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日本のイノベーションのジレンマ

 ボルドリッジが最終的に目指すのは、イノベーションを生み出す組織です。実際、ボルドリッジ・エクセレンス・ビルダーの15ページにある組織の成熟度の段階

 場当たり的 → 初期的 → 成熟した → 模範的

において、「模範的」な組織で初めてイノベーションが出てきます。

 もちろんイノベーションは目的ではありません。イノベーションにより、顧客や社会、すべての利害関係者に新しい価値を提供することです。

イノベーション
プロセス、製品、組織、あるいは、社会の幸福(societal well-being)を向上し、利害関係者に新しい価値をもたらすために、意味のある変更を加えること。イノベーションの成果(outcome)は、結果や製品、プロセス、あるいは社会の幸福の、不連続すなわち「画期的な」改善です。
Baldrige Key Terms より。翻訳筆者)


 ボルドリッジは別のところで、どの成熟度の組織もイノベーションは起こせるとしていますが、それを継続的に実現できるのが「模範的」組織です。

 DX=イノベーション×ITということで、DXのセミナーのためにボルドリッジに拘らずイノベーションについて確認しています。
 今回は、玉田俊平太著「日本のイノベーションのジレンマ」。初版は2015年ですが、2020年に第2版が出ています。

 最初に、2018オスロマニュアルを引用して、イノベーションを定義しています。定義でなく分類かもしれません。

 企業のイノベーションは、プロダクトイノベーションとビジネスプロセスイノベーションからなる。

さらに「イノベーションの起こる場所による分類」としてもう一つのイノベーションを追加しています。

ビジネスプロセスイノベーション
プロダクトイノベーション
メンタルモデルイノベーション

 「メンタルモデルイノベーション」はボルドリッジにはない見方ですね。ここでは、ポカリスエットに新しい価値を付与して市場に投入した例をあげて説明しています。

 テーマが「イノベーションのジレンマ」ですから、メインの話題は「破壊的イノベーション」です。

イノベーションのパターン
持続的イノベーション 
  インクリメンタル(漸進的)イノベーション
  ラディカル(画期的)イノベーション
破壊的イノベーション
  新市場型破壊 例:パーソナルコンピューター
  ローエンド型破壊 例:ティファールの電気ケトル、QBハウス

 ボルドリッジでは、「破壊的技術」という言葉で登場します。

 そして本書では、持続的イノベーションについては、大企業にも優位性があるとして、その理由を挙げています。

既存の大企業が持つ様々な優位性
既存顧客との信頼関係とニーズ収集能力
研究開発能力による技術の蓄積
アイデアを信頼性のある製品やサービスに変換する能力
幅広い販売も販売も販売も、サービスも網網
ブランド力

 そして企業が「破壊的イノベーション」を起こすための7つのステップを示します。
 ボルドリッジでは方法を特定していませんが、実際には具体的な方法が必要であり、その一つのステップとして参考にできるかもしれません。(組織の状況に応じて決まります。)

イノベーションを起こすための7つのステップ

(1)破壊的イノベーションを起こすための基本戦略
 経営者には両利きの経営のマスターが必須。
 破壊的イノベーションにつながる「知の探索」と持続的イノベーションにつながる「知の深掘」の両方を進めます。
(2)アイデアを出す
 デザイン思考で進めます。アイデアをチームで出す手法です。
(3)ジョブと制約を探すニーズファインディング
 多様な人材で構成されるチームができたら、次は、顧客がどんなジョブを片付けたいかを見つけ、それを妨げるものは何かを洞察します。
(4)ブレインストーミングで破壊的アイデアを生み出す
 (3)で見つけた状況から、そうした制約を取り除くためのアイデアを出すために、多様なメンバーを集めてブレインストーミングをします。
(5)破壊度と実現可能性による破壊的アイディアの選定
 
アイデアを短い文章にまとめます。
 ①ターゲットとする市場
 ②何をしようとしているか
 ③成功のために何を行うか
 さらに、アイデアをレジメの形にまとめ(アイデアレジュメ)、アイディアの1時面接を行い(チェックシート)、アイデアの破壊度を評価します。(6)アイディア実現のための組織を作る
 クリステンセン教授は「破壊的イノベーションは独立した別組織に任せよ」です。
 経済産業省のレポートで「出島」と言っているものですね。
 組織に求められる要件は「示されていませんが、ボルドリッジに従えば、イノベーションを起こす組織には、改善の文化が根付いていて俊敏性とインテリジェントリスクをとれることが求められます。
(7)もう一つの選択肢、破壊的イノベーションを起こしつつある企業を買収する
 ボルドリッジでは、エコシステム内での協働(エコシステムとしてイノベーションを起こす)という選択肢も示されています。

 本書を読めば「イノベーションのジレンマ」を理解できます(とあります)。おそらく理解したのでしょう。でも、理解したものを確認するために、原書(クリステンセン)にあたってみることは必要のようです。

★★

 ボルドリッジ・エクセレンス・フレームワークの要約版、 ボルドリッジ・エクセレンス・ビルダー(Baldrige Excellence Builder)は日本語で読むことができます。
 「ボルドリッジ・エクセレンス・ビルダー【日本語版】」は、米国NISTのウェブサイトから無償でダウンロードできます。


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