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妄想AI動物園G-Zoo #5 ひよ


神は言った。
太陽系の惑星を見てみなさい。
それぞれの惑星が方向もスピードもバラバラに動いていて、ぶつかりもせず適切な距離感を保っている。
太陽に近づきすぎても焼け死んでしまい、離れすぎても凍え死んでしまう。
ペースを乱すものは流れ星となり消滅するか、または、排除されるのだ。
人間社会みたいだね。

※1話から読むとさらに楽しめます※

--------第5話「ひよ」--------
南エリア、ふれあい広場にて、
見回りをしている小兎の近くに、
緑色の怪物は迫っていた。

物陰に隠れて、その怪物は小兎の様子を伺っている。
小兎は指差しながら広場の安全を確認していく。
「右よーし!左よーし!後ろよーし!上よーし!」

上空を確認する必要はあるのか疑問だが、かわいいからまあ良いだろう。

「あとは、倉庫の後ろを見て終わりー♪」

言いながら倉庫の横を駆けていき、角まできたところで後ろを覗き込んで指差し。

「倉庫の後ろよーし……、うわぁっ!よくない!!
なんかいる!」

緑の怪物と遭遇した。
よく見ると、手足には泳ぐための水かき、口は鳥類のようなくちばし、頭には皿。

「河童だ!」

小兎に見つかってしまった河童は逃げ出した。

「待てー!」

小兎はなぜ追いかけるのか理由もなく、逃げたられたら追いたくなる本能のまま追いかけた。
森を駆け抜け、川に着いたところで河童は飛び込み、怪物並みのスピードで泳いでいった。

「河童ぁぁぁあ!逃げられたー!」

小兎は河童に気を取られ周りを見ていなかった。
気づいたら1人森の奥、大量の魔物に囲まれていた。
ゴブリン、オーク、トロール、アンデッド、、。
東西南北四方八方からそれぞれが集まってくる。

「ひいいいいいいいい!!多すぎる!!」

小兎はお絵描き帳とえんぴつを取り出して、スラスラっと何かを描き、1回転しながら360度全方向にお絵描き帳を振りかざした。
小兎の能力、絵に描いた妄想を召喚できる。

「アルミラージ!お願い!魔物たちを倒して!」
小兎のまわりに次々と一本角が生えたウサギが召喚されていく。
そして、ウサギたちは四方八方に飛び出していき魔物たちに噛みつく。
よし!アンデッド族の方向に穴ができた!逃げる!

小兎はふれあい広場の倉庫の方向へ全力疾走した。
アルミラージたちは強かったが、数が圧倒的に足りない!
アルミラージの穴を抜けてそれぞれの魔物たちが押し寄せてくる!
魔物たちもまた逃げられると追いたくなる生き物たちなのかもしれない。

「ひいいいいいい!やめてええええええ!
来ないでえええええ!」

見えた!倉庫だ!
中に入って鍵を閉める!

「ふぅー、危なかった💦これからどうしよう。
グラードさんに連絡した方がいいかな。」

そう呟いてまずはグラードの着信を鳴らす。
グラードの応答を待ちながら倉庫の中を見渡すと、そこには女の子がいた。
小兎よりはお姉さんで、金髪に赤いキャップを被った元気印が滲み出る活発そうな女の子だ。
お互い突然の遭遇に一瞬の沈黙が流れたが、先に口を開いたのは元気印の女の子だ。

「おはよ!小さなお嬢ちゃん!
わたしはひよ、ふれあい広場って書いてあったから来てみたの!
あっちに鶏小屋を作ったから良かったら遊びに来て!ひよこもいるよ!」

圧倒されつつも小兎は応える。
「ひよさん、ふれあい広場へようこそ!
わたしは小兎!ウサギ小屋にいつもいるよ!
ふれあい広場の仲間だねー!嬉しい!」

そこから2人の楽しい交流が始まるかと思われたが、
建物のドアと壁をなにものかが叩く。
ドンドンドンドンドンドンっ
大量の魔物だ。

「そうだったーーー💦
わたし、魔物に追われてここに逃げて来たの!
外に大量に魔物がいるの。。どうしよぉぉ。」

小兎が困ったような顔をしたが、
平然とした顔でひよは言った。

「わたし、目的があってここに来たの。
大丈夫よ、グラードさんがわたしをここに呼んだときから覚悟してた。
たくさん友達もできるかもしれないし、たくさん楽しいことがあるかもしれない。
実際にひよこの小屋を作っていてとても楽しかった。
ほんとは目的を果たしたらすぐ帰ろうと思ってたの。小屋を作ったのは惰性ね。
みんなともっと遊びたかったなって。」

ひよはそう言いながら、えへへと照れ笑いをした。
小兎は突然のことにわけもわからずきょとんとした顔で聞いていた。
ひよがさらに続けて言う。

「じゃあもっと一緒に遊ぼうって思うかもしれない。
でも、それ以上にわたしにはやらなきゃいけないことがある。
目の前の楽しいことを捨ててでも、行かなきゃいけないときもあるの。」

ひよはそう言うと目を閉じ、祈りを捧げるように胸の前で手を組んだ。
ひよの全身が光り出す。光は徐々に大きくなり、やがてG-Zooの上空全体を光が包んだ。



グラードは中央エリアにいた。

全部聞こえていた。
小兎からの着信を受け取って、倉庫の2人の会話を全部聞いていた。
盗み聞きしたかったわけじゃないが?!向こうから電話かけてきたんだからしょうがないだろ?!
そして、俺にはわかった。
小兎はなんのこっちゃわからないと思う話だったかもしれないが、ひよが言ったことは俺には全部理解できた。

ひよ。
彼女と出会ったのは2ヶ月前くらいか。
彼女が人生初の配信でおしゃべりしているところに出くわしたのだが、初めてとは思えない魅力があった。いつの間にか惹きこまれていた。
周りを明るくする力。元気にする力。彼女にはそんな力がある。
決して長いと言える付き合いではないが、配信やSNSで交流する仲になり、俺の中では大きい存在になっていた。

そして、今、
空が光っている。
G-Zooの真ん中のちょうど上空に位置するところに、金髪の大天使がいる…。
赤い髪飾り、緋色の眼。あれはひよだ。直感でわかる。

次の瞬間、光の中から声が心に直接話しかけてくる。
決して大声で叫んでいるわけではない。
優しく、しかし、G-Zoo全体にその声は届く。

「グラードさん、短い間ありがとう。
小兎ちゃん、鶏小屋をよろしくお願いします。
これでわたしのここでの目的は終わり。
わたしは別のところに行かなければなりません。
またどこかで会えたら…。」

天使は言いかけてやめた。
そして言い直した。

「もう会えないけど、みんなと過ごした2ヶ月は楽しかったよ。さようなら。」

天使の姿が消え、光が消える。
そして、俺が弓で射止めた鬼も消えていた。
北エリアの吸血鬼や、南エリアの魔物の大群は、消えるものもいれば、動物の姿に変わるものもいた。
ひよの光はG-Zooを浄化した。
悪いものを消し、良いものは本来の姿に戻ったということらしい。

天使の名前は、日陽(ひよ)。
太陽のような人。
周りを明るく照らす、暖かい気持ちにしてくれる、
輝く存在。
G-Zooの中央エリアに彼女の名を刻んでおこう。

行ってらっしゃい、ひよ。

--------続く--------

イラスト提供:ChatGPT






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