ミッション・ビジョンを掲げ、4年間の行動計画を公表――三重県いなべ市議会
三重県いなべ市議会は2023年11月5日、いなべ市内で「市民と議会のフォーラム」を開催した。その場で「いなべ市議会の宣言」「いなべ市議会行動計画」を発表。宣言では、議会に期待される役割(ミッション)と議会が実現すべき理想的な姿(ビジョン)を掲げ、行動計画では「市民に期待され信頼される議会」をビジョンに具体的な取組みを列挙した。市民に対して、議会のいわば“公約”を提示した形。いなべ市議会の「新たなステージ」に向けた挑戦が12月からいよいよ始まった――。
■議会運営を大幅に見直す機会に
「市民と議会のフォーラム」は、市内の北勢市民会館で「あなたの参加で議会が変わる」をテーマに開かれた。開催日は日曜日で、市民などの参加は32人だった(議員など関係者を含めて計約50人参加)。
フォーラムの冒頭、いなべ市議会(議員定数18人)の小川幹則議長が開会挨拶。「今年、いなべ市は(合併して)市制施行20周年を迎えた。この間、市議会も多くの議会改革を進めてきた。しかし、社会情勢の変化と市民ニーズに適切に対応するには現行の運営方法に限界があると認識し、昨年12月から議会検証評価特別委員会を中心に、地方議会成熟度評価モデルを活用して、議会運営を大幅に見直す機会を得た」とこれまでの経緯を説明。その上で、策定した行動計画をもとに市民とともに「一歩踏み出す」と話した。
■いなべ市議会の活動は「急激に発展」
フォーラムではまず、これまで折に触れていなべ市議会の改革を支援してきた江藤俊昭・大正大学教授が、「市民の参加で変わる住民自治~市民の力で『住民自治の根幹』としての議会を作動させる」をテーマに基調講演を行った。
江藤氏は、2000年の地方分権改革によって政治の役割が台頭し、「地域経営にとって大事な権限のすべてを有する」議会の改革が重要であることを解説した。いなべ市議会の活動は「急激に発展」と評価。今回の宣言や行動計画は「議会が自らを縛るもの」であり、市民とともに進めていく必要性を述べた。
■全国の先進モデルに
続いて、地方議会成熟度評価モデルを作成した(公財)日本生産性本部の筆者(千葉茂明)がメッセージを送った。
メッセージでは、評価モデルの実装化に取り組んでいる議会はいくつかあるが、宣言や行動計画まで作成した例はなく、「いなべ市議会は全国の先進モデルになりうるのではないか」と指摘。また参加者には、市議会が行動計画通りの活動をしていなければ叱咤激励し、実行して成果を上げていれば「少しでいいのでほめてほしい。そうすれば議員のモチベーションも上がり、さらに市民のためになる活動を行うはず」と要請した。
そして、いなべ市議会議員が一列に整列。代表して、議会検証評価特別委員会の清水隆弘委員長が「いなべ市議会の宣言」「いなべ市議会行動計画」を発表した。
■ビジョンは、「市民に期待され信頼される議会」
市議会では2022年11月、議会検証評価特別委員会を設置し(議長を除く全議員で構成。議長はオブザーバーとして参加)、同年12月に第1回会合を開催。以後、2023年11月までに特別委員会の全体会8回、リーダー会議13回、グループワーク4回、8月には市民との意見公開会も開いて議論を重ね、今回の宣言、行動計画作成に至った。
宣言では、「議会に期待される役割(ミッション)」として、①執行機関を監視・評価②市民意見・要求・要望の把握③政策提案・提言④市民への説明責任――の4項目を提示した。
「議会が実現すべき理想的な姿(ビジョン)」は、「市民に期待され信頼される議会」とし、具体的に①市民の声を反映する議会②合意形成ができる議会③政策提案及び提言を実現できる議会――の3項目を明記。「今期議会議員任期満了となる令和7年には、このビジョンに近づき、議会基本条例制定10年を迎える令和9年にはビジョン到達を目標に取り組みます」としている。
■広聴広報委員会や議会モニター制度を設置
