Goodpatch Anywhereで社会をアップデートする。表層のデザインを超えて本質に迫るIAの姿
今回登場してもらうのは、自身で会社を経営しながらGoodpatch Anywhere(以下、Anywhere)にも参画する大橋正司。IAという仕事の意義、デザイナーの仕事の本質、そしてAnywhereを通して見た理想の世界像。それら一つ一つを丁寧に紐解きながら語ってくれました。
テクノロジーの力が世界を変える。インターネット黎明期に見たダイナミズム
すごく遡りますが、小さい時から絵を描くのが好きでした。ちょうど80年代後半から90年代前半にかけてパソコンが家庭に入ってくる時代になり、そこからPhotoshopやShadeで遊ぶようになりました。CGがちょうど普及し始めた時で、個人でもいわゆるピクサーや『ジュラシックパーク』のような世界を作れるようになる中で、これから表現活動はどのように広がっていくのだろうという関心が育っていきました。
中学3年生くらいの頃には、制作したCG作品を自分で作ったウェブサイトで公開して、全国の作品を作っている人たちと交流をするようになりました。まだテーブルレイアウトの時代です(笑)。
高校生になると、インターネットを介して、全国で同じようなことをしている高校生や、ホノルルでフル3DCGの『Final Fantasy』の映画制作に参加されていたクリエーターの方とやり取りをしていました。その時にコンピューターの技術が世界を変えるんだということを実感しましたね。
インターネットがなかった頃は、友達を作るとなるとせいぜい同じ学校とか近所に住んでいる人でしたし、遠く世界中の人と繋がるなんて想像もしていませんでした。
そんなインターネットのダイナミズムの源泉に触れることで、CGといった表現活動から、テクノロジーの力を使ってどのように社会をより良く変えていけるのかという方向に関心が移っていきました。
僕がウェブサイトを作り始めた当時は、業界もまだきちんと成立していない頃で、インターネット上でウェブサイトを触れる人があまりいない時代でした。ですから、高校生の僕にもウェブサイトの制作依頼がくるんです。初めはちょっといいアルバイト感覚でした。そこから色々仕事を受けていたらどんどん楽しくなっていって、会社に所属するより起業しようと思い、大学院在学中に起業しました。会社という組織で働くのが嫌だったんです(笑)。
起業した会社ではこれまで、新聞社のデジタルサービス(電子新聞)のデザイン統括やFXのオンライン取引サービスなどといった案件を手がけています。to Cの案件も手がけてはいますが、to B案件の方が多くなってきていますね。社員は現在5名で、常時3〜4の案件が同時並行で走っている感じです。
目に見えないものを解き明かし構造化するIAという役割
Anywhereに参画したきっかけは、事業責任者の齋藤さんから誘われたことです。彼がGoodpatchに入る前、僕の会社の近所の制作会社で勤務しており、近くのデザイナーが集まる勉強会で知り合いました。ちょうどその頃、齋藤さんが転職を考えていた時で、Goodpatchを勧めたことを覚えています。代表の土屋さんのことも会社自体のこともよく知らなかったのですが、勢いのある会社で面白そうだからって(笑)。
そこからしばらく経って、Anywhereを立ち上げることになった齋藤さんから、「大橋さんの力が活かせそうな案件があるんだけど」と声をかけてもらい、参画しました。案件の面白さもありましたが、フルリモートでプロジェクトを進めると何が起きるんだろうと関心がありました。僕は2017年に組織開発系の会社も立ち上げているのですが、そこで得た知見の実践の場として最適だと思ったのです。
Anywhereでは、UXデザインの領域とIA(情報設計)の領域を担っています。Goodpatchのようなデザイン会社の成果物は最終的にUIデザインに帰着していきますが、「誰に」「どうやって」届けるのかがしっかりと考えられていなければ良いUIにならないので、その基礎部分を支えていくのが僕の重要な仕事の一つだと考えています。作ろうとしているものに対して、「これは社会にとっていいものになるぞ」という確信を添えるためのサポート役です。
長いこと世の中で発展してきた製品やサービスは、カタログスペックで語られがちです。ときとして、開発者側もそのような色眼鏡をかけてしまうことがあります。分かりやすくはあるのですが、人間はもっと色々な感性で物事を受容しています。五感で感じるもの、サービス体験の中で生まれるものなど、本来人が感じている複雑な部分にも目を向けましょうという気づきがUXデザインの源流にあると思います。
UXを成立させるためには、情報を伝えたり、ユーザーが情報を生み出せるようにする必要があります。情報というとお知らせやニュースといったものを想像しがちですが、「私たちの行動を変えるなにか」のことを情報と呼んでいます。IAとは、情報を、どのように取り扱ったり変化させると、ユーザーの行動が変化するのかを考える仕事です。
体験は色々な要素で受容されている複雑なものとお話ししましたが、その複雑さにきちんと対処していかないと良いものは生まれない。複雑さを紐解き、言葉やコンセプトに落としていくことで、何にフォーカスすると物事が成り立たつのかを明らかにしていくのです。複雑なものを解体し、再構築していくのがIAです。
