日本で一番デジタルなチームが教えてくれた働くことの真理
2021年9月1日、デジタル社会を形成し、DXを推進するための司令塔としてデジタル庁が設立。それと同時に国民がデジタルについて定期的に「振り返り」「体験し」「見直す」ための機会として「デジタルの日」が制定されました。
今回は「デジタルの日」にちなみ、「日本で一番デジタルなデザインチーム」になるべく組織構築を進める Goodpatch Anywhere(以下、Anywhere)の働き方を紹介します。
Anywhereは株式会社グッドパッチにて2018年8月からスタートした、フルリモートで企業の事業立ち上げ・リニューアルの支援を行う組織です。2020年、新型コロナウイルス感染拡大の影響でリモートワークが急速に導入された際には、リモートコミュニケーションマニュアルを発信するなど、デジタルな働き方を約3年に渡り開拓してきました。
そんなAnywhereで、事業立ち上げ支援を行うデザイナーに「デジタルに働く」とはどういうことか聞いてみました。
話をしてくれたのは、Anywhereでマネージャー兼UXデザイナーを務める五ヶ市壮央さんとUIデザイナーのうみちゃん。ふたりは現在、大手企業の新規事業立ち上げからプロトタイピングの制作までをスコープとするプロジェクトを担っています。
リモートワークでビジネス成果を上げるための組織づくりや、新しいツールを導入するためのコツなど、日々デジタルの中で働くおふたりにお話ししてもらいました。
Q.働く時間も場所もバラバラのチームで成果を上げるには?
Goodpatch Anywhere(以下、Anywhere)には北海道から沖縄まで、全国にメンバーがいます。中には多拠点生活を送るメンバーや、海外在住のメンバーなど、居住地だけでもこれだけ多様な組織となっています。また、フルコミットではなく、ハーフコミットや1日2時間だけなど働き方もさまざま。子育てや介護をこなしながら仕事を続けるメンバーもいます。そんな働き方も働く時間もバラバラなメンバーが「ワンチーム」となって働くことを可能にするために、Anywhereではデジタルの力を存分に活用しています。
▲五ヶ市さんはAnywhere初期からUXデザイナーとして活動中。
例えば、仕事やプライベートの予定はGoogleカレンダーで共有し、自分が稼働できない時間を明確にする。ミーティングはすべて録画し、出席できなかったメンバーがいつでもキャッチアップできる仕組みを作る。議事録やナレッジも機密性の高いもの以外は基本的にNotionで全員に共有され、誰でも自由に閲覧できるようになっています。
こうした「当たり前のこと」を徹底して行うことで、情報の透明性が担保され、働き方に裁量があっても安定したパフォーマンスを実現することができるのです。
「一番初めにAnywhereに入ってくる人たちには、子どものお迎えで出かけるとか、お子さんの寝かしつけで一緒に寝落ちしちゃうといったことは日常なので、まったく気にしなくていいですって伝えています。Anywhereはフリーランスの人が多いということもありますが、他の仕事でいないのか、子育てや介護で不在なのか、それとも他の用事なのか……内容は関係ないんです。『この時間は不在ですよ』と分かってさえすれば、あとはメンバー同士が調整し合えばいいので。」
そう話したのはマネジメントも行うUXデザイナーの五ヶ市さん。ご自身もふたりのお子さんの子育てと仕事を両立させています。メンバー視点ではどんなことを考えているのかうみちゃんにも聞いてみました。
「『お迎えだからごめんなさい』と言うよりも『この時間は動けないから頼ってもいい?』と言えるチームのほうが健全だと思うんです。なので、メンバーが謝らないために、まず自分から頼るようにしています。『自分も頼るから“トントン”だよね』という空気になれば『ごめん』は出てこないのかなと思います。」
さらに、実際にチームに多様性があるメリットをうみちゃんはこう語ります。
「ひとりでできることは限られているので、スキルセットが異なる人が多ければ多いほど、自分ひとりでは得られなかった知識や成し得なかったことが達成でき、成長スピードが大きく変わります。」
また、五ヶ市さんは「積み上げる学びが多様になるだけではなく、学びの定義そのものがひとつじゃ無いことがよくわかる」と言います。あるプロジェクトの振り返り時に「Anywhereらしさをうまくインストールできなかった」と反省を口にしたときに、メンバーから「Anywhereらしさって本当にあるんでしょうか」と言われたことで、自分の中にあった固定観念に気づいたという五ヶ市さん。
変化の激しい現代において、考え方が膠着すると組織の成長も止まってしまいます。多様な組織メンバーによって生み出される多様な考え方は、組織を柔軟に成長させるファクターとなるのです。
Q.新しいツールを導入するときの説得のポイントは?
