なり手不足に潜む「3つの危機」の打開を!――全国町村議会議長会「町村議会議員のなり手不足対策検討会」が報告書
全国町村議会議長会(会長=渡部孝樹・北海道厚真町議会議長)は2024年4月8日、都内で「町村議会議員のなり手不足対策検討会」の報告書手交式・記者会見を行った。報告書では、なり手不足に潜む「3つの危機」を強調。なり手不足対策では、議会の取組に加え、幅広い協働による対策が不可欠だと指摘し、特に女性議員を増やすため、立候補の障壁除去の施策を重点的に進める必要性を訴えている。
議員のなり手不足がより深刻化
2023年4月に行われた統一地方選。町村議会議員選挙では、無投票・定数割れが増加するなど町村議会議員のなり手不足がより深刻化。一方で、女性候補者・当選者は増加傾向だった。
<第20回統一地方選挙(2023年4月)>【町村議会議員選挙】
①投票率55・49%(前回2019年より4・2ポイント減、過去最低更新)
②無投票団体123町村(前回より30町村増)
③無投票当選者数1250人(30・3%)(前回より262人、7ポイント増)
④定数割れ町村議会20町村(前回より12町村増、全体で22人不足)
⑤女性候補者670人(14・7%)(前回より2・6ポイント増)
⑥女性当選者632人(15・4%)(前回より3・4%増)
こうしたなり手不足問題の深刻化を踏まえ、全国町村議会議長会では2023年7月、有識者5人で構成する「町村議会議員のなり手不足対策検討会」(委員長=江藤俊昭・大正大学教授)を設置、6回の会合での議論・協議を踏まえてまとめたのが今回の報告書だ。
逆手に取って政治参加の促進を
手交式では江藤委員長が渡部会長に報告書を手交。記者会見ではまず、江藤委員長が報告書の概要について説明した。
報告書のタイトルは「町村議会議員のなり手不足に潜む3つの危機~議会の取組と幅広い協働により地方自治の未来を創ろう~」。江藤氏は、「タイトルには再生に向けて(現在は)重要な時期、新たに飛び出てほしいというメッセージが込められている」と指摘。サブタイトルの「幅広い協働」については「町村議会はもとより執行部やコミュニティ、企業、県・国などとの協働が必要」と述べた。さらに、「なり手不足を逆手に取って、主体的に地域に関わる人を増やし、それが政治に参加する主体になってほしい」と話した。
報告書を受け取った渡部会長は「すべての町村議会が報告書を熟知し、行動に移していかなければならない」と力を込めた。
「定数+1」・無投票は過半数超え
報告書は5編で構成。「第1編:なり手不足に潜む3つの危機」では、①増加する無投票・定数割れと潜在的ななり手不足(全国町村議会にとっての危機)②多様性を欠く議会では二元代表制の趣旨が損なわれる(町・村にとっての危機)③度重なる無投票が地方自治の弱体化を招く(都道府県・国にとっての危機)ーーと指摘。
無投票・定数割れ団体数は、同じペースで増え続けると仮定した場合、次の4年間(2023年5月~2027年4月)には全体の3分の1を超える34・1%の議会が無投票になる可能性があるという。
また、立候補者が「定数+1」で辛うじて無投票を回避した町村の数は299(2019年5月~2023年4月)。これは全体(926)の32・3%で、無投票254町村を加えると553(59・7%)と過半数を超える。これまで「定数+1」のデータはなかっただけに、報告書では「多くが潜在的になり手不足であり、無投票の危機は目の前に迫っていると言える。いずれの町村議会においても、これらが他人事ではないことをまず認識しなくてはいけない」と釘を刺している。
なり手不足・無投票は、議会の存在意義や二元代表制の趣旨が損なわれることにつながり、選挙戦の機会が度重なって失われることは地方自治の弱体化を招き、そのことは「都道府県・国にとっても危機だ」と訴えている。
「担ぎ手」も減少
「第3編:なり手不足の原因」では、①なり手に響かない3条件(やりがい・環境・待遇)②地域コミュニティの限界(潜在的ななり手不足等)③立候補・選挙における障壁ーーと分析した。地域コミュニティについては、選挙の面倒を見てきた地域の世話人(担ぎ手)や組織の減少を指摘。立候補者が一人で選挙のすべてを行わざるを得ない状況が生まれ、「多くの志のある人の諦めに繋がっている」としている。
「第4編:なり手不足の対策」では、「議会」「町全体・村全体」「都道府県」「国」ごとに「取り組むべきこと」を列挙。なり手不足の原因は多岐にわたっており、「なりて不足による3つの危機を防ぐためには、議会の取組に加え、幅広い協働による対策が不可欠」としている。
「女性議員ロールモデル実例集」を制作へ
「第5編:女性議員を増やすための対策」では、「議会が取り組むべきこと」として▽ハラスメント対策の徹底▽女性模擬議会の開催▽政策サポーター・議会モニターに女性を積極的に任命▽保育施設や授乳室の設置ーーなど。「町や村全体で取り組むべきこと」として▽自治会等における女性の役員登用▽首長の審議会等への積極的な女性登用▽女性の政治参画等を促進するシンポジウムの開催ーーなど、「都道府県が取り組むべきこと」として▽女性ネットワークに対する支援▽ハラスメントに関する相談窓口の開設、「国が取り組むべきこと」として▽議会の取組に対する財政支援▽女性議員ロールモデル実例集▽女性の地方移住の促進ーーを挙げた。
女性議員ロールモデル実例集では、議員を志した動機、立候補から当選までに直面した課題とその対応策、議員活動、議員のやりがい、達成した成果などを想定。全国町村議会議長会は2024年度事業として制作する予定だ。
手順「各町村議会における対応の考え方」を示す
議会として課題を認識しても、なかなか行動にはつながりにくい。そこで報告書では、なりて不足対策に取り組む手順を「各町村議会における対応の考え方」として示しているのが特徴だ。
まず「議会における取組」として、①議会としての意思の明確化(検証組織、決議等)②住民との問題意識共有、広報、意見交換③議会環境の整備④主権者教育--など。「①・②が特に必要」と指摘する。
次に「町村長との連携」として、①議員のなり手不足に町村として取り組むことの要請②特別職報酬等審議会への議会の実情に明るい委員の登用③議会事務局体制の充実・強化④企業に対する要請、「都道府県との連携」として①議員のなり手不足に都道府県として取り組むことの要請(都道府県町村議会議長会から要請)②町村議会のなり手不足対策への支援③議会のデジタル化支援④バリアフリー化・保育施設等設置の支援、そして「立候補に向けた支援」として、①なり手向け講座による立候補検討者の後押し(例:北海道栗山町議会の「議員の学校」)②女性の政治参画等を促進するシンポジウム等の開催(例:宮城県蔵王町議会の「女性模擬議会」)--という流れを示している。
報告書の全文は全国町村議会議長会HPで公開している。
https://www.nactva.gr.jp/php/index.php
(文・写真/上席研究員・千葉茂明)
〇日本生産性本部・地方議会改革プロジェクト
https://www.jpc-net.jp/consulting/mc/pi/local-government/parliament.html
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