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余白のあるMVV(ミッション・ビジョン・バリュー)が、メンバーを「当事者」にする  【ネットプロテクションズ×Goodpatch Anywhere】

国内BNPL決済のリーディングカンパニーである株式会社ネットプロテクションズ(以下、ネットプロテクションズ)は、誰もが安心かつスムーズに商取引できる社会の実現を目指し、BtoC通販向け決済「NP後払い」をはじめ、「NP掛け払い」「atone(アトネ)」「AFTEE(アフティー)」など、さまざまな決済サービスを提供しています。ネットプロテクションズは2021年4月、デザイングループを発足しました。そこで「新たに誕生したデザイングループの存在意義や価値を深めるためにも、グループのミッション・ビジョン・バリュー(以下MVV)を策定する際に有効なアドバイスが欲しい」というご希望をいただき、Goodpatch Anywhere(以下、Anywhere)とのMVV策定プロジェクトがスタートしました。

今回はネットプロテクションズの小川さん、長谷川さん、そして Anywhereの齋藤、岡田の4名に、プロジェクトを振り返っていただきました。

本プロジェクトは、2021年6月より同年10月までの4ヶ月間にわたって実施されました。プロジェクトのメンバーは、ネットプロテクションズのデザイングループに関わるメンバー4名と、Anywhereより参加するアドバイザリ2名による計6名。ネットプロテクションズのメンバー4名が中心となり主な業務を推進し、隔週で開催されるプロジェクトミーティングでは、Anywhereメンバーよりデザイン組織運営に関するフィードバックを行いました。

お話を聞いた方】 
株式会社ネットプロテクションズ
小川さんデザイングループ シニア・サービスデザイナー。事業横断的なデザイン組織の立ち上げを牽引。MVV策定プロジェクトでは、制作現場と経営戦略、どちらの目線も踏まえたレビューを担当。
長谷川さんデザイングループ。BtoB向け決済「NP掛け払い」のPMもつとめる。MVV策定プロジェクトの進行を担当。

 Goodpatch Anywhere
齋藤:デザイン組織運営に対するアドバイザリ 
岡田同アドバイザリ / ライター

「サービスをもっと良くしたい」という思いから生まれたデザイングループ

——社内にデザイングループが発足した背景を教えてください 

株式会社ネットプロテクションズ 小川さん(以下、小川さん):
デザイングループは、2021年4月に誕生しました。ネットプロテクションズにはもともと、マーケティンググループのなかにデザインチームという小チームがあったんです。いわゆる「コミュニケーションデザイン」、PRやプロモーションに必要な業務をメインで担っていました。
しかし、会社の事業成長や多角化にともない、事業フェーズが変わってきました。「決済システムをつくる」というモノのデザインに加えて、継続的にエンドユーザーに使い続けてもらうための「なめらかな決済体験をつくる」という、コトのデザインの必要性が増してきたんです。
そこで、会社におけるデザインのプライオリティを向上させるために、デザインをマーケティング領域の機能としてではなく、独立したひとつのグループとして扱うことにしました。もともとデザインの取り組みはあったけれども、グループ化したことで明示的に「ブランドデザインおよびプロダクトデザインに投資します」と伝えることができた。そのタイミングで長谷川さんはじめ、何名かのスタッフにジョインしていただきました。

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(写真:小川さん)

Goodpatch Anywhere 齋藤(以下、齋藤):
デザイングループの立ち上げは、ボトムアップ的な動きから生まれたものとお聞きしました。現場からの動きがうまくいかない組織もあると思うのですが、なぜ御社がそれをできたのか、伺いたいです。
 
小川さん:
そうですね、ボトムアップで立ち上がりました。始まりは、マーケティングについて社長と話す場で、私がデザイングループ構想をペライチで提案したところからでした。「デザインは今後の重要課題になると思うから、やってみれば」と社長に言われ、そのままやってみた、という流れです。ネットプロテクションズはティール型組織を志向している側面があり、個人の意思がしっかりしているものは応援してくれるし、失敗も許容してくれる文化があります。逆に、経営陣や第三者が「やるべきだ」と言って始まるだけの取り組みでは、みんながモチベートされない。こうした社風があったから、ボトムアップでのデザイングループ立ち上げがうまくいったのかなと思います。
 
齋藤:
今回、デザイングループ構想を提案した際に、特に意思を込めたポイントや、柴田社長が同意されたポイントはどのあたりでしたか?
 
