政策サイクルの確立が議会の力を高め、住民福祉の向上に
―地方議会勉強会「『住民自治の根幹』としての議会-議会からの政策サイクルを学ぶ」を開催
2022年11月17日(木)
公益財団法人日本生産性本部は2022年11月17日、都内の全国町村議員会館で「地方議会成熟度評価モデル説明会」、地方議会勉強会「『住民自治の根幹』としての議会-議会からの政策サイクルを学ぶ」を開催した。勉強会では、政策サイクルの確立が議会の力を高め、住民福祉の向上につながっていることなどが強調された。
■計16の項目で、議会運営の状態(成熟度)を確認する基準
説明会では、日本生産性本部地方議会改革プロジェクトの田中優磨研究員が、地方議会改革プロジェクトの取り組みと地方議会の成熟度評価について説明した。
日本生産性本部では2016年から「地方議会における政策サイクルと評価モデル研究会」を開催(顧問=北川正恭・早稲田大学名誉教授、座長=江藤俊昭・大正大学教授、メンバーは有志の地方議員、議会事務局職員など)。一連の活動の成果物として「地方議会成熟度評価モデル」、「議会プロフィール」という二つのツールを公表した。これらは、行政経営品質の向上の考え方にも通じる「良い成果は良いプロセスから生まれる」という発想に基づいているのが特徴だ。
地方議会成熟度評価モデルは、マネジメントの五つの視点にひもづく計16の項目で、議会運営の状態(成熟度)を確認する基準だ。五つの視点は「戦略プラン」「政策サイクル」「条件整備」「信頼と責任」「ふり返りと学び」。田中研究員は、他議会から学ぶだけでなく、自議会の変化を確認することで、さらなる改善の原動力としての活用を呼び掛けた。
評価は「議会・議会事務局」を想定しているが、委員会や会派での実施も可能(参考として個人での実施も可能)。実施時期は期初(改選後)、中間(2年目)、期末(改選前)を推奨。成果と課題を明確化することで改選後の引継ぎに活用できる。
「認識」(目的や背景、前提とする考え方が全体で共有できているか)、「方法」(仕組みや制度の形で継続性を持った取り組みとなっているか)、「結果」(取り組みの成果といえるものが明らかになっているか)――という三つの要素に着目し、マネジメント(組織運営)の目線から議会運営の状態を確認。成果を生む「プロセス」に着目する点に特徴がある。各項目ごとに成熟度を合議で評定、最終的に全体の総合評定を算出する。
一方、「議会プロフィール」は、バックキャスティングの発想に立ち、将来の「理想的な姿」から逆算することで、これから取り組むべき改革課題を明確化するためのワークシートだ。同じ事実でも人によってとらえ方は様々。記入にあたっては対話による合意形成が求められる。
現在、福島県会津若松市議会の議会制度検討特別委員会、長野県飯田市議会などが成熟度評価に取り組んでいる。詳細は『地方議会成熟度評価モデルガイドブック』(2000円+税)を参照。
https://www.jpc-net.jp/consulting/mc/pi/local-government/parliament.html
■政策サイクルを回すことで市民福祉が上がっていく
地方議会勉強会「『住民自治の根幹』としての議会-議会からの政策サイクルを学ぶ」には会場・オンライン合わせて約60人の地方議員などが参加した。
まず、川上文浩・岐阜県可児市議が『「議会からの政策サイクル』を構築する~決算認定、予算審査を連動させて政策サイクルを回す」と題して講演。川上氏は、少数意見の尊重や決算を起点にすることを指摘し、「サイクルを回さないと議会は止まってしまう」と強調した。
その上で、可児市議会の「市民福祉向上のための4つの議会サイクル」の内容を紹介。
4つの議会サイクルとは①議会運営サイクル②予算決算審査サイクル③意見聴取・反映サイクル④若い世代との交流サイクル。①では議長マニフェストを掲げて課題に取り組み、議長職の交代前には引き継ぎ事項を確認することで次期議長は必然的に課題に取り組む体制(委員会も同様)。②は予算決算委員会における決算審査で全会一致の項目を政策提言・提案として市長に提出、その提言反映結果が議会に報告され、予算審査に臨むというもの。
③は議会報告会や地域課題懇談会、各種団体との懇談会での意見を集約し、議会では所管事務調査として検討し一般質問や政策提言に結び付け、その結果を次年度の議会報告会などでフィードバックする。この中から生まれたのが委員会代表質問。委員会全会一致の質問で執行部に問うもので、川上氏は「委員会代表質問は非常に重い。執行部はほぼ満額回答だ」とその効能を述べた。
④では、ふるさと発展に寄与する人材育成を目的に、議会として若い世代を重視した取り組み。高校生のキャリ教育支援や高校生議会、地域課題懇談会、模擬選挙などの取り組みを紹介した。最後に川上氏は「議決責任、説明責任を議会がどう果たすか。政策サイクルを回すことで市民福祉が上がっていく」と締めくくった。
■住民福祉向上で住民からも評価
続いて松崎新・福島県会津若松市議が「『議会からの政策サイクル』を構築するー議会からの政策サイクルはどのように組み立てればよいか」と題して講演。松崎氏は政策サイクルをつくる前に議会の現状把握、仲間づくりの重要性からひも解いて説明した。「一人でできることには限りがある」と仲間づくりでは、「より良い議会にしたい」からといって、これまでの議会活動を否定しないことをポイントとして指摘。否定すると「これまでの議員はダメだったというのか」と反発されるからだ。議員活動を変えるのではなく、「これまでの活動に工夫を加える、新たなものを加える」姿勢の重要性を、経験を踏まえてアドバイスした。
会津若松市では2008年6月に議会基本条例を制定。住民福祉向上へ向けた「政策サイクルの主要3ツール」として①市民との意見交換会(意見の聴取)②広報広聴委員会(意見の整理、問題発見、課題設定)③政策討論会(分科会、議会制度検討委員会)(問題分析、政策研究)――という制度を整えた。市民意見を起点に政策サイクルを構築したのが特徴だ。2022年8月から会津若松市議会は通年議会に移行。議会制度検討委員会は議会制度検討特別委員会とし市民委員は参考人として参加する体制に整えた。
湊地区の水問題や中山間地の公営住宅建設など議会の取り組みによって住民福祉を向上させたことで、住民や各種団体の議会を見る目が変わり、「議会はよくやった」という声も。こうした「良い評価は自信につながる」と松崎氏。議会制度検討特別委員会では現在、議会活動評価モデルに取り組んでおり、「議会プロフィール」の作成、政策提言及び決議等に係る調査、内部評価を行う予定だ。
松崎氏は「会津若松市議会は、政策サイクルで住民福祉向上に向け、挑戦します」と力強く語った。
■通年、そして通任期的な活動が必要
最後は、江藤俊昭・大正大学教授が登壇。「『議会からの政策サイクル』とは何か」をテーマに講演した。
江藤教授は、新型コロナの感染拡大によって「議会改革の到達点があぶりだされた」と指摘。右往左往した議会と、住民に寄り添った活動をしている議会に二分化される傾向がみられたという。
定例会ごとにプッツンプッツンと切られるのではなく通年、そして通任期的な活動の必要性を強調。議会改革の第2ステージでは、住民の福祉向上につなげることが求められ、それには議会からの政策サイクルを確立する重要性を説いた。
(文・写真/上席研究員・千葉茂明)
〇日本生産性本部・地方議会改革プロジェクト
https://www.jpc-net.jp/consulting/mc/pi/local-government/parliament.html