マニフェスト大賞受賞事例をTTPし、さらなる善政競争を!――ローカル・マニフェスト推進連盟
超党派の地方議員らによるローカル・マニフェスト(LM)推進連盟は2024年1月31日~2月1日、都内の早稲田大学で「マニフェストアワーズコレクション」と題した研修会を開催した。近年のマニフェスト大賞受賞団体等が登壇し、実践事例を発表。会場は、最先端の事例をTTP(徹底的にパクる)し、さらなる善政競争につなげようという参加者の熱気にあふれた。
「地域の未来を地方議員がつくっていこう」
「マニフェストアワーズコレクション」(早稲田大学マニフェスト研究所など共催)は、現地とオンラインの併催。地方議員を中心に約130人が参加した。
マニフェスト大賞(審査委員長は北川正恭・早稲田大学名誉教授)は2006年に創設。第1回の応募件数は221件だったが年々増加し、ここ数年は3000件を突破(2023年の第18回の応募件数は3088件)。いまや「日本最大の政策コンテスト」と称される存在までになった。賞には、ローカル・マニフェスト大賞(首長部門、議員・会派部門、市民・団体部門)、議会改革賞、成果賞、グッドアイデア賞、コミュニケーション戦略賞、躍進賞がある(第18回のケース)。
冒頭、主催者を代表してLM推進連盟共同代表の川上文浩・岐阜県可児市議が挨拶。川上氏は、マニフェスト大賞受賞者の取組みを学び、「地域の未来を我々地方議員がつくっていこう」と参加者に呼びかけた。
研修会の初日は、「議会広報が変えた住民とのコミュニケーション」と「マニフェスト大賞が変えた議会と最新のトレンド」が柱。まず、「議会広報」について4つの議会から実践事例が発表された。
「手に取ってもらう工夫」に注力(あきる野市議会)
最初は子籠(こごもり)敏人・東京都あきる野市議が「市民が読みたくなる『ギカイの時間』」について発表した。
同市議会では11年前に議会だよりを大幅リニューアル。表紙のタイトルや写真、誌面の空気感など「手に取ってもらう工夫」に注力しており、▽記事を詰め込み過ぎない▽号ごとにターゲットを変えるーーなどをポイントとして挙げた。
表紙・特集では「子育てママ」や「消防団」「市内に住む外国人」などが登場し、最終ページでは小学6年生が「将来の夢」を語る。これらで「新規読者の開拓をしている」と子籠氏。「うちでは(市民の)5~6割が『ギカイの時間』を読んでいる」と手応えを語った。
編集方針は「読まれない議会だよりは出す意味なし!」(寄居町議会)
次に鈴木詠子・埼玉県寄居町議が登壇。同町議会の議会だよりの編集方針は「読まれない議会だよりは出す意味なし!」だ。
議員が町民を直接取材し、「議員さんに対しては“税金泥棒”ってイメージでした」「何もしない議員はクビでいい!」といったリアルな声を数多く掲載。「名前」「顔写真」「コメント掲載」が掲載の条件であることから町民も責任をもって発言しているという。
鈴木氏は「議員の取材力=広聴力=議員力アップ」と強調。議会だよりを介して議会発の政策サイクルを発信していることを説明した。
また、2019年の町議選が町制施行以来初めて無投票になったことから、議会だよりでは「求む挑戦者!」という特集を企画、立候補の要件や環境などを分かりやすく解説した。
その結果、2023年の町議選は定数16に対して立候補者は21人という激戦に。40年ぶりに20歳代の当選者も生まれた。鈴木氏は「『議会』が変われば『町』が変わる。議会と町民が共に意識改革を!」と訴えた。
インパクトのあるチラシで傍聴者数の増加、無投票の回避に(鷹栖町議会)
3番目の事例発表は北海道鷹栖(たかす)町議会の片山兵衛(ひょうえ)議員と川原允(まこと)議員。
同町議会は、週刊誌の中吊り広告風のチラシやショウワノート風の傍聴ガイドブックの発行などで全国的に注目されている。初めて見たときは誰もが「びっくり」(子籠氏)したのではないか。片山氏は、「3期連続無投票で、手段を選んでいられなかった」と振り返った。インパクトのあるチラシは町民の議会への関心を高め、傍聴者数の増加、無投票の回避(2023年の町議選は定数12に対し、立候補者は14人)につながっている。「住民とコミュニケーションを取りながらまちづくりにつなげていきたい」と話した。
「読む」広報だけでなく、「動画」で「見る」広報へ(開成町議会)
