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妄想AI動物園G-Zoo #4 王林
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神は言った。
攻撃は最大の防御か、防御こそが最大の防御か。
いずれにせよ武装せずには居られない、それが人間なのかもしれない。
でも、核はやりすぎじゃね?
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※1話から読むとさらに楽しめます※
--------第4話「王林」--------
グラードは妄想していた。
今、この動物園に必要なのはなにか。又は、誰か。
先日やってきた幼女、小兎は妄想使いだった。
小兎は無邪気で幸せな妄想の持ち主だったが、
もし新たな妄想使いが現れたら次はどうなるかわからない。
俺の妄想を利用して突然侵入されるかもしれない。
そう考えているうちに、
俺は飼育員の仲間を探すことに加え、
戦力を増やすことを考えていた。
どんな仲間が良いかなー😏ニヤニヤ
グラードの妄想が始まった。
例えば、入場口で危険人物がいないか荷物検査をしてくれる人が必要かなあ。
ピコポンっ♪
グラードは転送音に気づかないほど、妄想に没頭していた。
例えば、園内の巡回パトロールをしてくれる人はどうだろうか。不審者がおとなしく入場口から入ってくるとも限らん。
ピコポンっ♪
例えば、殺しのプロフェッショナルはどうだろうか。覆面警察さながら普段は別の仕事をしているが緊急時には疾風迅雷、電光石火、目にも止まらぬ速さで不審者を片付ける、最強の仕事人。
流石に強すぎるか、ふっ。
自ら妄想して自ら鼻で笑った。
ピコポンっ♪
そうだ、武器はなにが良いかなあ。
弓矢が良いなあ。かっこいいんだよなあ、弓矢。
ピコポンっ♪
例えば、鬼が入ってきて、 ピコポンっ♪
「鹿肉を寄越せーぐへへ👹」、 ピコポンっ♪
「待て!うちの鹿は食いもんじゃねえ!👮♀️」、
「お前たちやっておしまい👩🎤」
鬼を影で操る謎のボス、 ピコポンっ♪
「グラードさーーーん!!ストッーーーープ!ストッーーーープ!」
小兎が止めに入った。
「今、妄想してたでしょ??真剣な顔してるかと思ったらニヤニヤしたり…
ちょっと気持ち悪かったよ
いや、気持ち悪いのはいつもなんだけどね😉」
グサっーーー、なんか心にダメージが!
「そんなことより!どんな妄想してたか知らないけど!装置の転送音が連続で鳴ってるよ!!
なんなの??10連ガチャなの??」
はっ!!!やばい!!!
転送した?!何を転送した?!
かなり物騒な妄想をしてたが!やばくないか?!
人間、パニックになるとやばいしか語彙がなくなるものだ。
やばいやばいやばいやばいやばい
装置の方へ走った。
俺が辿り着くと同時にゆっくりと扉が開く。
装置の内側には取手が付いていない。
付いていれば先日の小兎転送時も勝手に出てきていたかもしれない。
今日は半開きなのだ。なぜかわからないが半開き。
そして、中から端正な顔立ちの女性が現れた。
色白の肌、髪色はグレーとベージュを混ぜた色で、グレージュという最近の流行りのカラーらしい。
西洋出身と言われても信じるほどの容姿だ。
「あら、グラさん。あなたが私を呼んだのね。
出張は普段していないのだけれど、カットで良いのかしら?
それにしても、髪、伸びたねー。」
彼女の名前は王林、会話でお察しの通り、美容師だ。
俺が長年に渡り指名し続けている美容師さんでもあり、友達でもある。
最初はうい餃子からの紹介だった。
学生時代からの友達だと紹介され、妻の友達という間柄から始まったが、何度も会う度に世間話したり美容室の客として通ったりするうちに仲良くなって、今では大切な友人の一人である。
大切というのは、もちろん、気が合うという意味でもあるが、
元々ヘアスタイルに関心がない俺にとって、気を遣わないで済む美容師は貴重な存在なのだ。
以前の俺ならこうだった。
まず美容室に入店すると緊張で汗だらっだらになる。
そして店員から聞かれる。
今日はどうされますかー?
(どうって言われても…どう、どうしよう…。)
かっこ良ければなんでも良い…です…。
…………。😅
店員も曖昧な注文には苦笑いだ。
気まずい雰囲気が流れる。
もう耐えられないのだ、美容室という空間が!
しかし、王林の美容室に行くようになってからの俺は緊張しない。
入店したらまず、王林指名で予約したことをスタッフに伝え着席。
奥から王林がやってくる。
「グラさんやっほー👋今日は髪型の希望ある?」
王林はいつもニコニコしながら問いかけ、
俺もそれにいつものようにこう答える。
いつも通りお任せで😌
あとは、好きなアニメの話や音楽の話を楽しんでいたらいつの間にかカッコいいヘアスタイルが完成しているのだ!
すごい!最高の美容師だよ、王林!
