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友だち0人で孤独な日々。“はずれ者”だった彼が「学校が嫌でも行く意味はある」と語る理由

集団行動の“ルール”や“協調性”を初めて学ぶのが学校という場。そのなかでまわりとうまく関係性を築けないことから「生きづらさ」を感じている人も多いかと思います。

今回取材したのは、兵庫県・三田市で古民家を再生してつくったコワーキング『OFFICE CAMPUS』を運営する古家 良和(こや よしかず)さん。

現在は人が集まる“場づくり”をしている彼ですが、「ずっと自分が孤独だと誤解していた」と語ります。それにもかかわらず、彼は今自分と同じように生きづらさを抱える子どもたちに対して、「学校に行く意味はある」と考えているそうです。

「辛いなら行かなくてもいい」と言う人もいるなかで、なぜそのような辛辣なアドバイスをしているのか。そこには、いわゆる“一般社会”に馴染めなかった彼の「社会」に対する考えがありました。

古家良和(こや よしかず)
1991年生まれ。関西学院大学 総合政策学部 メディア情報学科卒業。大学職員として、学生の自主的な学習の場である「ラーニングコモンズ」の学生コーディネーターを務めたのち、24歳で独立。デザイン事務所『TSUGINI』を立ち上げ、兵庫県三田市を中心にDTPデザイン、Web制作、写真撮影、映像制作など幅広く手掛ける。2019年からコワーキングスペース『OFFICE CAMPUS』の運営をスタートさせる。

友だちの悲しそうな目が忘れられない。生きづらさの先にあった「場づくり」への道

——古家さんは今、コワーキングスペース『OFFICE CAMPUS』を運営されていますよね。なぜ場づくりを始めようと思ったんですか?

古家:根底にあるのは、「悲しむ人の顔を見たくない」という想いですね。

実は子どものとき、ずっと孤独で辛い思いをしてきたんですが、一度だけ周囲の空気に合わせて“いじめる側”にまわってしまったことがあって……。自分もこれまで散々辛い思いをしてきたのに、自分を守るための唯一の手段だと思って、友だちをいじめてしまったんです。

——そんな辛いことが……。

古家:そのときに見た友だちのあまりに悲しそうな目が忘れられず。「もう誰1人として、こんな悲しい気持ちにさせてはいけない」と誓いました。

そこから、社会課題に関心を抱くようになったのですが、当時は場づくりにこだわっていたわけではなくて。

——そうだったんですか?

古家:最初に取り組んでいたのはメディアでした。大学で「メディアがもたらす社会への影響力」を学んだことをきっかけに、大学を盛り上げるホームページを立ち上げて、それがいかに大学を変化させられるかを検証していたんです。

でも、それだけでは大学を盛り上げることはできず……。そんなときに、再び授業で、人の幸せには「どんな情報を与えられたか」以外にも、「誰とどんな時間を過ごしたか」が関わっていることを学んだんです。

そこで、メディアから一方通行で情報を届けるのではなく、メディアを通じて誰かと出会えたり、話せたり、笑い合ったりできる場所をつくろうと、オフラインでのイベントを企画するようになったのが、場づくりの第一歩となりました。

——人の幸せを考えたときに、誰かと一緒に過ごす時間を提供することが必要だと感じたんですね。古家さんが運営する『OFFICE CAMPUS』にもそのような想いが込められているんですか?

古家:そうですね。実は、運営を始めた当時は、明確な方針はなかったんです。もともと自分の名前に宿る「を築くこと」をいつかはやってみたいと思っていたときに、三田市の古民家を活用するプロジェクトがスタートすることを知っただけで。

でも、スタッフのなかに、たまたま元摂食障害や双極性障害の当事者や、自分と同じように生きづらさを抱えてきたような人たちがいたんです。

自分自身も幼稚園から大学までずっとみんなに馴染めず、孤独を感じてきた経験がありました。

そこで、「それならば、『OFFICE CAMPUS』が生きづらさを抱えている人たちを受け入れる役割を担おう」と自分のなかにある運営方針を変えました。今は、当時の自分のような人たちの居場所になったらいいな、という想いで運営しています。

“一般社会”を知っているから、マイノリティが輝ける

——古家さんは、人生の大半を生きづらさを抱えながら過ごされていたんですね。

古家:本当にずっと、でした。他のみんなは普通に学校生活を送っているのに、自分は友だちとうまく付き合えないし、まわりとも合わせられない。

学校以外にも“社会”があることを知らない子ども頃の私にとって、「学校=自分が生きていく社会」だった。だから、そこに合わせられない自分はマイノリティで“はずれ者”だと思い込んでいました。

——学校は社会のすべてのように感じてしまいますよね。そこから、どうやって抜け出せたんですか?