神奈川県開成町議会の前田せつよ副議長は、「開かれた議会」の実現に向け、「広報改革」から戦略的な「議会改革」の取組みを発表した。2022年から、議会報告会の動画配信や、「一般質問予告動画」と「一般質問終了直後の感想動画」を発信。同年9月には議会独自のウェブサイトを開設した。
議会広報紙は2021年に全国町村議会議長会広報コンクール奨励賞を受賞したが、その後も一般質問をヨコ書き見出し付きで掲載、表も裏もないダブル表紙にするなど改革を進め、210号(2022年5月1日発行)では、誌面サイズをタブロイド判に変更した。今後は、「読む」広報だけでなく、時代に対応するため、「動画」で「見る」広報発信を検討しているという。
動画の撮影や編集、公式YouTubeのアップまですべて議員・議会事務局職員が実施。ギカイだよりが読まれるようになり、動画の再生回数がリアルな反応として実感でき、「議員自ら動くことで、議員の意識が変わり、議会機能の強化につながっている」と話した。
町民のコメントを活かすためのデザイン
このセッションの最後は登壇者らによるトークが行われた(コーディネーターは子籠敏人氏)。寄居町議会の吉澤康弘議長は、議員が町民を取材することに対して、「当初は『そんなこと議員のやる仕事なのか?』と言う議員もいた。でも嫌々でもやってみたら今は競争になっている」と指摘。あきる野市議会では誰でも担当できるように誌面内容をフォーマット化しているが、寄居町議会では毎号異なる。この点に対し、鈴木氏はフォーマット化を図るよりも「取材ありきの編集。町民のいいコメントを活かすためのデザインを考えている」と説明した。
開成町の前田氏は、動画撮影などが不得手な議員がいても「12人の議員がお互いに協力し合って動画作成を行っている。(議員同士が)仲のいい議会なので」と笑顔で話した。
鷹栖町の片山氏は、傍聴者が一般質問を評価する「通信簿」について、「それ自体を議員の評価とは考えていない。あくまでコミュニケーションツールだ」と指摘した。
善政競争で横展開
1日目の後半は「マニフェスト大賞が変えた議会と最新のトレンド」。まず、同賞審査委員でもある江藤俊昭・大正大学教授がオンラインで講演を行った。江藤教授は、マニフェスト大賞やLM推進連盟などのネットワークによって、先進的な実践が「善政競争で横展開されてきた」とその意義を強調。議会改革の「これから」として多様性の充実・強化、政策サイクルの充実・強化などをポイントとして挙げた。
続いて、中村健・早稲田大学マニフェスト研究所事務局長が「マニフェスト登場で議員活動・会派活動が変わった」と題して講演を行った。中村氏は、2003年統一地方選でのマニフェスト登場以来、「お願い」から「約束」のマニフェスト型選挙が広まったことを説明。ビラの配布も順次解禁され、特に「議員は所属する会派マニフェストと議員個人のマニフェストを掲げ、選挙をすることが標準装備となった」と話した。
1日目の最後にマニフェスト大賞審査委員長でもある北川正恭・早稲田大学名誉教授が総括。「地方から変わる運動を20年間続けてきて手応えを感じる」としつつ、さらに「地方議会から地方を変える。そして地方から国を変える」運動の重要性を訴えた。
広がる「若者の参画と意見反映」
2日目のテーマは「若者の参画と意見反映-シティズンシップの未来」。まず、若者政策に詳しくマニフェスト大賞審査委員でもある西尾真治氏(三菱UFJリサーチ&コンサルティング主任研究員)が基調提起を行った。
西尾氏は、これまでのマニフェスト大賞市民部門の受賞例を振り返り、主体が青年会議所主導から市民団体主導、大学生や若者団体の取組みに変遷してきたことを説明。主権者教育に関する取組みや、若者の声を政治家に届ける取組み、若者の声を実際のまちづくりに反映する制度の創出など広がりをみせていることを解説した。
その一例として静岡県牧之原市の取組みを紹介。「対話と協働のまちづくり」を制度として条例に位置付け、市民ファシリテーターの育成、街づくりの現場で高校生ファシリテーターが活躍していることなどを話した。
若者が「対象」から「主体」に転換
マニフェスト大賞受賞団体による事例発表では4団体が登壇した。
最初は、NPO法人わかもののまち代表理事の土肥(どひ)潤也氏。同NPOは静岡県を中心に、若者がひとりの市民として参画できるまちづくりを目指して活動。現在29歳の土肥氏はこども家庭庁の審議会委員、「こども・若者参画及び意見反映専門委員会」委員長も務めている。
