エースとタマゴ(短編小説)
仕事が思うようにいかず難航しているときに俺は、玉子の甘いオムライスを食べたくなる。
「君は、なんというか。オムライスみたいだね」
小4の頃の友達に言われた何気ない比喩が思い出される。
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「どういうこと?」
それを言われたのは、僕らは2人でお弁当を食べていたときだ。
少年野球チームに所属していた僕とその友達ヒロアキは、土曜日の練習試合のお昼休憩の時間に、互いにユニフォーム姿だった。
ヒロアキは僕の持つ、お母さんが持たせてくれたオムライスと僕自身を見比べるようにしながら言ったひとこと。
「なんかさ、オムライスって特別な感じするじゃんか」
「俺はそんなすげくないよ」
謙遜ではなく、正直な分析だった。
ヒロアキみたくピッチャーでチームのエースを担える気量はなく、チームを引っ張るような統率力もない。
ただの外野手だ。
でも外野手には外野手なりの魅力もプライドもあって、僕はチームで1番上手にフライを取れるセンターだと自負していた。
それはそれで僕は誇りを持っていた。
「あーちょっと違うか」
「なんだよそれ」
僕は、バカにしやがって。と笑ったが、彼の顔は真剣だった。
「オムライスじゃなくて、オムライスの上の玉子だね」
「もっとわかんなくなったけど」
「だからさ、オムライスって人気の食べものでしょ。でも、チキンライス玉子乗せ。って言われると全然カッコよくないじゃん」
ヒロアキの至極当たり前な発言に、僕は曖昧に頷いた。
「だからさ、オムライスって中のチキンライスの方が量は多くてメインだけど、玉子なくなるともうオムライスじゃないじゃんか」
なんとなくヒロアキの言いたいことがわかってきて、少し気恥ずかしくなった。
「俺たちのチームをオムライスとするとさ、お前は玉子なんだよ。主役じゃないけど、なくてはならない存在ってか」
「エースにそんなこと言われるのはハズイわ」
「俺も後ろに玉子のお前がいるから安心なんだって! 俺はチームのエースで、お前はチームのタマゴだ!」
「その肩書きはダサいわー」
その時食べていたオムライスは、妙に玉子の味が甘かった気がした。
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つい最近独立したての、新米インテリアコーディネーターの俺は
エースの言葉に今でも励まされている。