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「ダイバーシティ&インクルージョンをメディア視点で考える」を開催しました #超福祉展 #多様性とメディア

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9/6(金)にシンポジウム「ダイバーシティ&インクルージョンを、メディア視点で考える」を、渋谷ヒカリエで開かれた「2020年、渋谷。超福祉の日常を体験しよう展(超福祉展)」にて開催しました。

※超福祉展:障害者・高齢者・LGBTなどのマイノリティに対する「意識のバリア」を超える、従来の福祉の枠に収まらない「超福祉」なモノ・ヒト・コトが一同に集う展示会・シンポジウム。第6回に当たる2019年は9/3(火)〜9/9(月)に開催された。

ゲストはNPO法人soar代表の工藤瑞穂さん、メディア「PALETTALK」編集長の合田文さん。ダイバーシティメディア「PINGUINC.」編集長の佐藤がモデレーターを務め、インターネットを通じて社会的マイノリティや多様性について情報発信する3人が、今注目する課題について、自身の経験を交えて語りました。今回は、その様子をお届けします!

3つのメディア「soar」「PALETTALK」「PINGUINC.」の紹介

前半では、登壇者が取り組むメディアと活動について紹介しました。

■ 「困難を抱える人」と「サポートする活動」を結びつける「soar」

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工藤瑞穂(NPO法人soar代表/soar編集長)…日本赤十字社での勤務を経て、社会的マイノリティの可能性を広げる活動を伝えるメディア「soar」をオープン。 

工藤さんが編集長を務める「人の持つ可能性が広がる瞬間を捉えるメディア」をコンセプトに掲げる「soar(ソアー)」。様々な「困難」を幅広く取り上げ、人の可能性を広げネガティブをポジティブに変えている事例を記事として紹介しています。

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「身内が統合失調症になり、知識があれば救えたのではないかと後悔した経験がある」と語る工藤さん。そこで「困難を抱える人」と「サポートする活動」を情報で結びつける役割として、いつ誰がどこにいても無料でアクセスできるウェブメディアを始めました。

記事へのアクセスで最も多いのはGoogleやYahoo!などの検索流入。特に希少な障害や難病、「会食恐怖症」などのあまり知られていない障害や病名へのアクセスが多いといいます。

症例が少なく社会での認知が低い症状は、検索しても医療情報しかないことが多いそう。しかし、当事者は「自分と同じ症状で、今生きている人の姿が見たいと思う」と工藤さん。だからこそ、soarでは「課題や困難だけでなく、解決策や“希望”を伝えたい」と話します。

工藤さん:生まれ育った環境や自身が抱える困難によらず、誰もが可能性を活かして生きる未来をつくる。soarは同じ願いを持つ人々が集まって、次々にポジティブな行動を起こしていくプラットフォームになれたら、という想いを込めています。

■ 囚われている「普通」に気づくきっかけを作る「PALETTALK」

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合田文(メディア「PALETTALK編集長)…メディア「Palette」を立ち上げ、「『こうあるべき』を、超えていく」をテーマに性の多様性やフェミニズムに関する発信や登壇を行う。9/5、「Palette」を「PALETTALK」にリニューアル。

合田さんが運営する「PALETTALK(パレットーク)」は、「『こうあるべき』を、超えていく。」をテーマに、多様性についての漫画をTwitterで発信するメディア。イベント前日の9/5に、これまでの「Palette」から、読者との対話をより大切にしていこうと「PALETTALK」にリニューアルしました。

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当初はLGBTなどセクシュアリティの課題を中心に発信していましたが、運営チームで話しているうちに、発達障害やオタクへの偏見など、ほかの分野でも共通の課題が見えてきたそう。それは、「偏見や差別は、世間の『こうあるべき」に縛られているせいで生まれる」という点でした。

まだ自分の中の「普通」に気づいていない人へ「その考えは違うかもしれないよ」というメッセージを、手を止めてながめやすい漫画で“柔らかく”発信。独自のサイトではなくTwitterを使う狙いは、多様性に関する情報に自らはアクセスしない人のタイムラインにも受動的に投稿が届けることです。

合田さん: 「PALETTALK」では、まだ気づいていない人たちが自分たちの思いこみに気づくきっかけとなるボールを投げています。誰かの悩みが「自分ごとじゃなかった」という人を減らしたいと思っています。

