超地域密着型だからこそ生み出せる価値を可視化する【Bird×Goodpatch Anywhere】
フルリモートデザインチームのGoodpatch Anywhere(以下、Anywhere)は、2021年10月より、超地域密着型生活プラットフォーム「Bird」および、バード上にある「トリメシ」「トリスト」のサービス改善を支援しています。地域密着のサービスが持つ独自の価値を生かすために、コンセプトの整理やデザイン業務、価値の検討など、幅広い視点から業務に併走しました。本記事では、サービスデザイン段階での具体的な業務にも触れながら、プロジェクトの様子をご紹介します。
「かっこいい」と思えるものを、地方にこそ届けるために
——最初に、Anywhereにご依頼いただいた経緯を教えてください
株式会社アクシス 梶岡さん(以下、梶岡さん):
もともとバードや、バード上にあるトリメシ、トリストなどのプロダクトは、大急ぎで立ち上げたものだったんです。新型コロナウイルスの流行にともない、地域密着型のサービス需要が急速に高まる中で、まずはスピードが必要でした。立ち上げ当初は、Uber Eatsをはじめとするフードデリバリーサービスは、まだ地域に進出してはいませんでした。とはいえ、急いでつくったものだから、ここからはもう少ししっかり全体のデザインを考えていきましょう、と。
私たちは、「地方だから」という理由でダサいサービスを立ち上げたくなかったんです。「かっこいい」と思えるものを、地方だからこそ届けたかった。
——Anywhereに期待していた役割は、どんなことですか? 期待していたようなものを得られましたか?
梶岡さん:
ユーザーに届けたい体験を、どうデザインに落としこんでいくのか、プロとしての視点でサポートしてほしいと思っていました。実際に一緒にプロジェクトをしてみると、「なるほど、ここからデザインしていくのか!」と驚くようなことが多くありました。
株式会社アクシス 山尾さん(以下、山尾さん):
B to Cのサービスを立ち上げるのは初めてだったので、「何から着手するのかもわからない」という状態から、しっかりリードしてもらった印象があります。私たちは鳥取にいて、鳥取に提供するサービスをつくっている。でも、プロジェクト初期は新型コロナウイルス流行の影響で、Anywhereのメンバーがすぐには現地に来られないような状況でした。そんななかで、丁寧に情報を吸い上げて、重要なポイントを整理しながら「こうしたらいいんじゃないか」と多くの提案がありました。それは、期待を超えたところだったと思います。
Goodpatch Anywhere 五ヶ市(以下、五ヶ市):
プロジェクトの初期は「買い物体験」についてたくさん会話をしましたよね。「そもそもメインの移動手段は車だから」とか。
Goodpatch Anywhere 生駒(以下、生駒):
そうでしたね。車がないと移動できないというライフスタイルを当事者の目線から考えるために、実家に帰省しているときの気持ちをできるだけ具体的に思い出すようにしました。それから、Anywhereは完全リモート組織なので、いろんな地域に住んでいるメンバーがいます。その強みを生かし、地方在住のメンバーにインタビューをすることで、解像度を上げていきました。
Goodpatch Anywhere 三浦(以下、三浦):
地方とひとくちに言っても、いろんなケースがあるんです。例えば私の住んでいる場所は、奈良県の中でもかなり極まったローカルエリアといえます。
そんなふうに、「鳥取県」という範囲の中でも、市内か山間部かでライフスタイルにはかなり開きがある。まずは、どのエリアの人々に使ってほしいのか? という整理も重要でした。
地域の特徴を考慮して、価値をデザインする
——情報を整理して、プロジェクトを進めていったんですね。サービスをデザインする中で、こだわったポイントを教えてください
梶岡さん:
地方ならではのポイントとして、「使いやすさだけでは戦えない」ということがあります。例えばUber Eatsのような大規模なプラットフォームでは、加盟店舗がひとつ消えたところで、全体が破綻するようなことは起こりません。でも、鳥取を対象地域とする「トリスト」では、店舗の絶対数に限りがあります。だから、ひとつの店舗が消えただけで、サービスにもユーザーにも大きな打撃になる。トリストでは、ユーザーの使いやすさはもちろん大事ですが、加盟店にとってのメリットも、しっかりデザインしなければならない。そのため、価格競争に陥らないような設計が重要でした。
生駒:
そうですね。今回は、エンドユーザーだけでなく、他の加盟店の視点も加味し、事業フェーズに応じた設計をする必要がありました。
例えば、オンラインで買い物をするユーザーは、「どのショップで買うか」ということよりも、「ほしいものが手に入るか?」ということを重視します。だから、ユーザーの欲求だけにしたがって最適解を出せば、楽天市場のような店舗横断型のアイテム一覧に似てきます。こうした大規模なプラットフォームは「どのアイテムを何円で売るか」を可視化することに特化している。
でも、私たちが目指す「地方特化型のショッピングモール」で、他店舗と価格ばかり比較されてしまう状況になれば、加盟店の参入意欲を削いでしまう。そこで今回は、商品を選ぶ前にあえて「お店を選ぶ」というステップを踏んでもらうことにしました。また、地域で特徴的な店舗に加盟してもらうためには、さまざまな業務形態に対応する必要が出てきました。店舗選びの軸が複雑になりそうでしたが、そこは慎重にみんなで議論しながら整理できました。
山尾さん:
Anywhereは、ユーザーの体験設計だけでなく、バード事業をどう広げていくか、という戦略的な部分や打ち手の検討など、ビジネスの観点でもさまざまな支援をしてくれましたよね。
生駒:
ビジネスの観点では、「人口」が議論のポイントになりましたね。都市部をターゲットとした事業を始めるときは、ニッチな市場から高単価の商材で利益確保を狙っていく、という戦略も立てられる。それに対して、地方を対象にした事業を立ち上げる場合は、そもそものパイが限られています。だから、ターゲットユーザーの定義を広くせざるをえない。ここが、地方のサービスで価値をデザインする難しさのひとつだと思います。
そこで、一人当たりの売り上げ単価とコストから利益率のシミュレーションを行い、議論を進めました。どの価格設定だったら、鳥取市民の生活に受け入れられそうか? あるいは、設定したい価格帯で鳥取市民に受け入れてもらうためには、どういう商品やサービスを提供すればいいか? いろんな角度からディスカッションしましたね。
梶岡さん:
そういう意味で、トリストは将来的にはオールマイティなユーザー層を狙っていく必要があります。地域社会全体に受け入れられるものを育てていく。
心理的安全性は「維持」することの方が難しい
——Anywhereメンバーと一緒にプロジェクトを進める中で、今後に生かせそうなポイントはありましたか?
