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群馬県DX推進監・岡田亜衣子 氏に聞く!県庁DXの成功の鍵とは

一般社団法人Govtech協会は、行政のDXを推進するため、自治体や民間事業者の成功事例を広く紹介し、デジタル社会の実現をサポートしています。

群馬県では、2021年3月に「群馬県庁DXアクションプラン ~日本最先端デジタル県へ~」や「ぐんまDX加速化プログラム」を策定し、知事をトップとする「DX推進本部」が中心となって、2023年までの具体的な目標を設定しました。その結果、「ぐんまDX加速化プログラム」では目標の92%が達成され、外部からも高く評価される成果をあげています。

今回のインタビューでは、2021年にDX推進監として就任し、行政DXの取り組みを統括してきた岡田亜衣子様と、DX課企画チームリーダーの黒澤妙子様に、成功の鍵となったポイントについてお話を伺いました。

(取材日:2024年9月11日)
(聞き手・文責:一般社団法人Govtech協会事務局)


- Profile - 

岡田 亜衣子(おかだ あいこ)氏 / 群馬県デジタルトランスフォーメーション推進監
東京外国語大学卒。芝浦工業大学専門職大学院修了。
NTT、インテルジャパンなどを経て、2020年1月群馬県CDOに就任。2021年4月より現職。

黒澤 妙子(くろさわ たえこ)氏 / 群馬県DX課企画チームリーダー
民間企業勤務後、2016年に群馬県庁入庁。業務プロセス改革課で行財政改革を担当した後、2024年4月より現職。

コロナ禍での山本知事のリーダーシップが県庁の文化を変えた

- まず初めに群馬県のこれまでのDXの取り組みについて教えてください。

岡田さん:
群馬県では「日本最先端クラスのデジタル県」を目指して「ぐんまDX加速化プログラム」を策定し、DX推進体制を整備して進めてきました。計画終了時点の2023年度末には92%の事業において目標を達成したほか、「ぐんまワクチン手帳」や「ぐんま大雨時デジタル避難訓練」といった群馬モデルの創出や、日本DX大賞2部門受賞などの外部評価もいただくことができました。

-  行政DXの必要性は以前から指摘されています。群馬県がこれまで行政DXを推進できていなかった要因はどこにあると考えていましたか?

岡田さん:
群馬県が他の自治体と比べて、特に遅れていたわけではないと思います。実際、当時ほとんどの自治体でDXは進んでいませんでした。ただ山本一太群馬県知事がよく指摘するように、群馬県の「中庸をよしとする」文化が影響していた可能性はあります。
新たなことに挑戦する組織風土が弱いため、DXに限らず、様々な政策分野で職員が挑戦しづらい環境であったと感じています。

黒澤さんは民間企業でも働かれていた経験からどう感じていますか?

黒澤さん(DX課):
行政職員として働き始めて、変化に慎重な雰囲気を感じました。公務員は法律や条例に基づき、業務を遂行することが基本であり、新たな領域や業務にチャレンジすることよりも、決まった業務を安定して遂行していくことが評価されがちです。
そのため群馬県のみならず全国の自治体において、新しいことにチャレンジするマインドを持つには難しい土壌があると考えています。

 - 目標の92%を達成するなど、群馬県のDXは大きく前進しています。しかし、同じようにプログラムを策定しても、同じようにDX課を設置しても、必ずしも達成できるわけではないと思います。行政DXの推進におけるセンターピンは何でしょうか?

岡田さん:
2020年4月にDX課と業務プロセス改革課が立ち上がった時、私は群馬県に来てまだ3ヶ月でした。新しい言葉が流行ると、すぐにその名を冠した組織が作られるのは行政や民間でもよくあることです。そのため、当初は、組織を立ち上げただけで本当に改革が進むのか、正直なところ懐疑的でした。しかし、同じ志を持った仲間ができたことは、大きな心の支えとなりました。

2020年に流行した新型コロナウイルス感染症も大きな転機となりました。従来の仕事のやり方では、この困難な状況を乗り越えられないという危機感が生まれ、職員一人ひとりが慣例にとらわれず、どうすれば目の前の課題を解決できるか考え始めたと思います。

ちょうどこのタイミングで新しいコミュニケーションツールを導入し、IT環境を刷新できたことも功を奏しました。適切なタイミングで必要な投資ができたことで、その後の職員の仕事のやり方は大きく様変わりしました。