古家:それが……いざフリーランスになってみたら、そんな人がいっぱいいたんです。「自分と同じような人って結構いるやん! 」と衝撃を受けましたね(笑)。

考えてみたら、マイノリティって人数が少なくて、他にはない“特異ポイント”があるから、マイノリティと呼ばれているだけなんです。たとえば、学校でテストがあったとして、成績順に並べていくと、上位ほど人数が少なく、下にいくにつれて人数が増えるようなピラミッド型になりますよね。

テストの場合、上位数%の人たちはその結果をポジティブに受け止められているはず。ピラミッドで見るか、逆ピラミッドで見るか、それだけの違いなんです。

つまり、「マイノリティ≠劣っている」ということ。もはや自分にしかないオンリーワンの長所とも言えるんです。

——マイノリティであることは、強みでもあるということですね。

古家:そうなんです! 希少なオンリーワン。むしろ生きづらさを感じているマイノリティな人たちを、私は勝手に“特殊能力者”と呼んでいるくらいです。

ただ、そう思えるようになったのは、大学を卒業して、さまざまな社会を経験してから。私の場合は、大学職員を退職してフリーランスになってからでした。

だから、生きづらさを抱えている子どもたちにはいつも「社会に出たら同じような人はたくさんいるから、今は我慢してみてほしい」と伝えていますね。

——え!? 辛いのに我慢ですか……!?

古家:あえて厳しい言葉を伝える理由は2つあります。

1つ目は、学校を卒業した先に広がるさまざまな社会には、“気の合う人たちが集まる社会・コミュニティ”というものは必ず存在するから。

学校では孤独に押しつぶされそうだった私でも、フリーランスになってからは本当にかけがえのない仲間たちと出会うことができました。そして今は、孤独や生きづらさを感じている人の一つの居場所として『OFFICE CAMPUS』という場をつくっています。

社会には『OFFICE CAMPUS』以外にも、同じように「安心できる居場所」があることを知っているからこそ、今辛い思いをしている人に対して「将来を暗く考える必要はないよ」「1人じゃないよ」と伝えられる。

私自身も「彼らに決して寂しい思いはさせない」と誓っているから、あえて「学校が辛くても我慢してみてほしい」と言っています。

2つ目は、いわゆる“一般社会”で生きた経験がなければ、本当に一般大衆のことを理解できない“ただのはずれ者”になってしまうから。

辛くてしんどい毎日を送っていると、「最初に学校を抜け出せば、ストレスから解放されて笑顔で過ごせるのでは」と思うかもしれません。

でも、私も学校では孤独を感じていたのですが、今となっては「あのとき学校に通っていてよかった」と感じています。学校というひとつの一般社会を知り、その“一般社会”と“自分”を比較できるようになって初めて、「マイノリティは自分にしかない魅力なんだ」と気がついたんです。

学校という一般社会に触れられる機会は学校生活だけです。一生に一度しか経験できない貴重な期間なので、ぜひ「一般社会とは何か」を学びに行ってみてほしい。

そして私は、勇気を持って前に進む彼らを「いってらっしゃい」と学校に送り、必ず「おかえり」と言ってあげられる”帰る場所”を用意していたいと思います。

アドバイスも特別扱いもしない。「生きづらさ」を言葉にしなくてもいい場所に

——子どものうちに「一般とは何か」をしっかり学ぶこと。言葉では理解できるんですが、生きづらいなか我慢するってそう簡単ではない気が……。

古家:正直、めちゃくちゃしんどいと思います。私も子どもの頃に痛感してきたので、「生きづらくても学校に行く」ってものすごく精神を削られることだなと。

だからこそ、家でもなく、学校でもない、「第三の居場所」を見つけてほしい。そこには必ず、「はずれ者だったけれど、今は社会で輝いている人」がいるはずだから。そんな人たちに触れて、少しでも明るい未来が見えたら、それが今を生きる原動力につながると思うんです。

