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「地域の課題と自治体議会の役割」をテーマに、「地域政策ネットワーク」フォーラムを開催――大正大学地域構想研究所

 大正大学地域構想研究所(片山善博所長)は2023年1月27日、都内の同大学内で「地域の課題と自治体議会の役割」をテーマに「地域政策ネットワーク」フォーラムを開催した。同研究所は2022年10月、地域や社会が抱える諸課題を大学×地域の共創によって解決を図ることを目的に「地域共創コンソーシアム」を発足。コンソーシアムでは2023年度から地方創生に関わる多種多様な講座等の事業を予定しており、フォーラムはそのプレ企画として実施。先進事例などをもとに地域の課題と自治体議会の役割を多角的に議論した。

■「フォーラムとしての議会」を!

「議会が地域を変える」をテーマに講演を行う江藤俊昭・大正大学社会共生学部教授。

 「地域政策ネットワーク」フォーラム((公財)日本生産性本部「政策サイクル推進地方議会フォーラム」協力)はリアルとオンラインの併催。自治体議会関係者を中心に約70人が参加した。
 フォーラムは4つのセッションで計6時間余りにわたって行われた。最初のセッションでは江藤俊昭・大正大学社会共生学部教授が「議会が地域を変える」をテーマに講演を行った。

 江藤氏は、「時代を読む:地方の重要性」「住民自治の主体:二元的代表制」「議会改革の到達点」「統一地方選挙の課題」などを論点として示した。まず「時代を読む」では、コロナ渦で東京一極集中や格差拡大など日本社会の課題があぶりだされ、地方の価値や開放型内発的発展の重要性が再確認されたと指摘。議会改革もコロナ渦であぶりだされ、右往左往する議会・議員の一方で、政策サイクルを回し、政策提言を行っている議会・議員に二極化されたと語った。また、コロナ渦の副産物として議会業務継続計画(BCP)の豊富化(新型コロナ対応)やオンライン会議の実践、を挙げた。

 「議会改革の到達点」では、議会活性化から議会基本条例の制定(第1ステージ)、議会からの政策サイクルの実践(第2ステージ)とこれまでの歩みを振り返り、「もう一歩」として議場内外に住民、議員、首長等による「フォーラムとしての議会をつくりたい」と強調。その萌芽となる具体例として、住民によるゼミナール(宮城県大和町議会)や模擬公聴会(長崎県小値賀町議会)、市民フリースピーチ制度(愛知県犬山市議会)、市民まちづくり集会(愛知県新城市)などを挙げた。

■議会本来の仕事は「決めること」

「新たな地域経営を考える」と題して講演を行う片山善博・大正大学地域構想研究所長。

 続いて片山善博・大正大学地域構想研究所長が「新たな地域経営を考える」と題して講演した。片山氏は、議会本来の目的、仕事は「決めること」と強調。「決めることには責任が伴うので慎重な審議が求められる」と続け、決定によって不利益を被る人たちなど「当事者の話こそ聞くべきだ」と説いた。
 また、人口減少に関して、人口を奪い合う移住誘致合戦は「不毛だ」と批判。2019年に合計特殊出生率2・95を達成した岡山県奈義町を例に挙げ、地道な子育て政策の必要性を話した。

■議会愛と「やってみよう」の精神

「DX・デモテックと自治体・議会改革」をテーマに事例発表を行う茨城県取手市議会の金澤克仁議長(右)と同議会事務局次長の岩﨑弘宜氏。

 3つ目のセッションは「DX・デモテックと自治体・議会改革」をテーマに茨城県取手市議会の金澤克仁議長と同議会事務局次長の岩﨑弘宜氏が登壇し、事例発表を行った。取手市議会は近年、ICTやオンラインを用いた議会運営などが全国的に注目されている。冒頭、市議会の特徴を「議会愛と『やってみよう』の精神」と強調。岩﨑氏は「議員の皆さんが目線を下げ、私たち議会事務局職員と共に議会を、市を良くしていこう!の議会愛に溢れる議会だ」と説明した。
 新型コロナが全国的に感染拡大した2020年4月以降、取手市議会はいち早くオンラインによる会議を開催。既にその数は60回以上に及ぶという。金澤議長は「オンラインでも(リアルと)遜色ない議論ができる。コロナ渦でも議会機能を維持し続けた」と力を込めた。

 現地視察に加え、市民や市P連、医療や農業従事者などから意見を聞く意見交換会もオンラインを活用。「オンラインは日程を相手の都合に合わせやすい」とメリットを指摘した。議会災害対応訓練はタブレットで現場写真撮影し、GPSで位置情報が記録された画像をGoogleマイマップに落とし込み、Zoomで会議を行うなどICTを活用。さらにAIが作成した議事録のチェックを住民が行ったり、ICTを活用した市議会の主権者教育事業などについて紹介した。

 取手市議会は、議員と議会事務局職員が「チーム議会」の意識醸成がなされてきたという。そのポイントして次の3点を挙げた。

①心配事の多くは起こらない。
②考えた結論は数秒でも1時間でも1日でも1週間でもほぼ同じ。
③進めてみて問題・課題が発生したら議論し、解決策を見出したり、ときには「やめる」決断。

 最後に、オンラインによる本会議が開催できるよう地方自治法改正を求める意見書の採択、国への提出を参加者に要請した。

■市民向けの議会改革を

パネルディスカッションの様子。江藤俊昭教授と首藤正治・大正大学副学長がコーディネーターを務めた。

 最後はパネルディスカッション。片山氏と取手市議会の両氏がパネリスト、江藤氏と首藤正治・大正大学副学長がコーディネーターを務めた。
 片山氏は、取手市議会の取り組みについて「市民向けの仕掛けができている」と高く評価。一方、「これまでの議会改革は市民向けというより、議員本位だった」と話した。
 金澤議長は「取手市議会は議論が活発。一般質問も多くの議員が行う。感染症対策の提言では議会で一致しなかった項目も参考意見として執行部に届ける」などと話した。


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 大正大学地域構想研究所では2023年5月から、「政策に強い議員を創る!」をテーマに月例研究会、8月には夏の集中講座「先進事例を学ぶ」などを開催する予定だ。
 問い合わせは大正大学地域連携研究推進室TEL:03-5944-5482まで。
(文・写真/上席研究員・千葉茂明)

〇日本生産性本部・地方議会改革プロジェクト
https://www.jpc-net.jp/consulting/mc/pi/local-government/parliament.html

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