ニッポンのプリン
台湾人のT君がプリンを注文したときには、思わず耳を疑った。
プリンなら、この喫茶店に入るほんの15分ほど前、君の彼女がプリン専門店で買ったばかりではないか。
「あのプリンはホテルに帰って食べるのであって、今は別腹だ」と平然と答えるT君。
彼は日本のプリンがとても美味しいという。
というよりも、台湾のプリンが絶望的なほどにまずいのだという。
日本と台湾で何が違うのか理由はわからないが、台湾のスイーツ専門店で売られている高級なプリンよりも、日本のコンビニで売られているプリンのほうがはるかに美味しいという。
生クリームのたっぷり乗ったプリンが運ばれてきた。
ていねいにスプーンですくい、ゆっくりと口に運ぶT君。
おおげさすぎるほどに目を丸くしている。
「これはね、今まで食べたプリンで一番おいしい!」
いくらなんでも、それは褒め過ぎだろう。
しかし『銀座ルノアール』の担当者に聞かせてあげたら、飛び上がってよろこぶに違いない。
味の好みというのはひとそれぞれ違うし、T君は過剰に日本びいきなところがあるから、まあ話半分くらいに聞いておかねばならない。
とはいっても、日本人としてなにか誇らしい気持ちにはなる。
かつて海外へ行って自分は日本人だと名乗ると、「TOYOTA、HONDA、SONY、スゴイ!」と口々に言われたものだ。
それらはまったく自分の手柄ではないのに、やはりちょっとうれしく、誇らしかった。