のうぎょう ってなんだ?

 とある新米農家が、物議を醸している。
 今年始めた農業で、本人の談から逆算すると5月下旬ぐらいからかな? よく頑張っているとは思う。下草がやべえのは草取りができるゴールデンタイムに農業をしてなかったとか、まだ一年目の畑だとか、そんな理由じゃないかなとも。

 まあ、その一方で、これしかやってないのであればもうちょっと手をかけられるのでは? と、思わなくもない。時間は有限だし、他に仕事をしていればそちら優先も仕方ないが、農を生業とするのであれば、もっと手は掛けられると思う。

 僕は生業が別にあり、自分が食べる&知り合いに食べてもらえるものが取れればそれでいい人なので、農薬は使っていない。それでもズッキーニは6株で100本以上採れたし、ペースは落ちたが今も新しい実が付いている。4株ほど育てている冬瓜は畝を乗り越えて暴れまわっていて、草をかき分けるとそこかしこに実を付けている。
 しかし、これだけで生きていけるほどの稼ぎにはなっていないし、これで生きていこうとも思わない。

 僕が野菜を育てる理由は、この田舎では手に入りにくい食材を食べたいというワガママと、新たな作物が浸透してくれたら、農家さんの稼ぎを支援できるのかなという思いから。だからナスやトマトは作っても売る気はないし、食べて余ったらあげてしまう。逆にズッキーニも安くだが販売に乗せたし、冬瓜もそれほど金を取るつもりはないが売る予定。

 売れるんだとわかったら、それを見ていた農家さんが作って売ってくれるかもしれない。そうしたら、僕は自分で作らなくて済む。それが狙い。

 しかしこれは生業ではない。業の一環かもしれないけれど、生活基盤には組み込めない。そこに不満はないし、それでいいとも思っている。

 他方、生業としている人たちの農業は出荷量も販路も生産管理も徹底している。
 かというと、そうでもない人も居る。

 たとえば、とある自然農を行っている方はOisixさんに全面買取をしてもらっていて、収量は不安定ながらそれで生計が立っている。
 逆に防除をしっかり行い、整った品質のナスやトマトを出荷している方でも、学校用務員やシルバー人材、バス運転士などの稼ぎのがはるかに大きく、農業はあくまで補助的な稼ぎという人も居る。

 農との向き合い方は本当に人それぞれだし、どこから業と呼ぶべきかは難しい。

 一応、農業従事者としての登録を行っていて、行政区分で言うところの農地を管理し、相応の収穫実績があるものが「農家」であり「農業従事者」なのだが、現実問題としてこの門は狭く厳しく、手を上げるだけでは成ることができないという現実がある。そして、運良く農地を取得できたとしても、野菜の買い取り額は基本的に安価で、主業とするにはただ作るだけでは成り立ちにくい。だから昔から兼業農家や出稼ぎといった文化が存在していたわけだ。

 農家の販路形成は人それぞれだ。農協への出荷だけが農家の収益ではない。体験農業スペースやレンタル農地として運営したり、少量ながらブランド化、或いは希少品種の栽培で高額収益を上げる方法もある。今流行りの動画広告収益とか、農家民宿、農家レストランで出す野菜として栽培するのであれば、無農薬や有機農法というのは一つのアドバンテージになる。これも一つの「業」だろう。

 で、あれば、収量や作物の形状規格、JAへの出荷量などは「農業」に必要なことの一部であってすべてではないのでは?

 何より、農家一年生にそれを求めるのはお門違いも良いとこだろう。

 もちろん、人は野菜だけで生きていけないし、カロリーベースでも栄養ベースでも彼がやっている農業の状態では自分一人の生存すら怪しい。仲間という言葉に酔っているようでは趣味の園芸以外の何物にもなれないし、これから来る冬にどう向き合うつもりなのか心配なことこの上ない。
 今年の出来を客観評価して、来年どうするか。何を作ってどう食べていくか。そのあたりを冷静にそろばん弾く必要がある。自然礼賛をするのはそれからだ。

 ここまでいろいろ語って来たけれど、僕は敢行農法も自然農も有機栽培も否定しない。消費者に選ぶ自由があるように、作る側にもその自由はあって良いと思う。
 そして片方を全面否定し、まるで悪事のように語るのはどうかと思うし、自身のやり方こそ至上だという思い挙がった考えには唾を吐く。
 なぜならいろんな農家が土地や風土、気候にあわせて毎年試行錯誤しながら作り上げてきたのが今の野菜たちで、それらによって僕らは生かされているのだから。

 ただ、野菜で稼ぐ、食っていくというのはどんな道でも恐ろしく難しいのが今の世の中なので、挫折しない、苦しまない生き方を見つけてくれればと思う。それが農にかかわるすべての人たちへの願いかな。

 のうぎょう って、難しいなあ。

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