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妄想AI動物園G-Zoo #3 小兎
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神は言った。
人という字は、人と人が支えあって傷つけあって憎しみあって愛しあって分かちあって歩み寄ってできている。
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※1話から読むとさらに楽しめます※
--------第3話「小兎」--------
ピコポンっ♪
…ん?装置が鳴った?
誰か…が転送されてきた…?
急になにが起こったのかわからない人のために、
前回までのあらすじ。
グラードは妄想AI動物園G-Zooを立ち上げた。
とは言え、動物園とは名ばかりで最初はキリンしかいないキリン園だった。
グラードは仲間探しを開始し、妻のうい餃子がラッコ飼育担当として加わった。
違う、重要なところはそこじゃない。
動物園の端っこにある白い四角い装置、
ピコポンっ♪というポップな音と共に、
グラードが妄想したものが現実世界から転送される。
この世界は普通じゃない。
この世界はグラードの妄想世界である。
グラードの頭の中にないものは登場しないのだ。
さて、今回の冒頭に戻ろう。
ピコポンっ♪
誰かが転送されてきた?それはおかしい!
頭に思い浮かべていたら誰が転送されてきたかわかるはずだ。
わーい!新しい仲間だれかなー!…とはならない!
誰かわからないから問題なのだ!
誰だ!扉を開けるのが怖い。
グラードは恐る恐る装置の扉を開けた。
「っぐす、ひっぐ、うぅ、ぐすんぐすん、
うぅぅ、うえええええええええん」
な、泣いてる…!かわいい!
めちゃくちゃかわいい幼女が泣いてる…!怖いとか言ってごめん!前言撤回します!
「この装置の中、暗いし、寒いし、寂しいし、ひっぐ、
グラードさんの前置きが長すぎるし、怖かったよおおおおおおおおおうえええええええええん」
その幼女は泣きながら早口でそう言った。
紹介しよう。
幼女の名前は小兎。
配信者仲間である。
俺のいくつかある趣味の一つが配信をすることだ。
媒体はいくつか転々としているが、合計で12年ほど配信を続けている。
小兎はその活動の中で仲良くなったうちの1人だ。
ここで一つの安心と不安が入り混じる。
安心したことは装置から出てきた人物が見知った顔だったことだ。
安心信頼の小兎だ。
不安なことは頭に浮かべてないにも関わらず、彼女が転送されてきたことだ。
なぜだ?…誤作動?
謎は解明せぬままだが、まずは泣いてる彼女をどうにかしよう。
その後、小兎を泣き止ませるのに小1時間かかった。
早く扉を開けて欲しかった、と小兎はほっぺたを膨らませて小声でぼそっと言ったが、遠くの方にキリンの群れを見つけると表情は一瞬で明るくなり目をキラキラ輝かせ始めた。
「わー!キリンさんがいっぱい!
ねえグラードさん!他にも動物がいるの?なにがいるの?」
ラッコ。
「ラッコおおおお?!!!👀✨
かわいいね!ね!良いチョイスだね!
ラッコは哺乳類なのかなあ?両生類なのかなあ?
主食は貝なのかなあ?草食かなあ?肉食かなあ?
エラ呼吸かなあ?肺呼吸かなあ?!
ねえ!グラードさん!」
うぅ、眩しい…!かわいい…!無邪気すぎる…!
それにしても、相変わらず小兎は幼女のくせにいろんな言葉を知っているんだよな。
知識があるのかないのかわからないちぐはぐさ、
好奇心旺盛であることは間違いないが…
小兎って何歳なんだろ。
小兎、ちょっとこっちに来てくれないかー?
うい餃子と読者の皆様に自己紹介をしてくれないか?