小川さん:
デザイングループは、会社の中で最も顧客起点で考えることに重きを置く組織でありたいと考えました。実際、お客様のレビューやお問い合わせをたくさん目にするなかで、デザインの考え方と技法を用いてもっと良いサービスを作りたい、もっと世の中に広めていきたい、という機運が社内で高まっており、タイミングが合致したのも事実です。社長自身も、自社のサービスやプロダクトを触ったり、他社さんのものと比較したりすることを通して、「サービスをもっとよくしたい」という気持ちを抱いていました。私自身についていえば、デザイングループを立ち上げたいという思いは5年前から持っていたので、今回は満を持しての発足、という感じはありますね。


議論を深めるための余白を含んだミッション
 

本プロジェクトは、ネットプロテクションズに新設されたデザイングループのMVV策定を目指すものでした。今回、出来上がったMVVはこちらです。

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(画像:デザイングループのMVV)
 
——「デザインでアタリマエを拡張する」。このミッションに込められた意図を教えてください
 
ネットプロテクションズ 長谷川さん(以下、長谷川さん):
今回のミッションには「デザイン」という言葉をどうしても入れたい、という思いがありました。ビッグワードでもあるこの単語をあえて入れることで解釈の余白が生まれます。そうすると、「デザインの定義」に関する議論が増えていく。問いかけることで、会社としてもグループとしても理解を促進していきたかった。

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(写真:長谷川さん)
 
——現時点で、デザイングループが考える「デザイン」の定義は?
 
長谷川さん:
今は、「モノやコトの価値を最大化するための、設計と制作」と定義しています。

齋藤:
いいですね。プランニングからアウトプットまで、全部入っている。
 
長谷川さん:
そうですね。「デザインという言葉がどこまでの範囲を示すか」についての議論は、何度も重ねました。そして、「デザインする対象」についても、「モノか / コトか」という検討を繰り返した結果、最終的に「両方」ということになった。もちろんこれは、現時点でデザイングループが考えている定義です。まずは問いかけることに意義があった。
さらに、ネットプロテクションズらしさを持ったミッションにするため、「アタリマエ」という言葉を選びました。会社としてのミッションである「つぎのアタリマエをつくる」。今後は、デザイングループとしてこの「アタリマエ」をどう定義し、どう目指していくのかを対話しながら進めていきたい。

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(画像:ネットプロテクションズのミッション)
 
長谷川さん:
最後に「拡張する」。デザインの担う役割はしばしば、「見た目をいい感じにするもの」というような解釈をされがちです。しかし本質的なデザインは事業を推進したり、企業価値を高めるような力を持っていると信じています。この「デザインの力」を伝えるために、「拡張」という言葉を選びました。

Goodpatch Anywhere 岡田(以下、岡田):
「拡張」は、いろんな方向に進んでいく動きも示唆する言葉ですね。
 
長谷川さん:
そうなんです。実は、「デザインの力」を表現するのに「推進」や「加速」というキーワードも検討しました。しかし、デザインによる影響がひとつの方向に向けて線的に伸びていくのではなく、面的に広がっていく……領域を広げたり繋いだりするという意図を込めるためには「拡張」が最適だろう、という結論に至ったんです。


プロセスに言及するビジョン、行動にうつしやすいバリュー


——ビジョンは「デザインの可能性を信じ、デザインに夢中になれるチームをつくる」ですね。策定の意図を教えてください

長谷川さん:
初期の段階では、ビジョンは「過去最高を出し続け、過去最高を“つぎのアタリマエ”にできるチームをつくる」でした。しかし社内レビューを受け、「最高」の解像度を高めてプロセスへの言及を盛り込む方向に舵を切りました。どうしたらデザイングループとしての最高を出すことができるのか? と自分たちに向けて問いなおし、「そもそも自分たちはデザインの可能性を信じているのではないか」と思い至ったんです。ミッションの「拡張する」に対しても、「可能性」というキーワードはマッチしました。真剣だが、楽しんでもいる。没頭することで、良い結果がついてくる。そんなスタンスを示す言葉として「夢中になる」を選びました。

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(画像:社内レビューをもとにMVVをブラッシュアップ)

——バリューは全て英語で策定されています。こちらの意図は?

長谷川さん:
こちらも、余白のある設計を意図しています。デザイングループのメンバーが自分ごと化しやすいように、という思いがありました。ある程度の方向性を英語で示し、自分なりに解釈できる余地を用意しています。自分で解釈するというステップを踏むことで、行動にうつしやすい。グループ内ではすでに、メンバー個々の解釈を深めるための取り組みが始まっています。


生の声を吸い上げ、思考の過程を共有する

——デザイングループのMVVをつくるにあたって、Anywhereに期待していたことは何ですか?

小川さん:
デザイングループという箱はできましたが、メンバーそれぞれがグループの存在意義や価値を自分の言葉で語れないと、世の中にいい変化を与えることはできないと考えていました。そのために個々人が「なぜやるのか」を掘り下げる必要があった。そうした状況下で、パートナーはAnywhereしかいないと思っていました。理由としては、「対話」をしてくれることが大きいです。画一的なフレームにはめ込んだりせず、「受託して何かを納品する」というスタイルでもなく……対話を通じて「ネットプロテクションズさんの場合は、こうあるべきですね」というところに導いてくれる。
 
——実際にプロジェクトを進めるなかで、他のプロジェクトにも生かせそうなポイントはありましたか?
 