AnywhereではチャットツールはSlack、デザインツールはFigma、ビデオ通話はZoomというように、より効率よくスピーディーに仕事が進められるかが、リモートワークにおけるツール選定の基準です。
大企業からスタートアップまでの事業支援をパートナーとして行うAnywhereですが、パートナー企業によってはツールの導入に難色を示されるケースも。どのようにして新しいツールを導入してもらうのか、五ヶ市さんに聞いてみました。
「『ダメ』にもパターンがあるので、まずはそのパターンを見つけるために話をします。ダメな理由が明確である、なんとなく不安がある、リスクを見定めようとしている……なぜダメなのかをヒアリングし、クリアにできる要因なら丁寧に説明をします。クリアできない要因だったとしても、まずはそれに対してリスペクトを示します。現場だけがスムーズになれば良いのではなく、クライアントの会社全体の利益になることが重要なので。」
新しいツールの導入を進めたくても、なかなか上司を説得できない。そんなモヤモヤを抱えている人も少なくないかもしれません。そんなときには「理屈だけで戦うのは厳しいので『無料で導入できるので試してみませんか?それでも難しければやめましょう』と言ってみると、案外すんなり通ることもありますよ」と五ヶ市さんは話してくれました。
「最初でつまずくと導入できるものも進まない」と語ったうみちゃんは、オンラインホワイトボードを使いツールの使い方を丁寧に解説するシートを作成。パートナーがいつでも使い方を確認できるように事前の準備を怠らないと言います。
導入後の使っているところまでを想像し先回りして準備をしておくことで、新しいものに対する抵抗感やハードルはグッと小さくなるのです。
▲うみちゃんが実際に用意したマニュアル。各メニューの説明からショートカットキーまで丁寧にまとめられています。
Q.リモートワークに“雑談”は必要?
多様性を許容し、新しいツールを導入しても、「人対人」の関係性である以上、リモートワークには不安がつきまといます。その一つが「ちゃんとあの人働いているのかな」というもの。そんな不安を解消するために、メンバー同士で意識的にタッチポイントを増やす工夫をしていると言ううみちゃん。
「Anywhereが使っているデザインツールのFigmaはカーソルにメンバーの名前が出てくるので、『ああ、今ここにいるんだね』と実感できるメリットがあります。またSlackにたくさんリアクションのスタンプを仕込んでおくのも有効ですね。『こう思った』というだけのつぶやきのような内容にもみんなが気軽に『いいね』や『わかる』といったポジティブなリアクションを付けてくれるとメンバーの気配を感じることができます。」
▲AnywhereのSlackは、オリジナル絵文字が1800個以上登録されています。
Anywhereのコミュニケーションは圧倒的な量が特徴。仕事なのだから「伝えるべきことが伝わればいい」という考え方もあるなかで、なぜあえて「ワイワイ」としたコミュニケーション手法をとっているのでしょうか。
五ヶ市さんは「ワイワイすると言うよりも心の箍を外すと言うほうが近いかもしれない」と言います。
「なぜコミュニケーションを密にしなければならないのかは、クライアントに対しても社内でも丁寧に何度も伝えます。アイスブレイクのゲームや、ポートフォリオを見せ合う会などを通して、少しずつ気持ちをオープンにするための土台を作っていきます。大切なことは、それらがすべて『いい仕事をするため』と言うことを伝えること。コミュニケーションが多ければ多いほど、たくさんの情報がプロジェクトに流れるので結果的にプロジェクトが円滑に進むようになります。また、トラブルを最小限に抑えることもできるんです。」
「もともと仕事の場でワイワイするの苦手」だったとうみちゃんは、Anywhereでのコミュニケーションを通じて考え方が変わったひとり。
「ワイワイすることに目的を持てたことで考え方が変わりましたね。そういうコミュニケーションのほうが結果的に相談しやすいし、分からないことを分からないと言えると実感しました。」
Q.リモートワークでのマネジメントのコツは?
最後にリモートワークでチームマネジメントを成功させるためのコツを五ヶ市さんに尋ねました。返ってきた答えは「リモートの場でもリアルの場でも起こることは同じ」ということ。
「プロジェクトが始まる前に必ずメンバーに伝えていることがあります。それは、チームが不安定にならないことは不可能なので、不安定な時期をいかに乗り越えるのかというマインドです。
コミュニケーション量を最大化する、作業過程を見せる、信頼を構築するためにリアクションをたくさんする……といろいろありますが、何より机を並べていたときだって、隣の人が本当に何をしているのかすべてを把握しているわけではなかったことを自覚することです。多分、リアルなオフィスでも同僚が隣でYahoo!ニュース見ていたり、Twitterしていたりするのを見かけることはありますよね。リモートであってもリアルな場であっても、起こる現象は同じなんだと思えば、チームメンバーのことを信じることもできるんじゃないかと思います。」
参考)デザインプロジェクト初期の不安定な時期をどうやって突破するか
ニューノーマルな働き方が浸透して約1年。多くのことが変わってきたなかで、変化に悩み疲れてしまった方もいるのではないでしょうか。「日本で一番デジタルなチーム」Anywhereを通して見えてきたことは、デジタルに働くことの本質は、リアルで働いていたときとまったく変わらないということでした。チームメンバーを信じ、頼り、丁寧なコミュニケーションをする。速度が求められるデジタルの場で、あえて本質に立ち返ることができるかどうか。それが、デジタル社会で勝ち抜くための方法なのかもしれません。
日本で一番デジタルなデザインチームを目指して
Anywhereは2018年8月の設立以来、東京のオフィスでフルタイムで働くという常識すら疑い、世界に先駆けて「チームでのフルリモートデザイン」を実践してきました。私たちはデザイン手法やプロジェクトの進め方だけでなく、暮らし方や働き方、会社のあり方そのものを切り拓くことを大切にしています。
デジタルの日は、デジタルに触れ、使い方や楽しみ方を見つける日。
今回紹介したAnyhwereというチームの働き方を通して、あなたがデジタルの力に可能性を感じられますように。