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「スローガン」を独自に設定した「議会プロフィール」案を作成 ー長野県飯田市議会

長野県飯田市議会は2022年3月23日、公益財団法人日本生産性本部の研究会が作成した「地方議会成熟度評価モデル」を導入することを公表。3月29日の同モデル導入に伴うキックオフ講演会を皮切りに議員間討議を重ね、このほど「議会プロフィール」の原案がまとまった。今後、成熟度評価を実施し、2023年3月末に公表する予定だ。全議員で評価モデルに取り組むのは飯田市議会が全国初と見られ、その成果が注目される。

■グループのリーダー・サブリーダーは2期目、1期目の議員

地方議会評価モデルの取組体制(2022年6月20日、議長記者会見資料より)

 長野県南部の中心都市・飯田市。評価モデルに取り組むにあたって飯田市議会(議員定数23人)では議員を三つのグループに分けた(一グループ7~8人)。リーダーは2期目、サブリーダーは1期目の議員が務めている。4月14日に第1回リーダー・サブリーダー会議を開催。以後、毎月1~2回のペースで同会議を開催(10月5日までに8回)、リーダー会議も10月21日までに3回開催し、評価モデルを作成した研究会座長の江藤俊昭・大正大学教授との意見交換会(10月8日)を含めると会議時間は10月末までに約28時間に及んだ(その間に、各グループで議員間討議)。

 飯田市議会は2006年、議員提案による自治基本条例を制定(2007年4月1日施行)。同条例第6章「市議会の役割」に基づき、2012年に「議会改革・運営ビジョン」を策定、議会改革推進会議を設置し、進行管理を行う体制を整えた。それから10年経ったのを機に、改めて地域経営の視点で、“自己診断”し、これからの10年を見据えて前に進むために評価モデルの導入を決めたという。
 リーダー・サブリーダーに期数の若い議員を充てたのは将来、議会の中心メンバーとして活躍してほしいという願いが込められている。

■「スローガン」を独自に設定

11月18日に開催された地方議会評価モデル成熟度評価オリエンテーション(Å班、市議会第1委員会室)。

 11月18日~19日には地方議会評価モデル成熟度評価オリエンテーションが日本生産性本部スタッフも参加して開かれた。
 18日は、三つの班が対象。それぞれリーダーが第9回リーダー・サブリーダー会議(11月8日)の会議結果を報告、意見交換を行った。
 第9回会議では、各班でのグループ討議を踏まえて、議会プロフィールの「1議会に期待される役割(ミッション)」、「2議会が実現すべき理想的な姿(ビジョン)」及び上位概念となる「スローガン」について協議し、主に7項目の論点について修正等で合意した。
 ミッション・ビジョンの上位概念として「スローガン」を設けるのは飯田市オリジナル。当初、スローガンは「『くらし豊かな いいだの未来(あす)を 市民とともに実現する議会』~市民のしあわせに貢献するために、市民の代表として、健全な行政運営をまもり、いいだの豊かさと未来(あす)を市民とともに創ります~」だった。第9回リーダー・サブリーダー会議(11月8日)で「サブタイトルがやたら長い」「皆で暗唱できるように」など様々な意見が出され、最終的にサブタイトルは「~市民のしあわせに貢献する議会~」とシンプルなものとなった。

 また、ビジョンで検討してきた「地域経営」という言葉を「市政運営」に置き換えるかどうかも議論になった。リーダー・サブリーダー会議では「住民自身にも考えてもらうというニュアンスが伝わる」などの理由から「地域経営」という言葉を使用することで合意。しかし、18日のオリエンテーションでは、なおも「経営」という言葉に違和感を覚えるという意見が出された。
 そのため飯田市議会ではスローガン・ミッション・ビジョンを確定させず、一方でほぼ前提として各議員が成熟度評価モデルを実施することにした。

 さらに、文末の表現も議論に。当初は「努めます」という努力規定にしていたが、「それでは自分たちの意気込みが薄れてしまう」という意見が出され、「確保します」「行います」「行っていきます」といった断定調のものを採用することになった。
 現段階の飯田市議会のスローガン、議会に期待される役割(ミッション)、議会が実現すべき理想的な姿(ビジョン)は次の通り。

