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石橋効果(短編小説)

[木/石橋/南京錠]



前々から嫌だと言っていて今日も全く乗り気になっていない私を、こうまでして無理やり連れ出すのにはなにかしらの理由があるはずだと、この状況で誰しもが思うだろう。
大学のキャンパスから40分ほど車を走らせたところにある廃病院。多分私の通う大学の学生のほとんが一度は来たことがあるほどの有名な心霊スポットだ。

ただ私は小さい頃からオバケの類が大の苦手で、学園祭の教室に入って出てくるだけのチープなお化け屋敷にも入ったことがない。

しかし夏休み中の大学生たちにとって肝試しとは欠かせないイベントで、これまで断固として拒否してきた私もとうとう今日、このおどろおどろしい廃病院の前に立っている。あたりには背の高い木々がそうそうと靡いていて、肝試しのために造られた空間なのではないかと思った。

お昼ご飯だったり、レポートの作成だったりをいつも一緒にしている仲のいい男女6人、私を抜いた他の5人、無理やりに連れてきたこの人たちを私は嫌いになりそうだ。

敷地内に全員が足を踏み入れた時、いつもこういったイベントを提案したり、車を出したりしてくれている中心的な男の子が言った。

「せっかくなんだし何組かに分けていこうや」

私以外はそれに全員が賛同、結局私は一人の男の子とペアを組まされた。
そこで私の疑惑は、ほぼ確信へと変わった。

「吊り橋効果」は多分誰もが知っている心理現象で、恋愛テクニックなんだろう。
ペアになった男の子は最近よく私と二人になりたがることが多かった。だから私もうっすらその子の好意は感じていたのだ。なかなか手応えがない私のことを、多分彼は他のメンバーに相談したんだろう。そしてこの肝試しで二人の距離を縮めようなどという魂胆なはずだ。

ただ、答えはノー。他に好きな人がいるから。

なんだかペアの子やみんなの目論見が白々しく思えてスウッと緊張感がなくなった。
男の子が私のその心境に気づいていないことが可哀想だった。私たちがこれから渡るのは安全な石橋でしかない。

二人で扉の前まで行くと、扉の左右の取手はチェーンでぐるぐると巻きつけられ、真ん中には南京錠がかけられていた。
このペアの子に対する私の気持ちと似てるなと感じた。

廃病院には窓から侵入し、最上階まで行った後、同じ道順で戻ってきた。
私はみんなの目論見を知ってから、この廃病院自体が白々しいものに思えて、ありがたいことに全く恐怖がなくなっていた。

ペアの男の子はというと芯から震えきっていて、男らしいことろを見せる以前の問題だった。
ずっと私の後ろで、肩をビクつかせながらついてくるだけだったのだから。

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