#9. フィリピンの航空券
申込書によくあるような、いわゆる「フォーム」が好きだ。
項目ごとに罫線で仕切られていて、ボールペンで書き込むようになっている、あれ。
Helvetica Condensedの小さな文字が詰まった英語のフォームに書き込む機会があったりすると、ちょっとワクワクしてしまう。
これは10年前に楽天の輸入文具ショップで買った、アメリカの棚卸票(inventory tag)。
私には在庫管理が必要なものなど何ひとつないが、ネットで見ているうちに欲しくなってしまった。
今でも本を読むときに栞(しおり)として使っている。
もし日本人が同じようなタグをデザインしたら、外側を罫線で囲ってみたり、太罫と細罫を使い分けてみたりするのかもしれない。
「気配り」は日本人の美点ではあるが、よけいな気配りをしない美しさというものもあると、これを見ているとあらためて思う。
フォームに手書きの文字が書き込んであるものも好きだ。
これは台湾で入手した、宝飾品店の広告。
この手法は「アイドル歌手のプロフィール」などでよく見かける、デザインのネタとしてはありがちなものだ。
とはいえ、このようにフォームに手書きで記入されていると、やはり思わず内容を読みたくなる。
近年は「手書きの手紙のガチャガチャ(カプセルトイ)」というものがあるらしい。
誰かが書いた手書きの文字というのは、デジタル化が進んだ時代には特に心惹かれるものなのだろう。
フィリピン航空のオフィスに航空券を買いに行ったとき、手書きのチケットを渡されて驚いたことがある。
30年近く前とはいえ、航空券は機械で印字されているのがあたりまえだったので、ほんとうにこれで乗せてくれるのかと少し不安になった。
宿泊していたバギオの民宿にゴキブリが100匹ぐらい出たり、親切そうな人に騙されたり、風邪をひいたりしたことが理由で、フィリピンからの帰国の予定日を早めた。
この手書きのチケットを見ると、今すぐ日本に帰りたかった日のことを思い出す。