また、山本知事のリーダーシップも大きな要因でした。
知事はデジタルの専門家ではありませんが、デジタル技術を活用するという大きな方向性を明確に示し続けてくれました。「何かあれば自分が責任を取るから、自由にやってほしい」と現場に信頼をおいて任せてくれたことは非常に心強かったです。

DX関連の予算確保に加えて、毎週開催される知事と幹部職員が参加する庁議で、いち早くオンライン会議を導入するなど、率先してDXを後押ししていただきました。他にも、知事に電子決裁のメリットを説明すると、「わかった、原則電子決裁にしよう」とすぐに決断され、その一言で県庁内の機運が高まったこともありましたね。こうした一つ一つの積み重ねで、県庁の文化は着実に変わっていったと思います。

抱えている課題とその優先順位は自治体ごとに異なる

- 行政DXの推進における民間事業者との連携はどのように捉えられているのでしょうか?

岡田さん:
行政DXを進める上で民間の力は欠かせません。実際、私たちの日々の業務は民間事業者から提供されるツールに支えられています。ただ、それらのツールをすべての自治体に画一的に導入すれば万事解決するかと言えば、そう簡単ではありません。たしかに、地方自治体は似たような業務をしていますが、それぞれが抱える課題や優先順位は異なります。この点が十分に理解されないため、自治体との間で課題認識の共有がなされず、官民連携がスムーズに進まないケースも少なくありません。

また、自治体の規模によって直面する課題は異なります。特に住民向けサービスにおいて行政DXの推進が急務とされるのは、政令指定都市などの人口規模の大きな自治体が中心になるかと思います。一方で、人口規模の小さい町村では情報政策担当が一人しかいない、あるいは少人数であるがゆえの困難を抱えています。

DX推進の土壌を県庁全体で作る

 - 群馬県庁にはICT(情報通信技術)を専門とする職員が8名もいると知り、驚きました。ICT人材の確保が難しい中、群馬県ではどのような工夫をされたのでしょうか?

岡田さん:
ICT職の採用を始めてから4年で8名が加わってくれました。特別な工夫をしたわけではありません。東京に近い群馬県にUターンを希望する方々との縁に恵まれた部分が大きく、ありがたく思っています。強いて工夫した点を挙げるなら、デジタル庁を参考に、職員とのオンライン座談会を開催したり、入庁時期を柔軟に調整し、採用通知から最短で2ヶ月後に入庁できる制度を導入したことでしょうか。採用活動では職員が自ら特設サイトを作り、インタビュー記事を掲載するなどの工夫を自主的に実施してくれました。

また、ICT職以外にもデジタルツールに強い職員が増えてきました。全庁的にDX推進の基盤が整ってきています。

 - 職員が自ら特設サイトを作るとは驚きです。岡田さんは組織文化を育てる上で、どのようなことを意識しましたか?

岡田さん:
まずは、職員一人ひとりの懐に飛び込んでいくことを心がけました。行政の世界での経験がなかったため、自分から積極的に関わり、わからないことがあれば素直に質問して教えてもらうようにしました。

黒澤さん(DX課):
ある部署が忙しいことを知ると、すぐにコミュニケーションを取りに行く岡田さんの姿勢は非常に印象的でした。現場を見た上で対策を提案することを徹底されていたのだと思います。その姿勢が職員にも伝わり、ワンチームとしての一体感が生まれていったと感じます。

岡田さん:
現状をしっかり把握することを優先しました。外部の人間がいきなり自分のこれまでの経験から「こうすべきだ、ああすべきだ」と押しつけるだけでは、信頼は得られません。まずは現場の声を聞き、課題への解像度を上げることが重要だと考えています。

黒澤さん(DX課):
私たちもその姿勢を大切にしています。現場の意見を否定せず、共に新しいことに取り組む姿勢を持ち続けたことがよい方向に働いたのではないでしょうか。ICT職だけでなく、デジタルに少しでも興味を持った職員が率先してスキルを磨き、DXを推進することが日常業務の一部として根付いてきたと感じています。

職員がそのポテンシャルを最大限発揮する課題解決型組織へ

 - 最後にDX推進監としての岡田さんが成し遂げたいこと、群馬県庁としての今後の意気込みを教えてください。

岡田さん:
DXを通じた行政改革を一過性で終わらせたくはありません。デジタルツールを使うことは、目的ではなく、直面する課題を解決する手段の一つです。

これまでの改革によって、職員一人ひとりの優れた能力を十分に発揮できる環境が整ってきたと思います。今後は、彼ら・彼女らがそのポテンシャルを十分に発揮し、群馬県をさらに盛り上げてくれることを期待しています。


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