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Goodpatch Anywhereはデザイナーが「本当に」デザインと向き合うための場所

国内外から140名が集まるフルリモートデザインチームが見つめるこれからの組織のあり方(1)

2018年に組織を立ち上げてから1年半あまり、メンバー全員がフルリモートで事業に取り組んできたGoodpatch Anywhere。その総指揮をとる事業責任者 齋藤恵太のインタビューをお届けします。
今回は、Anywhereの立ち上げから今日に至るまで、事業責任者の立場から見てきた景色や、「フルリモートチーム」を作ろうと思った理由、これからの展望などを聞いてみました。

全ての「しかたがない」を飛び越えるために立ち上げたフルリモート組織

Goodpatch Anywhereを立ち上げたのは、Goodpatchが掲げているビジョン・ミッションを実現させるためです。
僕はもともとGoodpatchで、サービスデザイナーとして長年クライアントワークを担当していました。しかし、ありがたいことに非常に多くの案件のご相談を多くいただき、お受けできないケースも多くなっていました。僕らは「デザインの力を証明する」「デザインの力で世界を前進させる」ことを目標にしているのに、案件をお断りしていて良いのだろうか、このペースではいつまでもビジョンを達成できないのではないかという危機感が募っていたのです。

そこで、この問題を解決するために、これまでとは違うアプローチを取る必要があるのではないかと考えはじめました。そこで行き着いたのが、「東京のオフィスでフルタイムで働く」という制約を取り払ってみたらどんな世界になるのだろうという仮説でした。

そんなことを考えながら、育休中のメンバーにヒアリングしてみた結果、想像以上に働きづらい状況が見えてきました。リモートでできるデザイナーの仕事というと、LPやバナーを作ると言った切り出しやすい仕事になりがちです。サービスの中心部に関わる仕事がやりたいとなると、なんとか頑張って時短勤務で働くしかないという実情が見えてきたのです。
また、地方にいる実力やポテンシャルを十分に持っているのに、それを持て余しているデザイナーも多くいることが分かりました。

ただでさえデザイン業界は人材が少ない。デザインの力を必要をしてくださっている企業や組織はたくさんあるのに、その要望にきちんと応えることができないのはとても残念なことだという思いが強くあります。

十分に能力があるのに思うように動けない人が多く眠っているという事実は凄くもったいないと感じたことで、リモート組織を作ろうと決めました。

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また、働き方改革の文脈と並行して、東日本大震災や近年の台風災害、などを目の当たりにし、災害時の事業継続性をどのように担保するのかということを意識せざるをえませんでした。

流石にコロナウィルスの流行までは予測していませんでしたが、フルリモート組織であれば、災害時に事業が完全に停止することを避けることができます。過去の経験から、こうした時こそITやデザインの力が発揮されなければならないと考えていたことも、リモート事業を進めるべきだと決断する要因となりました。

「最速で組織実験を繰り返していく」という決意

リモート組織を作るに当たり、ずっとリモートで組織を作ってきたキャスターの石倉さんに話を伺いながら作戦を練りました。その中でアンチパターンとして一部の人だけリモートで働くということが見えてきました。この状態になるとオフィスにいる人同士で会話が発生し、どうしてもリモートの人がサブ的な扱いになってしまい、情報格差が発生してしまいます。これはどれだけ気をつけていても起こってしまう問題です。離れて活動するからこそ、情報の透明性が求められると考えていたため、初めから全員がリモートの状態でやってみようと決めました。

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また会社として一部だけリモートワークを取り入れると、人事制度などの問題が全社的に影響してしまいます。ですから、Anywhereに関しては、独立組織として完全に分かれた形で運営したいと考えました(法人としては分離していません)。

Anywhereで導入したい制度によってGoodpatch本体の制度にも影響が生じるとなると、Anywhereで何か試してみたいとなった時に、スピード感を持って取り組むことができなくなってしまいます。最速で組織を立ち上げ、運用するための決断です。この二点を鑑みて、僕はプロパーの社員としては一人で事業をおこしていくと決め、現在に至るまでそれは継続しています。

さらに、可能な限りスピード感を上げる、Anywhereに関することは、基本的に事業責任者である僕に権限委譲してもらっています。途中までは管理部と上司と社長がいる場で話し合いながら進めていましたが、実験速度をもっと上げたいと思っていたので、どんどん定例ミーティングの回数も絞っていきました。採用も完全に独立した状態で行なっています。

権限委譲してもらっているらうためには、利益をきちんと上げることは立ち上げ時から一番気にしています。最速で黒字転換すること、高い利益率を維持することなどです。結局、利益が出ていないと経営層とのコミュニケーションが難しくなり、介入が増えてくる要因になります。事業としてやりたいことは無限にあるし、メンバーがやりたいことも通せるようにする。すべきことをきちんとやることで、自由度を確保するんだという意志は立ち上げ時から持ち続けています。

なぜここまでスピード感にこだわるかというと、僕らのデザインに対する考え方がそもそも「絶対の正解は存在せず、様々な試行錯誤を重ねて成長し続ける」というところに根差しているからです。それを体現する組織であろうという意思は固く持っていました。