美容室に行ったときにはXにヘアスタイルの写真を投稿しているので、良かったら見に来てね!(宣伝)
要するに、王林は、
俺が美容室を苦手だと知っていて、
注文しなくてもお任せで切ってくれて、
でも絶対に似合う髪型にしてくれる信頼感もあって、
そして、共通のアニメや日常の話で時間を忘れさせてくれる、
そんな神美容師であり大切な友達なのだ。
話を戻そう。
ここはG-Zooだ。
王林、今日はカットで呼んだわけじゃないんだ。
俺が管理しているこの動物園に、いろいろなものが
紛れ込んでしまったかもしれないんだ…!
手を貸してくれないか?!
「紛れ込んだ?ふむ。とにかく困っているわけだね。もちろん協力するよ。」
深い事情なんて不要と言わんばかりに快諾してくれる王林。
これでここにいるのは俺、小兎、王林の3人。
うい餃子は離れたところにある水族館エリアにいる。
ひとまず、うい餃子には現状を連絡しておこう。なにかが向こうに現れるかもしれない。急に遭遇するより心の準備をしていた方が冷静に対処できるだろう。
よし、俺たちもパトロールを開始しよう。
今いる場所がG-Zoo東エリアになる。
王林は北側に向かいながらうい餃子と合流してくれ。
小兎は南へ。ふれあい広場は小兎のテリトリーでもあるからな。
俺は中央を通って西側を見てくる。
なにものかに遭遇したらすぐ連絡してくれ。
それじゃあ2人とも、頼んだよ。
そう俺が言うと、2人は別々の方向に散って行った。
バラバラに見回りさせて危険ではないのかと思うかもしれないが、良いのだ。
なんと、王林は美容師用のハサミとは別に、自分の背丈ほどある大きなハサミを背負っている。
これは俺が王林を召喚するときに武器として創造(想像)したものだ。
そして、王林はどんなハサミも使いこなすことができる。
高い戦闘能力の持ち主なのだ。
それよりか心配するべきは小兎の方だろうか。
幼い女の子を一人で行かせて良いのだろうか、と葛藤はしたものの、前回、目の当たりにした絵の妄想使いの能力は特別だ。
大抵の問題はクリアできるだろう。
うん、心配なさそうだな。
2人とも頼れる仲間なのだ。
仲間たちに背中を預けるつもりで自分のことに集中しよう。
さて、俺はまず装置の中を確認した。
王林が出てきた後は誰も出て来ず、彼女が最後の召喚だったようだ。彼女の前に何回の召喚が行われたかわからないが、勝手に扉をぶち開け半開きにして出て行ったということだろう。
中にはなにもないと思ったが、なんと弓矢が落ちていた🏹
そうそう、俺は弓矢が好きなんだよ。
だからつい妄想して召喚してしまったのだ。
よし、これは俺の武器にしよう。
「おい、お前。」
背後からドスのきいた低い声がした。
誰だ!油断した!
振り向いて弓を構える時間はあるか?
弓は本来、敵の気づかないところから静かに射る武器だ。
接近戦に向いていない。
「喰わせろ。」
背後の声がそう言った。
人喰いだ!
こいつは敵だ!振り向く前に確定した。
絶対にここで倒す。誰のところへも行かせない。
振り向かないまま俺は言う。
「なぜ俺に話しかける?喰いたいなら急に襲えばいいじゃないか。ほんとは俺と話したいのか?」
背後の声が応える。
「うるさいぞ、お前。
ごはんの前に、いただきますって言うだろ。
それと同じだ。意味などない。」
言葉の端々を指摘するようにまた俺が言う。
「意味はあるさ。
いただきます、は食べ物の命を頂戴する感謝の気持ちが込められてるんだ。
しかし、お前の言葉には感謝は感じない。
残念だが俺の世界から消えてもらう。」
会話をしながら振り向かずに前方に弓を持ち矢をセットする。
後ろから現れた何者かは俺の背中しか見えていないはずだ。
弓矢の細いフォルム、自分の前に構えると身体に隠れる大きさだ。
深呼吸する暇もなく次の瞬間、体を左に90度反転させ、敵に対して横向きになる。同時に左手を横に伸ばし、右手で弦を引く。顔の向きは左、つまり、敵の方を見る。
見えた!
…あれは鬼か?!鬼だ!ツノがある!
筋肉質のツノがある男がこっちを見ている!
距離は15mくらいか。この距離なら改めて狙いを定めずとも当たる!
敵も弓矢に気づいたのか、右足で地面を蹴り、文字通り鬼の形相でこっちに近づこうと1歩。
その瞬間、弓を放つ。
矢は鬼のみぞおちにヒット!
鬼は、い"い"い"い"い"い"と低い悲鳴をあげながら、前に倒れ込み手を地面につく。
みぞおちから赤い血が流れている。手の力が抜けてきたのか、横向きに寝転がり、ゼェゼェと荒い呼吸をする。
体のつくりは人間と変わらないのだろうか、一発で倒れ込んでしまうなんて。
反転して弓を構え放つまでほんの2秒のできごと。
これで良かったんだ。良いはずだ。
もっと怪物みたいな見た目をしてくれたら迷いなく殺せたかって?
