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「『地方議会からの政策サイクル』と成熟度評価モデル~その現在・過去・ミライ」をテーマに、「政策サイクル推進地方議会フォーラム」公開セミナーを開催――(公財)日本生産性本部

(公財)日本生産性本部は2024年5月25日、都内の全国町村会館内で「『地方議会からの政策サイクル』と成熟度評価モデル~その現在・過去・ミライ」をテーマに、「政策サイクル推進地方議会フォーラム」公開セミナー(報告会)を開催した。公開セミナーでは、地方議会成熟度評価モデルの実装化に取り組む3つの議会の議員が実践報告し、その成果や課題の共有化を図った。議会からの政策サイクルに伴走する議会(事務)局のあり方についても活発な議論が繰り広げられた。

「地方議会フォーラム」への積極的な参画を

冒頭、開会挨拶を行う日本生産性本部執行役の野沢清。

 同フォーラム(座長=江藤俊昭・大正大学教授)は2022年7月に発足。成熟度評価モデルの実装化とともに、地方議会における政策サイクルの構築と作動に向けた取組みを行っている。公開セミナーは活動の報告会を兼ねて開催されたもので、全国から地方議員を中心に約60人が参加した。
 冒頭、野沢清・日本生産性本部執行役が開会挨拶を行い、「政策サイクル推進地方議会フォーラム」への積極的な参画を呼びかけた。公開セミナーでは最初に、江藤俊昭・大正大学教授が「地方議会からの政策サイクル~その現在・過去・ミライ」をテーマに講演を行った。

議会として政策サイクルを回し、執行機関と政策競争を

「地方議会からの政策サイクル~その現在・過去・ミライ」をテーマに講演を行う江藤俊昭・大正大学教授。

 江藤氏は、「個々の議員の力も大事だが、議会として政策サイクルを回し、執行機関と政策競争することが大事」と指摘。議会からの政策サイクルは「広がりつつあるが(自治体議会の)過半数にはなっていない。さらに広めていこう」と呼びかけた。
 今後の縮小社会においては「住民、行政、議会の三者が総力戦で取り組む必要がある」と強調。目指すべき方向性として「フォーラムとしての議会」を示した。
 議会からの政策サイクルでは、住民福祉の向上につなげることが求められる。その充実に向けて、▽通年的に活動(通任期を意識)、▽討議空間を創り出す(質問重視から審議重視へ)、▽質疑後の討論の充実▽議選監査委員と議会との協働、▽議会事務局改革ーーなどを指摘。議会事務局(職員)は「(議会・議員の)最も身近な支援者」と話し、あり方を考える必要性を話した。

制度をつくり、動かす(会津若松市議会)

実践報告を行う福島県会津若松市議会の松崎新議員(議会運営委員会委員長)。

 実践報告では、地方議会成熟度評価モデルの実装化に取り組む3つの市議会の議員が登壇した。トップバッターは福島県会津若松市議会の松崎新議員(議会運営委員会委員長)
 会津若松市議会では、市民委員(2人)を加えた議会制度検討(特別)委員会で、成熟度評価モデルによる試行的評価を実施。内部評価の結果をもとに、学識経験者3人による外部評価ヒアリングを2023年4月に開催した。
 外部評価者からは「評価に至った具体的な事例や根拠の記述が乏しい」「議会の活動内容(アウトプット)だけでなく、それによりどう住民福祉が向上したか(アウトカム)という視点での記述が必要」などの指摘があった。
 改選をはさんで市議会では2023年10月に各常任委員会等から1人ずつ選出するかたちで「議会評価特別委員会」(髙梨浩委員長、松崎氏は副委員長、計6人で構成)を設置。政策サイクルを意識した評価制度の検討を進めており、まずは議会における評価の領域を「議会基本条例に基づく議会運営」(議会基本条例に規定した項目に基づく議会運営がどの程度実現しているか)と、「住民福祉の向上」(議会が地域経営に関わり、どのような成果を残したか=政策サイクルの視点から評価)の2つに整理。評価対象は、議会基本条例・議会の中だけでなく、政策評価や住民自治の領域についても意識し、視野に入れていくことが求められる、としている。
 議員の任期(4年間)を踏まえ、評価スパン(定例会議・1年・中間報告・最終報告)を整えることを検討。評価の実装に向けた今後の取組みでは▽議会モニターの設置及び活用、▽住民団体との連携強化、を挙げた。
 松崎氏は「議会基本条例に基づく議会運営と議会からの政策サイクル自体を評価する」「議会運営と政策サイクルを分けない、つないでいく」ことを指摘。最後に「制度がなければつくる。制度を動かす」ことを強調した。