こども基本法によって、国・地方公共団体はこども施策にこどもの意見を反映させることが義務化された。土肥氏はこの意味を「こども・若者が『対象』から『主体』に転換していくという変化」と指摘。変わらないといけないのはこども・若者ではなく、大人や社会環境ではないかとし、こども・若者は「次世代や未来を担う存在」ととらえがちだが、「いまを担う存在」だと語った。
「1000万円の予算提案権」を持つ若者議会
次の事例発表は新城市若者議会(愛知県新城市)委員の木戸ゆめ氏。新城市では若者条例と若者議会条例を制定し、2015年に第1期新城市若者議会がスタートした。委員(定員20人)の応募条件は市内在住、在学、在勤の概ね16歳から29歳までの若者。市外委員やメンター(市民・職員)がいて、事務局は市の市民自治推進課が担当する。若者議会は「1000万円の予算提案権を持ち、若者自らが自分のまちを考え、政策立案する市長の附属機関」だ。
若者議会は毎年3月に委員を募集、半年余り検討し、11月に市長に政策を答申する。これまでに8期・40以上の事業(政策)を提言。図書館のリノベーションや新城の魅力を若者向けに発信するインスタグラムアカウントの開設、高校生に市内の企業を知ってもらうための企業情報誌の作成などを実現してきた。木戸氏は「新城の若者がまちをもっと好きになってくれたらいいな」と思いを語った。
こども選挙は大人の主権者教育にも
神奈川県茅ケ崎市のこども選挙実行委員会の池田一彦氏は、2022年10月30日、茅ケ崎市長選挙と同時に行われた「ちがさきこども選挙」について発表した。
こども選挙のミッションは「本当の選挙と同時開催の模擬選挙を通じた、『リアルな学び』と『市政への参加機会』を実現する」。市内から15人のこども選挙委員を募集。民主主義を学び、まちのことを話し合い、実際の候補者3人に質問する内容を子どもたちが考え、インタビュー動画をWEB公開した。選挙当日は市内11か所に投票所を設置、ネット投票システムも構築したところ、小学生~高校生から計566票が集まった。
池田氏は、子どもたちに主権者意識の芽生えが出たことを成果とする一方、大人たちにも影響を与え、活動にボランティアとして参加した市民が半年後の市議選に立候補し、2人が当選したことを紹介し、「主権者教育されたのは大人の方でした」と語った。
「ルールメイキング」自己肯定感や当事者意識が向上
事例発表の最後は認定NPO法人カタリバの山本晃史氏。カタリバでは2019年から、生徒が主体となり、学校の校則・ルールを見直す「みんのルールメイキング」に取り組んでおり、全国326校で実践(2024年1月29日現在)。校則が変わる「結果」ではなく、生徒自身の主体性・自律・課題発見、社会参画意識などを育てるプロセスを重視しているという。
制服の見直しや学校行事でのルール、ICT機器のルールづくりなどに取り組んだ生徒たちは自己肯定感や自己効力感、当事者意識が軒並み向上。取組みに参加した教職員の97%が「生徒の意見を聴くことで、学校をより良くすることができる」とアンケート調査に回答するなど大人側にも好影響を与えている。山本氏は「自分たちの社会は、自分たちでつくることができる」というメッセージで発表を締めくくった。
議会・議員は「若者と対話する場」を
セッションの最後は事例発表者によるトークが行われた(コーディネーターは西尾真治氏)。
若者の主体性をめぐって、木戸氏は「(若者が)意見を言える場が必要」と指摘。土肥氏は「『主体性を育む』と言われるが、そもそも子どもたちに主体性はあるのではないか」。池田氏は「こども選挙ではどこまで大人が関わるのか線引きが難しかった。やっていく中で子どもたちに任せていった。大人たちは『手放す勇気』が重要」と語った。
議会・議員に向けては「若者と対話する場を設けてほしい」(木戸氏)、「一般質問でこども基本法を取り上げてほしい」(土肥氏)といった意見が出ていた。
*
その後は三つの分科会に分かれて参加者同士で議論し、全体で情報共有。参加者は善政競争の“タネ”をふんだんに仕入れ、刺激に満ちた2日間だった。
(文・写真/上席研究員・千葉茂明)
〇日本生産性本部・地方議会改革プロジェクト
https://www.jpc-net.jp/consulting/mc/pi/local-government/parliament.html
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