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本質的なものづくりに対して時間を割くことがクライアントの満足度に繋がる

手がけているプロジェクトについてですが、現状では、もちろん全てが完璧とはいきませんが、うまく回っている実感があります。Anywhereを立ち上げて一年半ほどしか経っていませんが、継続案件が多く、平均プロジェクト期間も7〜8ヶ月というのは、クライアントが僕らに依頼する価値を感じてくれた結果だと思っています。

僕らの価値の一つに、とにかくコミュニケーションの量が圧倒的に多いことが挙げられると思っています。Anywhereの仕事の進め方は、他のデザイン会社とは明らかに異なり、クライアントと「一緒に」プロダクトを作り上げます。そのために、密なコミュニケーションを欠かすことはできないのです。コミュニケーションへの徹底したこだわりは、「うまくいかない組織はほとんどコミュニケーション不全である」という認識に基づいています。

とあるプロジェクトを終えた時、クリエイティブ案件を多く発注する大企業の方から「アウトプットの量と質が、これまでの制作会社より圧倒的に良かった」と評価していただいたことは一つの大きな成功体験となりました。クライアントとの信頼関係を構築し、本質的なものづくりに対してきちんと時間を割くことは、プロジェクトを進める際に徹底して考えていることです。

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バイアスを打ち壊して成長する

Anywhereを立ち上げる際、10%の成長よりも10倍の成長をするためには何をしたらよいのだろうと考え、自分の中のどの固定概念を壊すと一番インパクトがあるかと思考しました。その結果、自分の仕事のスタイルとして「常駐・密着型でプロジェクトを進行していくスタイルを壊そうと思ったんです。

僕は2014年にマネーフォワードさんの案件をやっていた時から、社内ではまだ珍しかった常駐スタイルを取り入れました。それまでは「常駐なんて…」という風潮が社内には強かったのですが、どんどん複雑になっていくアプリやサービスのデザインを週一のミーティングでコミュニケーションしながら進めて行くことに限界を感じていたからです。

結果として、マネーフォワードさんのリニューアルは大きな成功を収め、社内MVPを受賞し、Goodpatchとしても代表的な案件になっていきました。そこから、Goodpatchのクライアントに深く入り込み、圧倒的にコミットしていくというプロジェクトスタイルが広がっていったと感じています。

「リモートワーク」というキーワードでは対面・密着でのコミュニケーションが全くできない状態になるので、これが一番チャレンジングだろうと考えて挑戦を始めました。しかし結果的には、常駐・密着型を最大限に突き詰めて行ったにした形が、Anywhere流のリモートデザインワークとなったことが非常に面白いなと感じています

物理的にオフィスに行くことはしませんが、常にオンライン上でクライアントと繋がってデザインについて活発な議論を交わすことで、常駐に限りなく近い状況が作れています。また、会議室の準備といった事務手続きからも開放されるため、本質的なデザイン作業に集中できる環境を作ることも可能になります。Goodpatchがこれまで培ってきたクライアントと並走するデザイン手法のエッセンスを抽出したのがAnywhereのチームなのです。

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デザイナーが置かれている、非常に厳しい状況を認識しているか

参画してくれているメンバーに対して常に思っていることは、フリーランスや企業の中で弱い立場でデザインをしている人たちが、より自由にデザインの仕事ができる状況を作らなくてはならないということです。

一般的な企業ではまだまだUIやUXデザイナーの認知も低く、十分に投資もされていません。そんな状況で働くデザイナーは「1つのプロジェクトに1人もしくはそれ以下」の人数で働いていることがほとんどだと言えます。よほど大きな企業でなければ複数人のデザイナーがいるという状況はまだまだ少ないと感じています。

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そんなデザイナーに対し、UI/体験/カスタマーリレーション/バナー/広告/コーポレートサイト/名刺など、プロダクトから会社全体に至るまでの「デザイン」と名のつく非常に幅広い分野の仕事が集中することで多忙になり、それに対して評価をする人もいない、という非常に消耗する構造になっています。

エンジニアは10名いてもデザイナーは1人という組織で、いつもデザイナーがロジックや技術理解の甘さを追求されてしまうという光景をよく目撃しますが、この逆境を当たり前のように跳ね返せる人はかなりの希少人材であり、そんな人材を当たり前に雇用できる企業はこのような状況には陥っていないはずです。個人や、さらに立場の弱いフリーランスの立場でなんとかするにはあまりにも過酷な状況が当たり前のように広がってしまっているのです。リスクの取れない状況では、今確実にできる範囲の仕事しかできず、新たなチャレンジも起こりにくくなってしまいます

そんな中でスキルアップのためのインプットやアウトプットがなかなか追いつかなかったり、レビューもきちんともらえない環境で作ったものがリリースされてしまったり、リリースしたものに対する反応も教えてもらえなかったりと、モヤモヤした思いを抱えながら働いているデザイナーが多くいるということを、今までの現場の経験や、Anywhereで行った100人以上の面談で痛感しました