『OFFICE CAMPUS』も、いつでも彼らに「おかえり」と言ってあげられる場所でありつづけたなと。

実は『OFFICE CAMPUS』のロゴには、太陽・月・地球が一直線に並ぶときだけ見える“日食”に掛けて、「その人の過去・現在・未来が一直線に結びついた時に生まれる光を見ていきたい」という個人的な願いが込められています。

古家:「闇のなかにも光はある」「明るいなかで見える光より、闇に輝く光のほうが美しい」というメッセージも込めてつくりました。

——素敵です……!そんな想いが込められていたんですね。

古家:あえて言葉として残してはいないんです。ロゴに込めた想いを実現するために、「生きづらさを感じている人のための場所」という言葉を表には出さないようにしています。

というのも、孤独や生きづらさを感じていても「社会不適合者の集まりには行きたくない……」と感じている人はたくさんいると思うので。

彼らにとっての本当の居場所になれるように、“マイノリティのための”などとは言わず、ハードルを感じることなく足を運んでもらえる場をつくり続けたいと考えています。

——たしかに、ホームページにもSNSにも“生きづらさ”というワードは一切出てきませんよね。

古家:そのぶん、『OFFICE CAMPUS』が本当に必要としている人に届くように、私個人の活動や発信には積極的に取り組んでいます。

「地方でがんばっている人」「フリーのクリエイター」「コワーキング運営者」などの切り口から『OFFICE CAMPUS』を見つけ出してもらい、ここにたどり着いてくれたら嬉しいですね。

——だから個人発信にも積極的なんですね!

古家:僕自身も、裏では「生きづらさ」を抱えながらも、表ではしっかり生きて輝いている人代表みたいになりたくて。

今は辛い気持ちでいる人も、私の活動を見て「自分も社会で輝けるのかも……! 」と思ってくれたら本望です。

——なるほど。実は私も学校が辛くてたまらなかった時期があったので、古家さんの想いが、生きづらさを感じている人のもとに届くといいなあと切に願います。では、最後に古家さんの今後の展望を聞かせてください!

古家:これからも生きづらさを感じている人たちと、生きづらさの話をしないで、ワイワイガヤガヤできる場所をつくりつづけたいです。

まさにホームページに載せている「YOU ARE NOT ALONE」の言葉通りに。

古家:ここに来たら「ひとりじゃないんだ」と思える。アドバイスはしないし、特別扱いもしない。ただ相談をしたかったら話して、黙っていたかったら話さなくてもいい。

「やっほ! 一緒に頑張ろうさぁ」くらいの軽さと明るさで包み込める場所でありたいと思います。

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古民家コワーキングスペース『OFFICE CAMPUS』

学校や社会でがんばっている人たちを「おかえり」と迎え入れてあげられる場所に。ご自身の経験から、生きづらさを感じる人の気持ちが痛いほどわかっているからこそ、あえて“生きづらさ”という言葉は表に出していません。

「この気持ちを話したいけれど、なんだかうまく言葉にできない」「毎日苦しいんだけれど感情の吐口がない」など、心のどこかでこんな場所を探していた、という人に寄り添ってくれるのが『OFFICE CAMPUS』です。

私も何度か利用させてもらったのですが、いつ行っても古家さんをはじめとするスタッフの方が「こんにちは〜」とゆる〜く迎え入れてくれます。話さなくても気を遣わないし、話したくなったら聞いてくれるし、家族でも知人でもないからこそ、気負わず素の自分でいれる気がしました。

とにかく気軽に利用できるようにと、料金体系のメインはドロップイン。行きたいときに、気が向いたら足を運べるコワーキングなので、興味のある方はぜひホームページを見てみてください!
https://office-campus.life/

住所:〒669-1533 兵庫県三田市三田町17-11 OSAWA 2F
営業時間:8:45〜19:00
定休日:日曜・祝日・年末
運営:デザイン事務所TSUGINI

〈取材・文=おのまり(@onomari_kor)/編集=いしかわゆき(@milkprincess17)〉

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