「変革に向かう地図を持ちえた」のが成果(飯田市議会)

実践報告を行う長野県飯田市議会の井坪隆議員(議会運営委員会委員長、前議長)。

 続いて、長野県飯田市議会の井坪隆議員(議会運営委員会委員長、前議長)が登壇。同市議会の成熟度評価モデル実装化の取組みについて発表した。
 飯田市議会では議員を3つの班に分け、リーダー・サブリーダー会議、運営プロジェクトで議会プロフィールを作成。その上部組織の議会改革推進会議、全体会議で新ビジョンの策定に取り組んだ。
 独自にスローガンとして「くらし豊かな いいだの未来を 市民とともに~市民のしあわせに貢献する議会~」を設定した。ミッション(期待される役割)とビジョン(議会が実現すべき理想的な姿)はそれぞれ4項目ずつ。「市民の代表機関」「市民の意思」「市民参加」「市民との意見交換」「市民に身近な」など「市民」という言葉が多数含まれ、井坪氏は「『市民とともに』がキーワード」と話した。
 市議会では2012年に「議会改革運営ビジョン」を策定しており、2024年に、議会活動(改革)の実行目標やロードマップを示した新ビジョン「議会活動目標2028」(最終年2028年)を策定する予定。市民にいかに分かりやすく伝えるか工夫していくという。井坪氏は評価モデル実装化によって「変革に向かう地図を持ちえたのが大きな成果」と語った。

市民の前で「議会がこれから取り組んでいくこと」を宣言(いなべ市議会)

実践報告を行う三重県いなべ市議会の清水隆弘議員(前議会検証評価特別委員会委員長)。

 3番目は三重県いなべ市議会の清水隆弘議員(前議会検証評価特別委員会委員長)が登壇。ほぼ1年間にわたる評価モデルによる議会活動の検証評価の取組みについて発表した。
 いなべ市議会では2017年に議会基本条例を制定。条例に基づき、議会活動の検証評価に取り組んできた。改善を繰り返すことによる活動のブラッシュアップなど成果が出る一方、マンネリ傾向が見られ、検証評価の新たな手法を探していたときに地方議会成熟度評価モデルに出合ったという。
 市議会では2022年11月に特別委員会を設置(議長を除く全議員で構成、議長はオブザーバー参加)。以後、全体会(8回)、リーダー会議(13回)、グループワーク(5回)、市民との意見交換会(1回)を重ね、2023年11月5日には「市民と議会のフォーラム」を開催し、市民の前で「議会がこれから取り組んでいくこと」を宣言した。
 同月24日には特別委員会で「いなべ市議会行動計画」(2023年12月1日~2027年11月30日)を策定し、委員会を解散した。
 ミッションでは、▽執行機関を監視・評価▽市民意見・要求・要望の把握▽政策提案・提言▽市民への説明責任ーーの4項目、ビジョンでは▽市民の声を反映する議会▽合意形成ができる議会▽政策提案及び提言が実現できる議会ーーの3項目。「今期議会議員任期満了となる令和7年(2025年)には、このビジョンに近づき、議会基本条例制定10年を迎える令和9年(2027年)にはビジョン到達を目標に取り組みます」としている。
 市議会ではリーダー会議、グループ会議で「5つの視点、16の確認項目」について成熟度を評価、改善項目をまとめていったが「これが一番大変だった」と清水氏。16項目は重要度・緊急度の観点からマトリクス図に落とした。これによって「何から取り組むべきかが視覚化され、全議員で共有できたことは大きな成果」と清水氏は話した。
 行動計画で掲げた市民と議会の意見交換会「みんなの声カフェ」や議会モニター、議案に対する市民意見の募集などが既にスタート。市民参画や議会機能が強化され、市議会の政策サイクルは分厚いものになっている。「今、私たち議会は何をすべきか。未来のいなべのために」と清水氏は発表を締めくくった。

実直に継続、議長のリーダーシップ

「地方議会からの政策サイクルーミライへの展望」をテーマにしたパネルディスカッションの様子。左からパネリストの清水隆弘議員、松崎新議員、井坪隆議員、江藤俊昭教授。右端はコーディネーターの日本生産性本部上席研究員・千葉茂明。

