、ちゃんと芯がある

酒井:そうなんですよ。その折れないっていうのが、ええなあ。僕もそうありたいなあ。一回、心折れたなあ、俺(笑)。だから、しなやかでおりたいなあと、自分に向けて言っているんです。

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泰嗣さん:なんだろう、変な話だけど、しなやかって言葉の中にちょっとだけ芯があるっていうか、強さ。だけど、決して、強すぎないっていうかね、優しい、無理をしてない

酒井:だからね、僕ね、結構変な話なんですけど、その強さの中に、したたかさとか、生きる上での必要な毒みたいなものを持っていてもいいかもと思ったんですよ。そういう、程よくないとしなやかでいられない

泰嗣さん:程よくっていい! そう、言葉って大事ですよね。すごい大事。僕よく言って怒られるんだけど、言霊とか。

沙織さん:そうそう、言霊って、私はやっぱりあると思うんで。

泰嗣さん:言葉には力があって、で、言わないと実現もしないしネガティブなことを言っていると、自分に返ってきそうなところもあるし、悪口言ったら返ってくるっていうようなところもあるだろうし。そういう意味では、しなやかって誰も傷つけない

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沙織さん:しなやかに生きる

酒井:生きていきたいですね。しなやかに。

沙織さん:うん、その時その時に、ちゃんと対応しつつ

泰嗣さん:しなやかに生きるって言われると…。

沙織さん:えーっ、かっこいいじゃない! すごく、それって洗練された都会的な要素はあると思いますよ。

酒井:ある意味、そこにたどり着くんだと思うんです。

沙織さん:しなやかに生きるとか、しなやかな女性とか。

酒井:しなやかな女性って、すごく素敵だと思う。

泰嗣さん:でも、しなやかって、すごく大事なことだけど、僕は都会的には思わなかったな。かと言って田舎的にも思わなかったし。

酒井:だから、すごくニュートラルなんだと思うんですよ。受け止め方で、いかようにも感じられる、余白だらけの言葉だと思います。


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––インタビュー終了後も、しなやかな女性とは誰だろうという話題になり、森光子からキャサリン妃の名前まで飛び出し、話は尽きない。芯があるという点では、梶田さんご夫妻も「しなやかな暮らしを紡ぐ」に、十分当てはまるのではないだろうか(ご本人は否定されるかもしれないが)。
伝統とともに歩む老舗醤油蔵の新しい挑戦は、ないものは自分でつくる、そんな気概に溢れていた。そこには、生産者と消費者の行き過ぎた力関係を変えたいという想いも。そんな人たちが真面目に醸す醤油、そして新しい店舗からお届けする味を、ぜひお試しいただきたい。


株式会社梶田商店
〒795-0054 愛媛県大洲市中村559番地
営業時間:8:00〜17:00
定休日:第2土曜、日曜、祝日、年末年始


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