■ ビジネスでの取り組みグッドケースや海外事例を伝える『PINGUINC.』

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佐藤古都(ゼネラルパートナーズ ブランディング統括局局長)…2017年に株式会社ゼネラルパートナーズ入社。広報を中心にゼネラルパートナーズのブランド戦略を担当。ダイバーシティメディア「PINGUINC.」編集長。

障害者専門の人材紹介事業に取り組むゼネラルパートナーズが、企業に障害者雇用を含むダイバーシティの重要性を伝えようと2018年に立ち上げたメディア「PINGUINC.」。佐藤が編集長を務め、「ダイバーシティーをビジネス視点で考える」をコンセプトに、企業のインタビューや海外事例を発信しています。

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ダイバーシティを企業の視点で考える上で、佐藤は「ダイバーシティの推進は、『弱者を雇用してあげること』ではない」と話します。ダイバーシティは今後の労働力の確保やイノベーションの促進に欠かせず、また投資家も企業の社会的取り組みを見て投資先を決めるようになってきているため、資金調達でも重要なポイントだと説明しました。

働く人の視点でも「障害者が働きやすい環境は、障害の有無に関わらず誰にとっても働きやすい環境になる」と佐藤。ゼネラルパートナーズが導入している時短勤務やフレックスタイム制を例に挙げて語りました。

佐藤:時間にとらわれない雇用形態は、障害のある方が通院しやすいだけでなく、子育てや介護をしている人にとっても便利ですよね。私自身、子育て中の身として30分の時短勤務を活用しており、子どもの送り迎えなどで助かっています。障害者雇用における好事例って、ほかの人にとっても共通して働きやすくなっているんです。

3人が考える「多様性とメディア」

後半では、メディアとダイバーシティについて気になるテーマかをいくつかピックアップしたトークセッション。

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■ 発信し続けるために。一人でも、まずは1年くらいやってみる

最初のテーマは「どうしたら、発信を続けていけるか」。工藤さんと合田さんは、立ち上げ当初の体験から「まずは、やってみる」ことが大切だと話します。

スタート時のsoarでは、取材・撮影・執筆すべてを工藤さんが一人で行なっていたそう。その間に「soarはこういうものだ」と自分の中で確認しながら記事として形にしていくことで、soarのスタイルが確立されたといいます。それにより、後から参画する人がsoarの世界観を理解した状態で入って来やすいのも、継続できているポイントです。

また、当初の一人の状態でも「続けよう」と思えたのは、人のつながりがあったからと語ります。

工藤さん:メディアを始めるときに、多くの方に話を聞きに行きました。悩みを打ち明けてくれた人もいて。メディア自体の立ち上げや運用は一人で孤独でも、「この人を裏切れない」と思い出せる顔が何人もできたんです。

一方、漫画を描ける知人と「PALET TALK」をスタートした合田さん。「絶対いい内容だから、この発信でバズりたい」と、拡散されやすい投稿を考えたそう。文章やイラスト1枚の投稿などいろいろ試した結果、ビジュアルで目に入る漫画が広がりやすいと実感。投稿への手応えが、続けるモチベーションになったと話します。

合田さん:柔らかい漫画の投稿に、文章よりも「あ、読んでもらえたぞ!」という手応えがあったんです。1年くらい続けて「この感覚は、間違いじゃなさそう」と感じたので、まずは小さくやってみるといいのかなと思います。

■ 過激な発信は注意「誰かを傷つける多様性は、多様性ではない」

続いて「最近のSNSについて」のテーマでは、「いき過ぎた強い言葉が拡散されやすい」と感じているという佐藤。SNS上の発信や議論が、社会の分断を広げている危機感を抱いているといいます。

佐藤の懸念に同意し、問題はSNSを使う人のリテラシーだと合田さん。「誰かを傷つける多様性は、多様性ではない」と強調しました。

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合田さん:誰かを偏見や差別によって傷つけることは、多様性の一つとは言わないと思っています。「多様性」とは、違いを活かし合うためにある言葉です。だから、誰かを傷つける言葉は、受け取らない方がいい。

リテラシーという観点で、工藤さんはsoarの取材を受ける人にも「インターネットとは、否定的な反応が送られてくることもある場だ」としっかり伝えておくべきだったと感じたことがあるといいます。