それは偏見だろう。
俺は見た目で決めつけない。中身で判断する。
初対面で喰うと言ったのだ。
可哀想だが正当防衛とさせていただく。
頭を狙ったつもりだったが、全然外れちった。こりゃ練習が必要だ。
右ポケットの電話が鳴る。
もしもし、こちらグラード。
「こちら王林。グラさん大変よ、吸血鬼がいるわ。」
王林は吸血鬼と対面していた。
場所は北側、水族館エリアの入り口である。
最初は遠くに人影が見えて、うい餃子かなと思って手を振り走りながら近づいたが、人影から40メートルくらいのところで違和感を感じ足を止めた。
「なんかういちゃんにしてはおっきすぎない?」
王林は親友の姿を思い浮かべながら、遠くの人影と比較しながら言った。
次の瞬間、人影は瞬間移動した。
姿が消えたのではない。
姿が40メートル先から目の前に突如現れた!
「初めまして。ニヒッ笑
さようなら。」
黒いフードを深々と被った細身の男が
出会いの挨拶と別れの挨拶を立て続けに口にして、手に持ったナイフで切りかかった!
キンッ
金属音。王林もハサミを取り出していた。
瞬間移動にも負けない反応スピードで巨大なハサミを右手に持ちナイフを防いでいく。
キンッキンッキンッと連続で何回も受け止める。
王林は走り出し、フードの男も走り出す。
並走しながら刃物を繰り出す。
そしてついに王林のハサミが男を捉える。
スパッと。肉が切れる音。
「フヘヘ笑、良いねえ笑
どっちかが死ねばさようならだねえ笑
でも僕はなかなか死なないよお?笑」
男は切られてもなお笑った。
そして切り口を曝け出し、治癒するのを見せつけた。
「ほぉら笑、治っちゃうんだよね笑
僕、吸血鬼だから不死身なんだよね」
王林はキッと男を睨みつけ言った。
「出会いと別れはもっと大切なものだ。
あなたみたいな人に出会いたくも別れたくもない。
私たちの知らないところで勝手に死になさい。」
そして、王林はハサミの中心の留め具を外し分解、大きな刃を両手に一本ずつ持ち、二刀流のごとく構える。
次の瞬間、王林は舞い踊るように左右交互に斬撃を繰り出す。
男はナイフ1本、王林は刀身が長いハサミの片割れ2本。王林の圧倒的有利。
スパッスパッスパッ。連続で男の体を捉える。
治癒、治癒、治癒。切っても切ってもキリがない。
「おいおい笑、痛いなあ笑。
治るって見せたのに切り続けるなんて加虐趣味なのかい?笑」
男は王林に攻められ後ろに後退りながらも表情は変わらず不敵な笑みを浮かべている。
表情が変わらないのは王林もだ。心に迷いがないと言わんばかりに真剣な表情のまま、問いかけに答えた。
「あなたと一緒にしないで。切られても笑い続けてる被虐趣味のど変態さん。」
言い切ると同時に突きの姿勢になり、右手の刃を男の脇腹に突き刺す。刃は男を貫通し背後の植え込みの木に刺さった。
要は串刺し状態だ。
「んっ!ぐっ!動けない!」
男は笑えなくなっていた。
つい先ほどの斬撃中、王林の目は男越しにあるものを捉えていた。
男の後方にある植え込みと、水族館から出て来るうい餃子の姿だ。
そして咄嗟にある策を思いついた。
まず男の動きを封じる。
ハサミで突き刺して木に貼り付けるという大胆な発想だ。
ポスターを画鋲で壁に貼り付けるのと同じ理屈だ。
吸血鬼が人間の体と同じという保証はないが、脇腹なら骨がなく、思いっきり突き刺せば貫通する可能性がある。
そして、思惑通り突き刺さった。
ここからが本番だ!
「ういちゃん!今だ!お願い!」
王林の合図に応えてうい餃子も合図する。
「はーい、行くよ!よくやき!
餃子で連続攻撃!」
よくやきはうい餃子の相棒のラッコだ🦦
そして、貝殻ではなく両手で餃子を握りしめている。
その餃子をそのまま男に連投した。
そう、吸血鬼に!
「ぬあ"!にんにくだ!にんにくだけは無理!
ほんとに、やめ、だめ、あ、無理、、あ。」
勝負あった。吸血鬼は気絶した。
北エリア、吸血鬼との戦いは、
ハサミではりつけにした吸血鬼ににんにくを喰らわせるというコンボで、
王林とうい餃子の親友コンビの勝利である。
そして、
王林という最高に頼もしい仲間がG-Zooに加わった。
その頃、南エリアふれあい広場にて、
人の大きさほどの緑色の怪物の影が、
小兎に迫っていた。
--------続く--------
イラスト提供:ChatGPT