「自分たちでもできるんだ」と思える仕組みを生み出す6つの手法 【BOOK☆WALKER×Goodpatch Anywhere】
株式会社ブックウォーカーが運営する「BOOK☆WALKER」(以下、ブックウォーカー)は、マンガ・ライトノベル・小説・実用書・雑誌など約90万点を扱う総合電子書籍ストアです。電子書籍の強みを生かし、定額で一万冊以上が自由に読める「読み放題サービス」も提供しています。
フルリモートデザインチームのGoodpatch Anywhere(以下、Anywhere)は、2019年10月よりブックウォーカーのアプリケーションリニューアルを支援。アプリの主要なナビゲーション要素である「本棚機能」をはじめ、読書体験を心地よくするためのデザインに携わってきました。組織にデザイン思考を取り入れたいという想いに対し、Anywhereはどのように併走していったのか。受発注の関係性でなく、パートナーとしての絆を深めていくために、どんな取り組みを進めたのか。プロジェクトの現場で試みた6つの取り組みをご紹介します。
ブックウォーカー視点の記事はこちら。リニューアルの意図や工夫について紹介しています。
新規ユーザーにとってわかりやすく、既存ユーザーを取り残さないためのUI/UX
10年以上アプリの運営をされてきたブックウォーカーには、古くからのユーザーが多くいらっしゃいます。そのため、既存のユーザーを置いてきぼりにせず、なおかつ新規のユーザーにとってもわかりやすいUI/UXへと改修することが求められていました。デザインの構築をはじめから見直し、デザイン思考を組織全体に浸透させるため、Anywhereとのプロジェクトが始まりました。
(写真:2019年に実施したプロジェクトキックオフの様子)
ブックウォーカープロジェクト担当者齊藤さん(以下、齊藤さん):
Anywhereには、普通のデザイン会社とは違う新鮮味を感じました。フルリモートである点も、先行導入していた状態で新型コロナウイルスの流行下を迎えることとなり、むしろ都合がよかったです。オンライン上でプロダクトをつくっていくという経験をするのに、ちょうどいい機会だったんです。コミュニケーションをとるためのさまざまな取り組みにも、「やってみないとわからない、だからやってみよう」と、新しいことを積極的に受け入れていくスタンスで挑みました。答えが見えないものをつくっていくワークの数々は、参考になるものばかりで、今でも社内に浸透しています。
(写真:齊藤さん)
メンバーの心理的安全性を高めるために
Anywhereプロジェクトマネージャー五ヶ市(以下、五ヶ市):
僕たちはまず、ブックウォーカーとAnywhereの両社からなるプロジェクトメンバーの心理的安全性を確保するために動き出しました。最初に提案させていただいたことは「Zoomでのミーティングはひとりずつの画面を映し出す」ことでしたね。
齊藤さん:
当初、ブックウォーカーのチームは一台のパソコンを経由し、複数人で大きなプロジェクターを見ながらオンラインミーティングを実施していたんです。このやり方ではブックウォーカー側のメンバーがどんな表情をしているのかはっきりと見えず、コミュニケーションが取りにくい、と。「なるほど」と思いました。
五ヶ市:
毎回、さまざまなことを提案して、話し合いをしながら、ライトに挑戦させていただきました。細かな例では、「ミーティングの冒頭にテーマを決め、画面越しの記念撮影をすること」なども、ミーティングに来てもらうための工夫のひとつです。テーマごとの撮影はアイスブレイクにもなります。そんなふうに、小さなことから少しずつ心理的安全性を高めていく取り組みを開始しました。提案して、ダメだったらやめよう、まずは試してみようというスタンスを大切にしました。
プロジェクトを円滑にする6つの取り組み
かたくなりがちなプロジェクトミーティングの雰囲気を和らげるため、Anywhereが意識したのは「チームを巻き込んでいく仕組み」でした。プロジェクトにあたって、どのようにコミュニケーションをとり、どのようにデザイン思考を取り入れていったのか。ブックウォーカーのデザイナーの村上さんとディレクターの宮本さんに、当時を振り返っていただきました。
(写真左:宮本さん 写真右:村上さん)
■距離感を近づけるための取り組み
①デイリーミーティングのファシリテーションはクライアントを交えた「日直制」
宮本さん:
Anywhereとのプロジェクトでは、営業日に毎日15分間、タスクの確認や進捗を共有するデイリーミーティングが設けられていました。毎日顔を合わせるだけでも、コミュニケーションは取りやすくなっていきます。
齊藤さん:
ファシリテーターをあみだくじで決めるやり方は面白かったです。みんながファシリテーターを経験していこうというアイデアでしたね。
村上さん:
私も、デイリーミーティングの日直制は面白いと思いました。「このデイリーミーティングがないと困る」と思えるほどに、メンバーとのコミュニケーションがとれましたし、ファシリテーターも経験できてありがたかったです。これまでブックウォーカーのデイリーミーティングは一部のチーム内でしか開催していなかったと思うのですが、Anywhereとのやり方を真似し、他のプロジェクトでも浸透させようと取り組んでいます。
宮本さん:
ミーティングの時間が余ってもそこで終わりにせず、チームづくりのために新しいメンバーの自己紹介をするなど、さまざまな工夫がありました。おかげで、毎日充実した時間を持てたと思います。
(写真:村上さん)
②Slackのスタンプで積極的にリアクションをする文化
五ヶ市:
Anywhereに浸透している文化のひとつとして、「Slackで発信されたメッセージに対して積極的にリアクションをする」というものがあります。発信された内容に対し、スピーディに、みんなでたくさんのスタンプを押していきます。ブックウォーカーとのSlackを通じたコミュニケーションでも、同じスタンスで進めていきました。