【スローガン】
『くらし豊かな いいだの未来(あす)を 市民とともに』~市民のしあわせに貢献する議会~


【ミッション】
〇市民の代表機関として議決の権限を行使し、市民の意思が的確に反映されるように活動します
〇執行機関の活動を評価・監視することにより、適正な行政運営を確保します
〇市民の意思を基に、政策を立案・提言していきます
〇共にまちづくりを進めるため、議会活動への市民参加を推進し、市民に開かれた議会運営を行います

【ビジョン】
〇市民との意見交換の場をもとに、行政評価からの決算と予算の連動及び政策提言などによる飯田市議会の政策サイクルがさらに充実しています
〇合議体である議会がひとつになり、執行機関と対峙し、切磋琢磨することにより共働して地域経営を行っています
〇さらなる議会力の向上を目指し、議員一人ひとりの力量を高め、研鑽をしています
〇会議及び委員会等を公開し、議会活動について説明することにより、市民との情報共有を図り、市民に身近な議会になっています


■2023年3月下旬に成熟度評価を発表予定

11月19日開催されたリーダー・サブリーダーによる地方議会評価モデル成熟度評価オリエンテーション(市議会第1委員会室)

 オリエンテーションを受け、議員は1か月かけて個人ごとに成熟度評価のワークシートを作成する。ワークシートは計16の項目ごとに4段階(◎〇△-)で評価。評価の理由・根拠(認識・方法・結果)、評価に基づく課題、改善事項等を記入するもの。
 11月19日のオリエンテーションは土曜日にもかかわらず三グループのリーダー・サブリーダーが集結。今後のスケジュールなどを確認した。当初、個人ごとのワークシートはリーダー・サブリーダー会議で確認する予定だったが、「他のグループの議員の評価も見たい」という意見が出され、いったん各議員に全議員のワークシートを送ることを決めた。
 各議員は12月20日までにワークシートを議会事務局に提出。2023年の年明けから5つの視点ごとにグループ討議、リーダー・サブリーダー会議を重ね、3月下旬には議会としての成熟度評価をまとめて発表する予定だ。

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飯田市議会には、何をするにもみんなで取り組むというDNAがある
――井坪隆議長に聞く

飯田市議会が地方議会成熟度評価モデルを導入して8か月。これまでの取り組みの手応えなどを井坪隆議長に聞いた。

井坪隆議長。

――ずいぶん時間をかけて地方議会成熟度評価モデル検討している。議員の変化を感じますか。 
 特に刺激が大きかったのは1・2期生の議員だろう。ベテラン議員もこれまでの取り組みを改めて振り返るいい機会になっている。

――同じことに取り組んでも評価はさまざま。他の議員のとらえ方から新たな気づきをえられる。
 先輩はどういう思いを持っているのだろう、逆に先輩から見れば若い議員はどんなことを思っているのか。そこで気づきがある。それはとても大事なことだ。

――議長が「新しい議会をつくる」という姿勢を示すのは大事ですね。 
 2002年に、議会のあり方研究会が立ち上がり(4つの視点による改革を進めた)、それとオーバーラップする感じがあるが、当時と何が違うのかと考えた。当時は市町村合併直後で、「議会は存在するがどうするか」という改革だったと思う。現在は議会が機能するためにはどうしたらいいのかを議論している。

――議員は多忙の中、粘り強く議論している。 
 飯田市議会には、何をするにもみんなで取り組むというDNAがある。それが一つの特徴だ。会派によって、イデオロギーの違いは当然あるが、一つのことに向かってみんなでやろうという意識が強く、それが連綿と続いている。結果として、こういう作業には向いているのかもしれない。議論の中から議会プロフィールにスローガンができた。これは飯田市議会独自のもので、大きな成果。改革は一人の情熱から進む。けれどそれを継続するのは組織のエネルギーだ。その両方を飯田市議会は持っていると思う。

(文・写真/上席研究員・千葉茂明)

〇日本生産性本部・地方議会改革プロジェクト
https://www.jpc-net.jp/consulting/mc/pi/local-government/parliament.html

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