株式会社アクシス 田草さん(以下、田草さん):
Anywhereのみなさんは、イメージをふくらませる方法をたくさん知っているな、と。普段は文字だけで終わらせるようなコミュニケーション部分を、図や絵として整理し、認識をすり合わせたり、解像度をあげたりしていく。その可視化の方法が上手で、一緒に働きやすいと感じました。
山尾さん:
ツールも素晴らしかったですね。ドキュメンテーションツールのNotionやオンラインホワイトボード、デザインを共有できるFigmaなど、プロジェクトのステージや内容に合わせて、いいものをたくさん紹介してくれました。
生駒:
アクシスのみなさんは、新しいツールを導入することに全然、抵抗がないんですよね。「これを使ったらどうですか」とお話しすると、すぐにやってみてくださる。だから私たちも紹介しやすかったです。
梶岡さん:
心理的安全性への配慮も、すごくよかったです。Slackに投稿された誰かの発言に、たくさんの絵文字でリアクションをしてくれたり。リモートなのにすごく雰囲気がよかった。この雰囲気づくりは、ほかのプロジェクトにも生かしています。
山尾さん:
前向きで楽しく進めてくれるから、社内でも真似したくなるんですよね。バードチームの中でも、いい雰囲気を出していこうという意識が根付きました。
三浦:
心理的安全性については、アクシスさんの力も大きいですよ。違う意見をはっきり言い合えるような空気をつくってくれていると感じました。本当にこのプロジェクトで、私はアクシスさんのことを「パートナーだ」と心から思ったんです。Anywhereのメンバーが、一般的な「デザイン」の担う領域を超えてプロダクトについて意見を言ったとしても、「そこはあなたの領域じゃない」というような拒絶を決してしない。ウェルカムな空気がずっとある。
生駒:
わかります! だから、利益構造について提案したり、幅広くプロダクトのために考えたりすることができました。心理的安全性って、つくることよりも「維持すること」の方がずっと難しいんです。だから、これだけ長期的なプロジェクトで、最後まで心理的安全性が担保されているチームというのは、本当にすごい。アクシスのみなさんは、それぞれ補完するような関係性で機能していると思います。誰かが疲れていたら、ほかの誰かがチームを引っ張っていってくれる。すばらしいです。
満場一致の混乱期を超えて
梶岡さん:
一年前ぐらいに、Notionを導入したタイミングで、情報がオーバーフローしてチームが大混乱したことがありましたね。あのときは、五ヶ市さんと生駒さんがNotionやオンラインホワイトボードを使って、情報をサラッとまとめてくれた。五ヶ市さんが「満場一致の混乱期です」と言っていて、印象的でした。満場一致だから、健全です、と。
五ヶ市:
「タックマンモデル」ですね。心理学者のブルース・ウェイン・タックマンが提唱した「グループ開発の段階」というフレームワークを利用して、定期的にチームで振り返りを実施しています。チームが機能していくには、「形成期」「混乱期」「統一期」「機能期」「解散期」という5つの段階があると言われていて、メンバーそれぞれが「今、どのあたりにいるだろう?」という認識を示して、すり合わせる。あるとき、メンバー全員が「混乱期」だと回答しました。満場一致の混乱期です。
これは、みんなの認識が揃っているから健全なことなんです。みんなが問題を認識しているから、解決に向けて動くことができる。
Birdが地域の誇りになるように
——印象に残ったアウトプットや体験はありますか?
山尾さん:
「トリメシフェス」というイベントをしたんですが、デザインチームが短期間でデザインを仕上げてくれたんです。そのキービジュアルを使った大きな看板と一緒に、みんなで写真を撮りました。
——合宿もしたんですよね
梶岡さん:
そうそう、Anywhereのメンバーは、鳥取に2回来てくれましたね。現地を知ってもらうのも大事だと思いました。この合宿で、最後のモヤモヤしていたコンセプトが固まったんです。
生駒:
合宿、楽しかったですね! 一緒に鳥取砂丘に行ったりして。
——最後に、バードの今後の目標を教えてください
梶岡さん:
まずは、会員数5万人を目指しています。10人に1人がバードIDを持っているという世界を目指します。私たちはこのサービスを通じて、「地元は好きだけど、誇りを持てない」という人たちが自信を持てるようにしていきたいんです。地方だけど、首都圏で得られる以上のサービスがある、自慢できるようなプロダクトがある。「バードがあるから、鳥取から引っ越す気はないよ」と言ってくれる人が出てきたら……。そんな思いで、これからも改善を続けていきます。
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