それを、フリーランスや社内受託状態のとても弱い立場から、一つ一つ実績を証明しながら(デザインの価値を証明する難しさはご理解いただけますでしょうか)、成長や活躍できる人はほんの一握りです。組織戦略としても、この状況を1人でなんとかしてくれるユニコーン人材を採用することに賭けてしまうのは非常に危険なことだと感じています。

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正解は誰にもわからない。だからこそとことんディスカッションをして前進する

そんな弱い立場で仕事をしてると、仕事の進め方が「クロージング」だけを意識するようになってしまいます。「これでいいですか」「こういう風にやったらいいですか」というように、「仕事を終わらせるために」どんどん可能性を閉じていくようなやり方ですね。

ですがGoodpatchに依頼される仕事というのはそもそもクライアントが自分では作れないものや、想像できないものを作らなくてはならない。ですから、クライアント自身は答えを持っていないという前提で進んでいかなければならないんです。「こういう風にしたらいかがですか」「他の業種ではこういうアプローチがあるみたいです」「これとこれを組み合わせたらどうでしょう」と、可能性をどんどん開いていくような仕事の仕方でやっていかないと、クライアントの期待値を絶対に越えられない。このマインドでデザインができるメンバーをどれだけ増やせるかが、Anywhereにとって非常に重要なポイントになります。

そもそも、「正解なんて誰にもわからないよね」ということをまず認識することが大切なのです。何が正解か誰も分からない状態だからこそ、とにかく材料を集め、全員の英知を結集してプロジェクトを前に進めていかなければなりません。誰か偉い人の「決断力」だけに頼っているやり方は楽かもしれないですが、理性的とは言えないのです。

ですから、成功するためには、なるべく早く頭の中にある誰にも見えないイメージをデザイナーの力で具現化し、メンバーやユーザーにぶつけられるようにして、そのフィードバックから学んでいこうというスタンスを持てるかどうかにかかってきます。学習速度を上げていくことはAnywhereのプロジェクトの基本姿勢としています。そのためにAnywhereではチームでデザインに取り組んでいるのです。

失敗するかもしれないのは当たり前で、そこから何を学ぶかということが大事なんです。「ここまでやったら大丈夫」というのが分からないことはとても怖いことですよね。終着点が見えないですから、多くの人が不安になると思います。でも、新しいものを作るのってそういうことなんです。

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デザインの力で領域を越境していく

今はAnywhereを語る時に、「フルリモートの」という枕詞がきてしまいますが、リモートワークが今よりももっと当たり前の社会になった時に、僕らが何と自分たちを形容するのかということも考えます。

やはり目指すのは、本質的に意味のあるものづくりやイノベーションができる環境として認知されることです。これまでGoodpatchやAnywhereがやってきたことは、ユーザーインターフェースやユーザーエクスペリエンスという領域です。最終的に人間が使うものになるので、その体験を考えることや、人間とサービスのインターフェースをデザインしていくという作業は、おそらく全ての領域をつなぐものになれるのではないかと考えています。

一般の制作会社がフルタイム雇用できない領域のメンバーを増やしていくことで、ハードウェア、バイオテクノロジー、セキュリティー、コンサルティングというような様々な領域を繋げて実際のプロダクトに落としていくことができる、非常に拡張性の高いポテンシャルを持っているのがAnywhereだと言えるでしょう。

これまではそういうポジションはほとんどコンサルティング会社だけだったのだと思います。彼らはビジネスやお金という観点からいろいろな世界を繋げてバリューを出してきました。ですが最近はコンサルティング領域ですら、「ものづくり」という視点に立って、あらゆる領域を繋ぐ存在が求められてきています。

ですから、多領域を繋ぐ実効性のあるポジションとしてAnywhereは存在できる可能性があると思っているんです。次世代のコンサルティング領域と言えるでしょうか。UXと掛け合わされる様々な能力を持った人がAnywhereにはたくさん存在していて、その人たちがそれぞれ自分の仕事とAnywhereの両軸で多様な経験を積むことが理想です。

そして、昨今の大きな潮流である、DX(デジタルトランスフォーメーション)と言われる市場で言われていることはほとんど「デザイン」に通じています。「ソフトウェアを正しく作ってブラックボックスをなくすこと」「技術的に作れるから作るのではなく、ちゃんとユーザーに使ってもらえるものを作ること」「短期目線ではなく顧客と長期的な関係を築くこと」など、これは本来デザインの文脈で語られるべきテーマだと考えています。

内閣府のDXレポートで語られている成功シナリオを実現させるのは、様々な領域に越境していったGoodpatch Anywhereなのだと言いたいですね。


リモートワークを取り入れるメリットや組織として学ぶことが重要な理由、不確実性(VUCA)の時代における労使関係など、組織が生き残るために必要なことを語ったインタビュー後編もぜひご覧ください!

Anywhereではお仕事のご相談を常時受け付けております。
緊急事態宣言による外出禁止の影響などで、プロジェクトの開始・進行ができずお困りであればGoodpatch Anywhere でご支援が可能です。


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