昨日、東京電力ホールディングスは、本年6月をもって川村隆会長が退任することを発表しました。
川村氏は、リーマンショック後、当時日本の製造業では最大の赤字を出し、経営危機に瀕していた日立製作所をV字回復させました。その実績を買われ、2017年6月に東電の社外取締役兼取締役会長に就任しています。
率直に申し上げて、東電での川村氏の経営者としての実績には、現時点では目立ったものがありません。3年間という短期間であったこともそうですが、何よりも非執行の取締役会長という立場上、仕方ない面もあります。
しかし、退任と同時に発表された以下のコメントを見る限り、この3年間の中で、川村氏が東電の取締役会をリードしてきたことによって、同社のコーポレートガバナンスの強化、更には企業としての中長期の戦略の方向付けや基盤づくりに大いに尽力されたのではと推察します。
取締役会の役割は、経営戦略の方向づけや経営執行陣の監督、指導、支援にあり、この3年間の経営執行陣との関係も、適度の緊張感を保ちながらも緻密な情報交流を保つという形で進めることができ、指名委員会等設置会社方式による当社の企業統治をほぼ固めることができたと考えています。
少し前の話ですが、2015年、早稲田大学で川村氏の講演を聞く機会がありました。当時次期経団連会長の就任が噂されていた川村氏ですが、その時点で、年齢を理由に固辞する意向であることを仄めかしていました。
しかし、その2年後東電の会長に就任します。福島第一原発の廃炉問題や巨額の賠償責任など、問題山積の同社に、功成り名を遂げた経営者が進んで関わる理由はないでしょう。実際どのような心境の変化があって同社の会長職を受けたのかはわかりません。名誉を求めるのであれば経団連会長の椅子の方がよほど楽で世間からの見え方も良いにもかかわらず、あえて火中の栗を拾ったところに川村氏が以前説いた「ラストマン」としての矜持(俺がやらなければ誰がやる)を感じます。
こうした経営者はなかなか存在しません。実際に、以下の記事にあるように、今回の川村氏の退任にあたって、日本政府は後任の会長職を何名かの有力な経営者に打診したようですが、調整がつかなかったようです。
東電・川村会長が退任へ、ラストマンが語った危機との向き合い方
東電会長については、実質的な筆頭株主の国が複数の企業トップらに就任を打診してきたものの、現時点で調整はついていないもようだ。後任は空席となる可能性がある。
東電会長を退任後、川村氏がどのような立場で活動されるかわかりませんが、「ラストマン」としての経営者の覚悟と経験を、世の中に残して頂きたいと思います。