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シン世界を写真と言葉で旅する「一者への旅」


「一者への旅」

残月の朝、夜明け前に目が覚める



目覚めると同時に、僕は旅に出る決心をしていた



残月に誘われるようにして



そう、日の出に残る満月が僕を連れ出した



以前からの探し物を、今日探す旅に出なさいと



地下鉄の始発を目指す



何処へ向うかを考えながら



何処へ行こうか



何処へ



始発が来る前に海へと心が定まる



電車を乗り換えて



乗り換えて



乗り換えて、フェリーの波止場を目指す



バスに乗り換えて、波止場へ向かう



初めての場所、見知らぬ人々、緊張する



湾を西から東に渡る古びた中型フェリーに乗船する



空いた船内で席に座る、さっそく孤独が襲ってくる



何者かに導かれてここまで来た



それが「あなた」、「一者」か



そう僕の以前からの探し物は「あなた」、「一者」だ



すべては偶然を超えている



もしくは、何者かの非常に複雑な計らいの上にある



その何者かが、「あなた」、「一者」か



目の前にいる人々



この船



周りに見える山、海、街並み、すべては偶然を超えて、そこにあるのか



恐ろしいほどの時間をかけて、すべては訳あって僕の目の前に登場しているのか



世界は、人は、ものは、すべてつながりがあり、一つであると「あなた」は言う



そのことをどうやれば僕たちは理解できるのでしょうか



一時間弱で対岸の港に着く



その頃には今日の最終の目的地も定まった



半島の東端の丘の上にある展望台を目指すと



港の最寄り駅からJRを三回乗り換えて向かう



乗り換えて



孤独と自分を見つめながら



自分の外観、肉体的特徴、性質、能力



父や母、家族、何年も付き合い続けている友人



何年も一緒に働き続けている同じ職場の人々



自分の目の前で起こり続ける出来事、喜び、苦しみ、悲しみ



もしくは、自分の内面に沸き上がり続ける、喜び、苦しみ、悲しみ



すべては「あなた」が遥か昔に僕に仕組んだことでしょうか



さらに乗り換えて



最後の乗り換え駅



最後に私鉄の単線電車に乗り換えて展望台へ向かう



僕たちは「あなた」に合わせてつくられた影である、と「あなた」は言う



僕たちの存在は「あなた」をモデルにし、僕たちのすべての可能性は究極的に「あなた」に依存している



そのことをどうやれば僕たちは理解できるのでしょうか



使い古された一両編成の電車で展望台へ向かう



「あなた」は、時代と文化により、様々な名前で呼ばれて来たのですね



唯一、自己によって存在する存在のこと、唯一者と理解すればよろしいのでしょうか



車掌を待つ運転席、展望台は八つ目の駅で降りる



世界を作り、すべてのものがどの瞬間にでも、そのすべてのものそれ自身であらしめるもの



それが「一者」、「あなた」だと。このこともどうすれば僕たちは理解できるのでしょうか



人体の形は、すべての働きの基礎的連携、結合を象徴して表している



そのように「あなた」がつくられたのですね



途中駅



八つ目の駅に到着し、下車する



徒歩で展望台へ向かう



他の存在はみな、その本質も「あなた」に依存し、その存在も「あなた」によって存在し続けることができる



この「あなた」との結びつきがなければ、人間は一瞬たりとも存在しえない



そのことをどうやれば僕たちが理解できるのでしょうか



山道を行く



なだらかな坂を登り続ける



展望台へ最後の階段



360℃ほぼ海



水平線の向こうが見えないのが不思議だ



水平線を見つめ続けていると、両端が弧を描き始め、地球が球体であることを伝えてくる



目に見える世界はすべて「あなた」なんですね



僕たちすべての人間ひとり一人も、すべて「あなた」の一部を表わしているだけなんですね



すべての他界は人間であるという深みの中に存在している



僕たちはすべての意味でそこにあるすべてに参加し、そこから生まれ出てきている



これらのことを僕たちはどう理解すればいいのでしょう



海も丘も雲も静かに安定している



まるで水平線の向こうに「あなた」がいて、地球を静かに支えているようだ



展望台を離れ、丘を降りる



丘から見えていた半島の先端の港町を訪ねることにする



坂を下ると港だ



すべての世界は私たちの中に現れている



すべての世界はみな「あなた」の様々な側面である



どうかそのことを僕たちに理解できるように教えて下さい



しばらくして、今度は帰途に就くために坂を登る



坂を登りきると終点駅が見えるはずだ



人間はなぜこの世に存在するのですか



それは人間が本当の幸いの地の住人になりうるものだからですか



地上における人間の生は、本当の幸いの地の住人になる為の育成の場だと仰る



そのことを本当にどう理解すればいいのでしょう



終点駅に着く



この世はなぜあるのですか



本当の幸いの地の住人になりうる人間の生の場としてですか



「あなた」は本当の幸いの地を創るために全宇宙を創造されたという



地上はそのための一つの場所に過ぎないのですか



そんな壮大な話をどうやれば僕たちは理解できるのでしょうか



僕たちの孤独な魂は、この地上で何度も生まれ変わりながら何処を目指しているのですか



あなたが創られた本当の幸いの地だけを、ですか



どうかそのことをよくよくお教えください



乗り込んだ折り返しの電車は静かに駅を去った





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