ちょっと寄り道・・・「信頼とデジタル 顧客価値をいかに再創造するか」
ボルドリッジ・エクセレンス・フレームワークは、高いパフォーマンスを実現するための「証明された」リーダーシップと経営の実践的な方法(プラクティス)を示したものです。
ボルドリッジ・エクセレンス・フレームワークは2年ごとにその時代の最先端の実践を取り入れて改訂されています。最新の2021-2022年版で特に着目した点に「デジタル化と第4次産業革命」があります。
丁度、デジタルトランスフォーメーション(DX)について話す機会を頂きましたので、その準備のため、関連する情報を集めています。以下はその覚書です。
「信頼とデジタル 顧客価値をいかに再創造するか」(三品和広、山口重樹、共著、2020年、ダイヤモンド社刊)
三品和広氏は成功した企業から戦略の要諦を導くばかりでなく、「戦略不全の論理」「戦略不全の因果」(東洋経済新報社刊)などで数多くの「戦略不全」企業からハード・データ(法的な裏付けを持つ有価証券報告書)を駆使してその要因を導きます。「戦略暴走」(2010年、東洋経済新報社刊)では、179件のケースから経営戦略の落とし穴を示していますが、その冒頭は筆者の古巣企業で、まさにその時代に在籍していて、興味深く読みました。
「信頼とデジタル」では、大企業は、石油と石油がもたらした規模の経済という存続に有利な条件が揃っていたから存在していたにすぎない、として、大企業衰退の次の4つの要因を提示します。
① 大企業のスピードの低下
インターネットによる情報の民主化の進展
デジタル経済の進展による市場のスピードアップ
② 競争優位を無効化するアンバンドリング
大型小売店からカテゴリーキラー、専門店化へ
バリューチェーンの解体
③ テクノロジーの民主化
かつて大企業が独占していたテクノロジーが一般化し、
小規模なプレイヤーも大企業と同じ土俵で活躍できるようになった
④ 悪化し続ける大企業病
社員が顧客でなく上司ばかりを見る
社員は何をするにも上司の決裁を仰がなければならない
そして、デジタル時代に武器になる大企業の強みは、実績に基づく信頼、特に、デリバリーとリカバリー(初期品質と事後対応)の良さとしています。
これに対して、山口重樹氏は、デジタルエコノミーの3つのドライバーを提示します。
① あらゆるところに市場をつくり出す
② 不確実性をビジネスチャンスに変える
③ デジタルが新たな製品・サービスの原材料になる
これらは、三品氏の挙げた大企業衰退の次の4つの要因の裏返しになっており、既存企業の対応には、製造業における「モノづくりでの競争優位」、流通業における「モノの大量販売での競争優位」、サービス業における「マス顧客獲得での競争優位」などをベースとした従来の競争戦略からの転換が必要としています。
そして、既存の大企業は、信頼を資本と捉えデジタルを活用した「顧客への価値提供」を起点としたマネジメントへの転換に取り組むべきとして、「顧客価値リ・インベンション戦略」を提唱します。
ここで言及している「既存の大企業」は、GAFAなどデジタルエコノミー時代に登場した新しい大企業でなく、第3次産業革命以前からある既存企業で、4つの要因などは日本企業に限らず当てはまるものと思います。
ボルドリッジが重視している、俊敏性、バリューチェーンからバリューウェブへの拡張、顧客に焦点を当てること、従業員への権限委譲と責任の付与、イノベーションに取り組むなど、要諦は同じと見ました。
日本企業に戻れば、GAFAのビジネスは「ユーザー(消費者)に直接何かを提供する」領域に偏っている。その背後にはリアルをサプライチェーンでつなぐ仕事が残る。デリバリーとリカバリーを保証する日本企業の強みをはっきできるのはまさにそこである、と結論づけています。
ただ、それは例えばスターバックスがリアルの店舗で実現している(日本企業ならではの強みではない)とも付記しています。
日本企業が担うかどうかは別にして、デジタルエコノミーにおいて、本当の勝負はこれから本格化する第二フェーズ、つまりデジタルの範囲がバーチャルからリアルへと広がっていく局面にあるというのは、一つの方向性として見てよいように思います。
※タイトル図は、「信頼とデジタル」表紙から引用