工藤さん:どんなに気をつけても「病気でも前向きに生きているっていうけど、あなたには家族がいるからでしょ?」などネガティブな反応があることも0ではありません。みなさん良かれと思って話してくださっているし、ご自身の経験を初めて書いてくださる方もいます。だからこそ、メディアに出てくださる方が傷つかないようにするのが最優先。「事前にインターネットで発信することがどういうことかを伝えるのも、その一つです。

「メディアに出る人を傷つけない」ために記事のタイトルにも注意し、PVのために過激なタイトルを付けるようなことはしないそう。

工藤さん:soarは長い目で見て「数年後もこの記事を必要として見つけてくれる人がいれば」という思いでやっています。 SNSのバズを狙うと目立つタイトルにしようとなりがちですが、バズにはこだわりすぎずにやってきました。

■ 耕す担当の「PALETTALK」と、深める担当の「soar」

検索によるアクセスを重視するsoarと、拡散を狙いSNSで漫画の投稿する「PALETTALK」。そのスタンスの違いを、合田さんは「役割分担」と話しました。

合田:「PALETTALK」は「そういうのがあるらしい」という気づきのきっかけとして、多様性に関心を持つ人を「耕す」担当かなと思っています。その気づきから「もっと詳しく知りたい」と思うようになり、soarのような記事を読む。その、入り口です。

「障害」や「弱さ」、社内への発信はどうしたらいい? 参加者からの質問

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最後は、質疑応答です。

■ 企業では、ダイバーシティの重要性に対する経営者の理解が要

質問:特定子会社で人事をしています。社内広報誌などで発信しても、親会社で働く人は自分たちの子会社で障害者が多く働いていることを知らず、どこか他人事で意識に乖離があるように感じます。どのような発信をすれば、巻き込んで行けるでしょうか?

※特例子会社:障害者雇用に特化した子会社。親会社はその子会社に雇用されている従業員を親会社に雇用されているものとみなして、特定子会社の障害者数を計算に入れて法定雇用率を報告できる。

周囲を巻き込み方に悩む質問に、工藤さんは「友達になる以外ない気がする」と回答。soarの記事では、ライターに「私の友達を紹介します」という気持ちで書いてほしいとお願いしているそう。また、soarのイベントでは自己紹介タイムに「好きなものの話」をしています。

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工藤さん:「障害を知ってもらう」から視点をずらして場を作ってみるといいのではと思います。好きなものや共通の体験でつながれば、知識を与えられるよりも友達のこととして関心を持ってもらえるのではないでしょうか。

一方、合田さんは「企業」という組織のあり方に着目し、経営者の理解が重要だと回答。経営者のダイバーシティへの意識あって初めて、工藤さんが挙げたような交流が活きてくるといいます。

合田さん:会社って、一つのビジョンに向けて一緒に頑張る組織。採用には時間もお金もかかる中で、今一緒に働いている人たちは絶対に大切にしないといけないと、私は思っています。その人たちが自分らしさや生きやすさを大切にせずに働いている状態は、いつか辞めるかダメになるかが見えている状況です。経営者が、みんなが活き活きと働ける環境の重要性と、そのための仕組みづくりに時間をかけることが将来的に会社のためになることを理解しているかが、大きな分かれ道だと思います。

■ 「弱さ」を共有する文化を作る

質問:あまり知られていない障害や病気、あるいは病気ではないけれど職場での活動に影響するような困りごとを、周囲はどのように調べて知ればいいでしょうか?

工藤さんは「意外な症状や困りごとは調べるといろいろあるものの、そのすべてを知るのは難しい」と前置きしつつ、soarではスタッフ全員の「私の取説・弱さの共有シート」を導入していると紹介。

工藤さん:「病気ではないけれど、これを気遣ってもらえたらよりよく働けるかもしれない」という一人ひとりのリクエストを一覧にしています。一人ひとり困りごとは本当に様々なので、少しずつ共有していく文化を作るしかないかなと思っています。

この取り組みには合田さんも佐藤も「参考にして取り組みたい」と共感。「全員が違い、それぞれに弱いところがあるからこそ、安心感のある職場をどう作っていくかは今後の課題」との意見が出ました。

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たっぷりと語った1時間半。メディアのみならず、一人ひとりの個人が発信するときに大切にしたいことも考える時間となりました。ご来場いただいたみなさま、ありがとうございました!

当日のシンポジウムの様子は、YouTubeでアーカイブ動画も配信しています。


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