行動計画(~議会の新たなステージへ~)の期間は、2023年12月1日から2027年11月30日までの4年間。成熟度評価モデルの16の確認項目ごとに方向性を整理した。取組内容は大きく15項目あり、主なものは次の通り(カッコ内は運用開始年月)。
①市民との対話
・広聴広報委員会の設置(2023年12月)
・市民と議会の意見交換会を随時実施(2024年1月)
・議会報告会を拡充(対面:年2回、動画配信:年2回)
②情報公開と説明責任
・議案は、議決するまでに市民の意見を聴取(2024年第1回定例会)
・これまで以上に議案を慎重に審議する体制を構築(2024年第1回定例会)
③理想的な姿の構想
・議会モニター制度の設置(2024年4月)
・有識者による議会活動の評価(2024年7月)
④主権者教育と選挙の充実
・学校への出前講座、児童・生徒が議会へ参加する機会の創出(2024年4月)
・投票率向上に選挙管理委員会への働きかけ(2024年4月)
最後に清水委員長が、「何年後かに『議会が変わったな』『議会にもっと意見を伝えたいな』と思っていただけるよう我々議員一同頑張っていきます」と話すと、会場から大きな拍手が送られた。
■「しっかり検証し、回していくこと」
次は、参加者が4~5人ずつテーブルを囲んでグループトーク(いなべ市議も参加)。「基調講演、議会の宣言を聞いた感想」「市民が議会へ参加する『場』として必要だと思うものは?」「議会でもっと議論してほしいと思うテーマは何ですか?」をテーマに話し合った。
終了後、いくつかのグループが発表。「若い人がこういう場に参加してもらうための工夫が必要」「太陽光発電問題、人口減対策、獣害や空き家対策にもっと取り組んでほしい」といった声が出ていた。
フォーラムの最後に、江藤氏が総括。「みんなで議論する」というフォーラムの意義を強調しつつ、宣言と行動計画は「しっかり検証し、回していくこと」と作りっぱなしにしないようくぎを刺した。
片山秀樹副議長が閉会挨拶。議会改革が急速に進んできたことを述べるとともに、会場の参加者に「議会の取組みに参加し、力を貸してほしい」と呼びかけてフォーラムは終了した。
【インタビュー】
個々の議員としての活動から「チーム議会」に
――小川幹則議長、清水隆弘・特別委員会委員長に聞く
市民と議会のフォーラム終了後、小川幹則議長と議会検証評価特別委員会の清水隆弘委員長に、宣言や行動計画の意義、手応えなどを聞いた。
ーーフォーラムを終えての感想は?
小川 宣言や行動計画を出した以上、実際に運用していかなくてはいけない。一つ一つ実現できるように取り組んでいく。今日のグループトークでは市民の方から、いままで気づかなかった視点からの考えも聴くことができ、非常に良かった。
清水 私も直接市民の方から率直な意見を聴くことができ、貴重な経験となった。(計画等は)あまり無理をしてもダメ。できることから一つずつ、住民福祉の向上につながる改革を進めていきたい。
――成熟度評価モデルの実装化に取り組んで1年弱。その効果をどう感じていますか?
小川 これまで個々の議員としては活動してきたが、今回の取組みを通じて「チーム議会」になったこと、議会として取り組む方向に変わってきたことはメリットだと思っている。
清水 リーダー・サブリーダーは1、2期の議員で構成したが、先輩議員との調整が正直なところ大変だった(苦笑)。合意形成に向けては正副議長、会派長、議会事務局も含めて一番苦労した。それでも宣言や行動計画は合意できた。自分たちで決めたことなのでやっていける自信がある。
(文・写真/上席研究員・千葉茂明)
(注)記事中の肩書きは取材日(11月5日)時点。いなべ市議会は11月28日の本会議で、議長に小川幹則議員(再選)を、副議長に篠原史紀議員を選出した。
〇日本生産性本部・地方議会改革プロジェクト
https://www.jpc-net.jp/consulting/mc/pi/local-government/parliament.html
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?