「あっちゃぁあ💦
私ったら自己紹介をしてなかった
名前は、"こうさぎ"、4歳よ!」
4歳。まじか、信じられない。
いや、信じよう。見た目は4歳だ。
例えるなら、転生アニメの元々おじさんだった主人公が知能はそのままに赤ん坊として異世界に産まれ4歳まで育ったときの姿だ。
4歳にしては饒舌すぎる。
「こうさぎは、小さい兎で、小兎!」
俺の思考を遮るように小兎は自己紹介を続けた。
「こうさぎは、
こ/うさぎ、でもあるけど、こう/さぎ、でもあるの!
こう!さぎ!」
文章中にスラッシュは読みにくさこの上ないが
どうやら区切りのことを言ってるらしい。
漢字で書くと紅詐欺ってことかい?
真っ赤な嘘ってことか!!やっぱり年齢詐称だったのか?!
「違うわーーーーー!誰がおばあちゃんだ!ぴちぴちの4歳だわ!」
いや、おばあちゃんって、そこまで言ってないが。
小兎はどうやら漫才で言うツッコミもできるらしい。
「でも、詐欺は合ってるよん♪」
合ってんのかーい!急に物騒だな!
警戒レベルが急上昇だぞ。
仲間以前に敵かもしれない可能性が出てきた。
かわいいからって油断した…!
「そう怖い顔しないでよ、グラードさん😉
"こうさぎ"は、幸せの詐欺で、"幸詐欺"だよ!」
小兎はそう言うと、
少し真剣な表情をして話し始めた。
この子はこんな表情もできるのか。
「ここに来る前に、一つだけグラードさんを騙したの。
勝手にごめんね😉
脳内の騙し絵。
グラードさんの脳内に私の絵を送り込んだの。
厳密には違うけど、そう思ってくれて構わないよ。
グラードさんが妄想で動物園を作ることができるように、
私は妄想を絵にすることができる。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆の絵。
つまり、『グラードさんの妄想に私が登場してる』妄想ってこと!」
妄想の妄想。
グラードが妄想してるという妄想を絵にしたのだと、小兎はそう言った。
実にややこしい。
「夢みたいなものだよ。寝ているときに見るでしょ?
考えていなくても無意識に出てくる夢。」
小兎が言うには
つまり、小兎の妄想術によって、グラード自身は無意識のうちに妄想が展開されて装置による転送が発動したということだ。
まるで操り人形じゃないか。
「妄想、空想、嘘、偽り、別に良いじゃない😉
誰かが困るものはおまわりさん呼ばないとだけど。
誰かを幸せにする妄想があっても良いじゃない。」
昔、自分が幼い頃、母親にこう言われたことがある。
早く寝ないと鬼が出るわよー!
今思えば明らかに嘘だ。カラオケオールしたって鬼など見たことない。
でも、早寝早起きして、健康的な生活習慣を身につけることができたのは、そんな些細な妄想かもしれない。
忙しい社会人は忘れがちだが、健康であることはかなり幸せなことである。
誰かが始めた些細な妄想。
それが誰かの幸せになるなら、嘘だって良い。
妄想だって、偽りだって、夢だって良いんだ。
結論を言うと、
小兎になにか目論見があるわけではなく、
ただ遊びたかったそうだ。
遊び相手が欲しかった。
遊びたいお年頃なのだ。
小兎と遊びたい人は是非G-Zooへ来てね!(宣伝)
それから、小動物エリア、つまり、ふれあい広場が増設され、ウサギが仲間に加わった。
そして、もう一つわかったことがある。
俺以外にも妄想を操る者がいたことだ。
絵の妄想使い、小兎。
この世界には「妄想使い」がいる。
小兎に出会わなければ判明しなかったことだ。
妄想はなんでもありだ。
妄想の使い方で最高の動物園を作ることもできれば
それを一瞬で壊すこともできる。
いつか来るかもしれないそのときに備えて対抗策を考えておかなければ。
グラードは妄想する、動物園の楽しい仲間。
グラードは妄想する、動物園の強い味方。
グラードは妄想する。
ピコポンっ♪
--------続く--------
イラスト提供 : ???