 セミナーの後半は2つのパネルディスカッションを開催。最初は、「地方議会からの政策サイクルーミライへの展望」をテーマに、講演・実践報告の内容を深掘りする議論を行った。講演・実践報告を行った4氏(江藤教授、松崎議員、井坪議員、清水議員)がパネリストを務めた(コーディネーター:日本生産性本部上席研究員・千葉茂明)。
 議員間の合意形成のポイントについて松崎氏は「先輩(議員)を立てること。新人議員を育てること」と指摘。住民福祉の向上につながる活動によって市民の議会に対する関心が高まることを事例を交えて紹介し、「実直に継続すること。スピード感はなくてもいい」と話した。
 井坪氏は2022年3月(当時は議長)、評価モデルの導入にあたって、「チーム飯田市議会(議員の連合体と議会事務局)が地域経営に責任を持つ」「議会改革・運営ビジョンの課題解決のために『身体検査・自己評価』」などからなる「議長レポート」を発出し、全議員の積極的な参加と理解を求めた。これによって「全議員に協力してもらった」と、議長によるリーダーシップの重要性を指摘した。
 いなべ市議会では、次期総合計画の議案審議に向け、特別委員会を設置する予定。清水氏が「議会も積極的に関与したい」と話すと、江藤教授は「地域経営の軸である総合計画を(議会・議員は)常に意識することが大事」と指摘した。

議会(事務)局職員の「補佐の射程」の明確化を


「『地方議会からの政策サイクル』に伴走する議会(事務)局とは?」をテーマにしたパネルディスカッションの様子。左からパネリストの清水克士氏(前大津市議会局長)、井坪隆議員、江藤俊昭教授。右端はコーディネーターの日本生産性本上席研究員の千葉茂明。

 続いて、「『地方議会からの政策サイクル』に伴走する議会(事務)局とは?」をテーマにパネルディスカッション。江藤教授、井坪議員、清水克士氏(前大津市議会局長)がパネリストを務めた(コーディネーター:日本生産性本部上席研究員・千葉茂明)。
 政策サイクル推進地方議会フォーラムでは2023年7月に「議会(事務)局分科会」を設置。4回の会合を踏まえ、2024年4月には、「『議会からの政策サイクル』に伴走する議会(事務)局職員像の確立をーー議会(事務)局職員の『補佐の射程』」と題した提言書を公表した。
「具体的提言」は次の8項目。
議会事務局職員の「補佐の射程」の明確化を
議会・議員と議会事務局職員の関係は「支援」「協力」「参加」に――そのために議会事務局職員による議会運営や政策等に関する発言の場の確保、提案権を
議会事務局の名称を「議会局」に変更すべき、議会局の組織編成権を確立すべき
議会事務局の組織目標、組織使命(ミッション)の明確化を
任命権者と評価者は同一人物に――議会事務局長の人事上の最終評価者は議長にすべき
議会事務局職員の人事異動のルール化を
議会事務局職員の独自採用を
市町村も議会事務局の設置は必置とすべき、議会事務局の共同設置は不適当
 分科会のメンバーである江藤教授は「議長に人事権があるが、(事務局職員は)出向制度。位置づけがむずかしい。(議員と職員は)協働してやっていこうというのが結論」と指摘。同じく分科会メンバーの清水克士氏は「あくまで決定権は議員にある」と前置きしつつ、議会(事務)局職員の「補佐の射程」の明確化を主張。さらに議長は、任命権者である自覚を高めるべきと話した。
 井坪氏は「飯田市では『任命権者は議長だ』との意識が強い」とし、しきりに提案する議会事務局長が定年退職する際、全議員で送別会を開いたエピソードを披露。議員と事務局職員の関係の良さを語った。
 会場からは議長経験者や現議長などの発言が相次いだ。「(人事は)副市長と話をする。ワンマン的な市長の場合、(議会側の要望を通すのは)難しい」「リスト化まではしていないが、ピンポイントでこういう職員が(事務局に)ほしいという話はする」「新卒ばかり事務局に入ってきて心配」といった声が出ていた。
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「議会(事務)局」のあり方をめぐる議論はこれまでもあったが、議会からの政策サイクルに関わる形でのものは初だろう。議会改革を推進する重要な「伴走者」として、議論の活発化を期待したい。
(文・写真/上席研究員・千葉茂明)

〇日本生産性本部・地方議会改革プロジェクト
https://www.jpc-net.jp/consulting/mc/pi/local-government/parliament.html

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