というと、ものすごくロジカルに映るかもしれません。でも、私たちは感覚を取り扱っているんだから、感覚的にやったっていいんです。デザイナーさんは、ロジカルに理解するよりも感覚で理解する人の方が多いと感じますが、それでいいんです。
僕の仕事は、その「感覚」を紐解いてロジックに落とし込むことで、再現が可能になるようにすることです。ですから、問題を見つけたり、それに対する解決策を見出すことが感覚であっても問題ありません。世の中の風潮でロジカルシンキングが推奨されて、尻込みしてしまう方もいらっしゃると思いますが、一緒にお仕事をするデザイナーさんには難しく考えすぎずに、どこまでも感覚を信じて欲しいなと思っています。
コミュニケーションドリブン、求む
Anywhereは馬鹿みたいにコミュニケーションに対して向き合っている組織です。ですから、コミュニケーションがものすごく大事だと思っているのに、周りがそこに真剣に向き合おうとしていなくてジレンマを抱えている人はぴったりだと思います。
結局、コミュニケーションは技術なんです。みんな自分の目線で問題を見て、自分の解釈こそが正しいと思ってしまうんですよね。別の人がそれに対して「違うよ」と言った時に、何がどう違うのかを適切に判断する思考の枠組みを持っていないと、戦いになってしまう。
ですがそういうことは、普段の会話のなかで最初は気がつかないんです。ズレている、すれ違っていることに気づかないまま、知らない間に負債がどんどん溜まっていってしまう。
よくコミュニケーションスキルで「報連相」と言いますが、そもそもどういう目線での報連相なのかをすり合わせていないと、それぞれの目線の報連相を言い合っているだけで、すれ違いは容易に起きてしまいます。
会社経営をしていて一番大変だったことはこのコミュニケーションの問題です。そのズレを是正するためには、とにかく話すしかありません。あらゆる視点からコミュニケーションを取り直して、ズレを修正していく。僕はズレを是正するのに半年くらいかかりました。それくらい泥臭く話し続けるしか解決策はないのです。
ただ、対話をきちんと成立させるための技術はあります。拳で殴り合えとか、とにかく飲め!いうことではありません。ズレがあることに素早く気付けるようにするためのリフレクションやチームビルディングの技術をきちんと使いましょうということです。
人間同士のコミュニケーションでは必ずすれ違いが起こってしまうということを学んでからは、基礎理論を勉強、実践し、すれ違いをすぐに修正できるように努めています。Anywhereでも、チームビルディングの理論を取り入れるように提案しました。これは「リモートだから」やるべきことではなく、仕事をする上で根本的な課題なんです。「リモートだから会話が難しい」と言っている人は、十中八九オフラインでもきちんと会話ができていません。
もっと言えば、デザインという行為、つまり仕掛けを紐解いて、新しいものを生み出す能力とコミュニケーションの能力は質的にとても似ています。みんなが当たり前にしている行為に対して「なぜこうするんだろう」「なぜこうしなくてはいけないんだろう」というWHYを考える作業です。これまでの経験から、当たり前を疑える人はコミュニケーションをきちんと取りたがっている印象があります。
ですからコミュニケーションの問題に向き合うことが心から大事だと言える人はAnywhereなら生き生き仕事ができると思いますし、そういう方と一緒に働きたいと思っています。
デザインの力を証明する旗印になりたい
会社という概念をアップデートする実験の場がAnywhereだと思っています。フリーランスが多く所属するフルリモート集団と言うと、労力や才能を買い叩くようにも見られてしまうケースもあります。おそらく、Anywhereが始まった当時はそういう見られ方をされていたのではないかとも思います。でもそうではなく、きちんと意義や価値を持って組織を作っているんだ、それが実現できているんだということがやっと表に見えてき始めた段階です。そのことをもっときちんと解き明かし、知見を社会に提供していきたいと思っています。
Anywhereを通じて会社という概念をアップデートしていく、「新しい自由」を生み出すことにもっとコミットしていきたいですね。
Anywhereではクライアントのことを「デザインパートナー」と呼ぶように、単に依頼された成果物を納品するだけの受託組織ではありません。大きなことを言うようですが、パートナー企業をアップデートする組織だと思っています。今はまだデザイン投資の価値を知ってもらうフェーズにいると思いますが、最終的にはパートナーがデザインを通じてより良い会社になることが重要です。
デザイン投資というとプロダクトやサービスのデザインのことに目が向きがちですが、本質的にはそこで働いている方たちが日常のあらゆることに対して問い立てをし、社会課題を解決するスキルを身に着けるためのものだと考えます。そうやって、あらゆる人が最大限の自己効力感を持って事業を推進していくことが当たり前の世界での「デザインの専門集団」になっていきたい。ですから、まずはそういう世界を実現するための旗頭として、Anywhereが先頭を切っていきたいと思っています。
Goodpatch Anywhereでは、一緒に「デザインの力を証明する」メンバーを募集しております!インタビューを読んで少しでも気になった方はお気軽にお問い合わせください。