誰から買うか
「ヒト」と「モノ」は切り分けた方が良いのだとわかってはいる。
たとえば作る人と出来上がった商品とを考える場合、商品は作り手の一部を反映してはいるものの”別人格”であるし、売る人と商品の関係は作り手と商品の関係以上に別物だ。
だから、商品説明も覚束ないような人から買っても、商品に対する熱い思いを語るような人から買っても、モノはモノであり、モノ自体の価値は変わらない。
それが工業製品であれば尚更である。
買い物をしていてこんなことがある。
商品に期待して店頭に足を運んでも、その時の接客があまり良くないと、あんなに欲しいと思っていた商品が、何だか陳腐なものに見える。
全く同じプロダクトであれば誰が売っても商品そのものは変わらないのに、その商品の輝き度が内心で変化してしまう。
それでも欲しかったのだからと買った商品も、家に帰って改めて見てみると、実はたいしたものではなかったのではないかとさえ思えてしまう。
それだけ、私にとっては「どんな人から買うか」というのは重要な要素である。
サロンドパルファン、通称サロパで接客待ちをしていたところ、いつも仲良くしてくださる別のブランドの店員さんと偶然出会った。
彼女とは店員とお客の間柄でしかないが、お会いする度とても良くしてくださる。
だから、”今日は買わない”という日でも顔を見たさに売り場に立ち寄る。
リピート買いはともかくも、新しい香水を1本買おうとしているとき、接客してくれる人との相性はとても大事だ。
香水はその日お客が着ている服から好みを見いだせない。色や形と違ってお互いの感覚に依存する香水は、同じ香りを嗅いだとて同じに感じているわけではなく、たとえ「柑橘系が苦手」とお客が言ったとしても、実は柑橘系が苦手なのではなく、別の香りの要素が苦手だというケースもある。
だからどんな売り手と出会えるかというのは、香水に関して言えばかなり重要度が高いのではないかと私自身は思っている。
その点、彼女は自身が販売員でありお客であるというぐらいにフラットな付き合いができる人だ。
私が「こういう香りが好き」というと、知識と頭の良さで棚からさらさらっと選び出してくる。
反対に、こういう系統の香りは苦手と話すと、似たようなものを引っ張り出して、「こういうのねー、売っててなんですけど、私も苦手なんですよー」と販売員らしからぬ態度を見せる。
香りやプロダクトに対してとても正直であり、私に対しては「販売員」という額縁をつけずに接してくれることがとても嬉しい。
ブランドを超えて接客してくれる唯一無二の人だ。
サロパの現場を回ってみて、様々な接客スタイルに出会った。
何とかしてお客の要望を引き出そうとする人、香水に対する愛を熱く語る人、お客との接点を見いだして一緒に1本を選び出そうとするスタイルの人、香りを試した時のお客の反応をきちんと見ている人、巧みな話術で引き込むタイプの人、そして残念なことに忙しすぎて私とのコミュニケーションを断ってしまった人etc
私は販売業には携わらないが、多くの接客スタイルを通して「自分はこういうふうに人と接したい」というのが明確になったように思う。
サロパ購入品の開封の儀を前に、ふとそんなことを思った。
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