マイノリティでいこう
「デ、デ、デ、デ、デ、デ、デクレッシェンド」
中学3年の15歳の時、突如として吃音を発症してしまった。
言葉が出ない。
つかえてしまう。
授業の発表は地獄。
みんなに笑われる。
思春期の自分にはとてもキツかった。
今でも中学の卒アルは開くことはない。
最後のページに書かれたクラスメイトからの
寄せ書きに、無邪気な言葉が並んでいるからだ。
「吃るなよ、笑われるぞ」
「デ、デ、デ、デ、デ、デ、デクレッシェンド!」
好きで吃るやつなんていないよ。
クラスメイトはみんないい奴だった。
悪気がないのもわかっている。
悪気のない言葉こそがナイフだと知った。
今日は僕の人生を変えた曲や
大事にしている曲を3つ紹介したい。
写真には写らない美しさがある
高校に入って音楽を始めた。
バンドを組んでボーカルをやった。
高3の学園祭で人生で初めてのステージに立った。
歌う時は吃らない。
気持ちよかった。
マイクの虜になった。
失われた言葉を取り返した。
幕が上がる前はあれだけ緊張して逃げ出したいくらいだったのに
音楽が始まったらどうでもよくなった。
「いま俺が絶対世界で一番気持ちいい」
という謎の高揚感に包まれていた。
ブルーハーツの音楽の疾走感に自分を心を重ね合わせた。
出演バンドは3バンド。
僕らのバンドのメンバーは、僕も含め、人気者タイプではないし、パッとしない感じ。不登校のやつがいたりオタクがいたり、全然モテるタイプじゃない。当然僕らのバンドを知っている人は誰もいない。
他のバンドはライブハウスでライブしたりもしていて
すでに結構知られていて、ファンもついていた。
僕らだけ「誰?」状態。
でも僕は、
「見てろよ、俺らが絶対一番だ」
と密かに心に炎を燃やしていた。
結果、我らマイノリティバンドが人気投票で1位を獲得。
嬉しかった。
小さなことだけど、大きな一歩。
世界の99.999%は知らないことだけど、中部地方の山沿いの町の、校門の目の前に美味しいパン屋がある以外特に何もない高校の体育館で、マイノリティが世界をひっくり返した。砂粒みたいなほんの小さな世界を。
ドブネズミみたいに美しくなりたい。
『リンダリンダ』の冒頭の歌詞。
社会のマイノリティに光を当てる感じ。
ここに強烈に惹かれた。
写真には写らない美しさがある。
この言葉に救われた。
何度も、何度も。
何度も、何度も。
言葉が詰まって上手く喋れない自分を無様に感じていたからだ。
みんなが当たり前にできることができない
自分をダメなやつだと感じていたからだ。
写真には写らない美しさがある。
この言葉で自分が肯定された気がした。
あの日のステージの上で
マイクロフォンを握りしめ
力の限り全力で自分の存在を肯定した
あの日、確かに何かが変わった。
今でもこの曲を聴くと体が熱くなる。
間違いなく人生を変えた一曲だ。
「リンダリンダ」/The Blue Hearts
闘わない奴等が笑っても
世間からはみ出すと叩かれ、
夢を語ると笑われる。
これは1983年の曲だけど、40年近く経った令和の今も現役だ。
この日本においてチャレンジを表明することは、
多くの場合マイノリティになることを意味する。
流されてみんなと一緒にいた方がずっと楽だ。
自分の気持ちなんて見ないフリしてやり過ごせば簡単だ。
自分の意見を表明したり、チャレンジしたりすると、
足を引っ張られ、頼んだ覚えのない評論家に笑われる。
そんな不条理を熱唱するわけでもなく淡々と語る。
なのになんでこんなに心に染みるんだろう?
ポカリもびっくりの浸透圧の極めて高い曲。
チャレンジする全てのマイノリティへの応援歌。
『ファイト!』中島みゆき
ワイルドサイドを散歩する
この曲が良いのは極めて無責任なところだ。
ワイルドな方に行っちゃおうぜ。
普通じゃない方へ行っちゃうおうぜ。
っていう結構ハードなメッセージなのに
Take a walk(on the wild side)ときたもんだ。
散歩かよ。
コンビニで肉まん買いにいく
テンションでワイルドな道を行く。
この無責任さがいい。
みんながやらないことをやったり、新しいことにチャレンジしようとすると、足を引っ張られたり、批判されたりもするけど、案外この曲くらいのテンションで、肉まん買いに行くくらいノリで、ワイルドサイドに歩き出してもいいんじゃないの?
そう思わせてくれる曲だ。
トゥートゥトゥートゥトゥートゥートゥトゥー
トゥートゥトゥートゥトゥートゥートゥトゥー
コーラスまで終始無責任。
無責任であることに責任感すら感じる。
「俺、真面目に考えすぎなんやろか?」
そう思わせてくれる曲。
「まあ、気楽にやれよ」
ってルーリードが無責任に
ウインクしてくれる気がする。
サングラスで見えないけれど。
背中を押されてるのかどうかも曖昧だけど
まあ、やってみるかって思わせてくれる不思議な曲。
『Walk on the wild side』/Lou Reed
無理にみんなと合わせる必要なんかない。
周りを気にしてチャレンジをやめる必要もない。
言いたいことを言えばいいし、やりたいことをやればいい。
マイクロフォンがなくたって自分の声は伝えらる。
チャレンジをやめてしまった人たちに笑われてもいいじゃん。
肉まん買いに行くノリでワイルドサイドを歩き始めてもいい。
みんなと一緒じゃなくたっていいじゃん。
みんなから外れてもいいじゃん。
でも自分の大切なものは絶対譲らないようにしよう。
写真には写らない美しさはそこにあるんだから。
音楽をポケットに入れて。
マイノリティでいこう。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?