長谷川さん:
プロジェクトを通じて学んだのは、メンバーの声を引き出すためのプロセスです。個人が感じたことを具体的な言葉としてたくさん出し、その背景にあるものや無意識に願っているものを抽出していく。その過程はとても勉強になりました。もし自分でやっていたら、もう少し漠然とした問いかけをして、みんなが抽象的な議論を続けて……三倍ぐらい時間がかかっていただろうな、と。僕は今、デザイングループの仕事以外にも、「NP掛け払い」という事業の開発組織もみているのですが、MVV策定のプロジェクトで培った経験を参考にすることがあります。チームに対する帰属意識の醸成や相互理解を深めるために、さっそく活用しています。
 
岡田:
今回のプロジェクトでは、思考の形跡を残す中間成果物が多かったですよね。「これがよかった」というワークはありますか?
 
長谷川さん:
個々人から吸い上げた声を関係図にするというワークがありましたが、その作業のおかげで、メッセージをどういう方向で考えればいいかわかりやすくなった印象があります。特に、「現在」と「未来」を軸として設定したことで、「どこに注力すべきか」という議論が進めやすくなったと思います。

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(画像:個々人から吸い上げた声を関係図にするワーク)

齋藤:
「重要なポイントがどこにあるか?」という視点でのまとめ方や、「狭義のデザイン / 広義のデザイン」のような軸をたくさん出せたことは、現在から未来へという時間軸を置いたことが大きいかもしれませんね。また、プロジェクトチーム全体が、普段からデザインの仕事に携わっている人々だったので、「こういう軸や課題が裏側にあるよね」という話を織り交ぜつつまとめていけたのかなとも思っています。
 
岡田:
早い段階で経過を社内に共有して、みんなに参加してもらうということも意識しましたね。
 
齋藤:
そのあたりは「かなり意識してやったな」と思います。過去の経験から「結論ありきでMVVを共有する」と絶対に揉めるし反発を受けるという予測をしていたので、「デザイングループ内でのコミュニケーション」にはかなり重心を置いていました。それから、「解釈の余地を残す」という点も重要でした。「自分の意見はこの中に含まれているな」と思える状態をつくり、社内の方々が当事者としてMVVをつくっていける余白が重要だと思います。
一番のアンチパターンは「これが正解です」と投げて、メンバーの感情を逆撫でして怒られる、ということなので。そうならないようにどうすればいいか? という視点は、Goodpatchの組織崩壊経験をだいぶ参考にしています(笑)。


「正解はない」と言ってもいい関係をつくる

——Anywhereと一緒に働いてみた感想をお聞かせください
 
小川さん:
そうですね、「思った以上に自然体でくるな」と(笑)。
 
齋藤:
(笑)。
 
小川さん:
こういうプロジェクトって、「与件はなんでしょう」というような、ある種のお作法に乗っ取ってある程度進んでいく印象があったんです。Anywhereさんは普通に「そもそもなんでやるんですか?」というところから話し始めるので、我々も自然体で取り組めたと思います。変に取り繕わなくていいのが、非常によかったですね。
 
齋藤:
「取り繕わない」は、僕たちとしても普段意識していることなので、まさに、ですね。「僕たちわかってますよ」「正解を知っていますよ」みたいなことは言わないようにしています。ただ、「これをやったら失敗しました」ということは明確に言える。
このデジタル領域におけるUIやUXデザインの分野は割と新しく、必勝法もセオリーもまだ存在しないという前提があるため、「一緒に正解を探していきましょう」というスタンスは特に大事にしています。しかし、それをクライアントと共有してプロジェクトをすすめるのには勇気がいるので、話してもいい関係性をいかにつくるか、ということに力を入れています。


越境するデザインで、つぎのアタリマエをつくる

——今後、デザイングループをどんな組織にしていきたいですか? 

長谷川さん:長崎の出島みたいにしたくて。出島って、海外との交流を開放し、そこからいろんな考え方や文化や技術が入ってきた。開いている場所であり、外部との窓口でもある。先進的な事例に触れたり取り込んだりしながら、内外でパフォーマンスを発揮できる。そんなグループにしていきたいですね。
だから、一緒に働く人とも「言われたものをただつくる」という関係ではなく、対話をしながらよりよいものを生み出していける関係を築いていきたいと思っています。
 
小川さん:
デザイングループが起点となり、会社にとっての新しい働き方を実現したり、新しいパートナーシップの形を模索したり。会社に対しても「つぎのアタリマエをつくる」グループでありたいですね。なので、大局的に世の中の変化や価値観の変容をとらえながら、本質的に自分がいいと思えるものをデザインしていける。そのために領域を問わず越境していける。そんなチャレンジをしたい人にとって、ネットプロテクションズのデザイングループはいい環境だと思います。

ネットプロテクションズ_オンライン会議でmiroを見る写真

(画像:ネットプロテクションズのデザイングループによるMVV策定ミーティングの風景。右上より楊さん、平井さん、長谷川さん)
 
 
グループメンバーが抱える生の声を引き出し、現在と未来を整理する中で誕生したMVV。この新しいコンセプトと共に、ネットプロテクションズのデザイングループは越境へのチャレンジを続けていきます。「デザインでアタリマエを拡張する」彼らの今後に、ぜひご注目ください。

Anywhereでは今回のようなコンセプト作りのサポートを、今後も積極的に行ってまいります。「業務の推進は社内メンバーで行うけれども、ミニマムでエキスパートからのレビューが欲しい」という方は、いつでもご相談ください。

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