(写真:宮本さん)
宮本さん:
発信したメッセージに大量のスタンプをもらって、最初はびっくりしました。自分は以前の職場が縦社会的な環境だったため、上司のコメントにgoodスタンプを押すことにすら抵抗があったので……。しかしながら「これは意味があるものだ」と感じ、すぐに真似しはじめました。純粋に、リアクションをいただけると嬉しいですね。自分からもどんどん押すようになりました。
村上さん:
Anywhereメンバーオリジナルのスタンプをブックウォーカーメンバーがダウンロードして使ったり、弊社の代表も自らスタンプで反応してくださったりして、今までとは違う空気が流れていく印象がありました。
■発言しやすい雰囲気づくり
③役割分担ワークショップ
五ヶ市:
「自分が何の役割をしているか」と、「ほかの人が自分に求めている役割」を書き出してもらい、認識を揃えていくワークを実践しました。まず、オンラインホワイトボードツール上で、付箋に役割を書き出します。それから、プロジェクトメンバーみんなで付箋を見つつ、解釈や意見を交換するのです。適切な役割分担になるように、リアルタイムで調整を進めました。プロジェクトが進行していくと、メンバー間で「お互いがどんな役割を持っているか」の認識にギャップが生まれたり、チームが持っている仕事の全体像が不明瞭になってったりすることがあります。このことが、チームにひずみをもたらします。
齊藤さん:
誰が何の役割を担っているのか、メンバー同士の認識を揃えていく過程で、チームの課題が明確になっていきました。ブックウォーカーはAnywhereとのプロジェクト以外の場でもこのワークを実施し、認識のズレを解消するようにしています。
④役員と現場メンバーの交換日記
齊藤さん:
役員との交換日記も、いい雰囲気がつくれていましたね。
五ヶ市:
全社公開のSlack上で交換日記をすることで、ブックウォーカーの役員と、現場の社員との意思疎通を実現したいと考え、実行しました。
齊藤さん:
社員の成果物に対して役員からフィードバックをするだけでは、「なぜその意見なのか」のプロセスや背景が伝わっていなかったのです。一方で役員も、「どうしたら現場に伝わるのだろう」という課題がありました。
五ヶ市:
はじめは役員と私の双方で、その後は、ブックウォーカー社内の方々を広く巻き込んで、交換日記を書きました。テーマをバトン形式で渡して回すこともありましたね。ブックウォーカー社員のみなさまが熱い想いを綴ってくださったのが、とても印象的でした。
齊藤さん:
仕事との向き合い方やブックウォーカーで実現したいこと、読書に期待していることなど、前向きな発信が増えることは安心感にもつながり、役員も多くの気づきを得られたそうです。コロナ禍で顔を合わせられない環境のなか、雑談をする機会がなくなっていましたが、結果的にこの交換日記が雑談のきっかけになっていました。
■コミュニケーションの密度を高めるために
⑤インプット・アウトプットを出しあうドリーム会
五ヶ市:
サービスの課題をアウトプットするため、Anywhereとブックウォーカーのみなさんとで「ドリーム会」というブレインストーミングの時間を設けました。このワークでは、サービスの改善案や何を解決すべきなのかを探ります。デザインツール「Figma」上でラフなUIをつくり、一人ずつプレゼンテーションをします。具体的なアウトプットをつくることで、みなさんが持っている知見や課題を説明しやすくなるのです。デザイナー以外の方にもFigmaでUIをつくってもらったり、それが難しい場合は言葉で伝えていただいたものをAnywhereチームがその場でデザインに落とし込んだりしました。
宮本さん:
デザインツールに抵抗がある人も、みんなで同時に同じ画面を触ることで、インプットとアウトプットを繰り返すことができました。定期的に開催することで躊躇なくアイデアを出すことができ、肯定しあえる環境が生まれて楽しかったです。
(写真:ドリーム会の様子)
⑥共同作業会
村上さん:
週に3回開催していただいた、ブックウォーカーとAnywhere両社での「共同作業会」も、とても助かりました。Figmaを使うことも、アプリのデザインに関わることも初めてだったので、不安がたくさんあったんです。
五ヶ市:
コミュニケーションを少しでも増やすために、ボイスチャットツールの「Discord」を使い、音声がつながった状態で作業を進めていく時間をとりました。
村上さん:
音声でつながりながら作業を進めることで「今ちょっといいですか」という、まるで先輩が隣にいてくださるような距離感がありました。かしこまらずになんでも聞ける場所でしたね。ほぼ一日中、会話をしていた日もあり、非常に安心感がありました。
「自分たちでもできるんだ」と思える仕組みづくり
五ヶ市:
こんなふうに、多方面からいくつもの取り組みを実施したのは、「チームの見える化」が目的だったんです。デイリーミーティングや、週次の振り返り、不定期の役割分担会などを設けることで、コミュニケーションの文脈が異なる場を用意できる。文脈を変えることで、いつもは話せないことを引き出せる。そんな環境を目指しました。
齊藤さん:
小さなことの積み重ねが、密度の高いコミュニケーションを生みだしてくれていたと感じます。
宮本さん:
最初はAnywhereチームの能力が高いから、コミュニケーションも上手にできているのではないかと思っていたんです。でも実際にやってみると「自分たちでもできるんだ」と思えるような仕組みをつくっていただいたと感じています。チームの心理的安全性を意識するのも初めてでしたし、みんなが気持ちよく働けるような雰囲気づくりをしてくださった。それが今の働き方にも生きていて……とても印象深いプロジェクトでした。