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ケンジローラモの慈悲

藤島健二郎は耐え忍んでいた。

決定戦を見すえたA1リーグの終盤戦。
今日勝てば、下を見ずに決定戦だけを見ることができる。
万が一にも大敗するようだと残留争いに巻き込まれかねない。

しかしこの日、藤島健二郎はツイていなかった。
配牌を取ればクシャクシャ、ゼロ面子で他家の先制リーチが飛んでくる。
たまに来るドラドラは1段目に1000点でかわされる。
麻雀打ちの全員が経験するであろう地獄モードを引かされていた。

それでも藤島健二郎は耐えていた。
丁寧に、できる限り被弾しないように慎重に危険牌を先に処理する。
藤崎智のダマテンをビタ止めし、解説が感嘆の声をあげる。

そして迎えた何度目かの親番で、ついに閃光が天から舞い降りた。

配牌で役牌のドラ暗刻、チャンタまで見えるイーシャンテン。
鳴いても12000点級、門前なら18000点まで狙える超ド級の手牌である。
どよめき興奮する実況解説席、第1打は当然――。

その時、世界がぐらりと傾いた。
轟音と共に、激しい揺れがスタジオを襲う。
かつて連盟スタジオが、いやほとんどの人が体験したことのない揺れ。
大地震の到来である。

実況の古橋が視聴者に揺れの危険性を伝え、避難する。
対局室ではカメラが数台倒れ、対局者は避難を始めていた。

しかし、藤島健二郎は動かなかった。
卓にしがみつき、鬼の形相で歯を食いしばりながら第1打を選択する。

打、中
ツモ5p、打中

平和のイーシャンテンである。
狂気の打牌選択には、藤島健二郎の怒りが体現されている。
さらに続く激しい揺れ、崩れたツモ山に手をのばす藤島健二郎。
次のツモは7p、打1m
ツモ1p、打1m

平和のイーシャンテンである。
なお南家、西家、北家はすでに避難済みのため、一人麻雀になっている。
ツモ8p、打中

平和のテンパイである。
全てのカメラが倒れ、中継は止まっている。
すでにこの藤島健二郎の選択を見るものはいない。

否、天は見ていた。
天命に抗おうとする藤島健二郎の姿を。
運命を変えようとする藤島健二郎の姿を。

刹那、永遠に続くかと思われた揺れが止まった。
しんと静まり返る対局室。
次のツモを確認し、満足そうに天を仰ぐ男の姿。

こうして世界は救われた。
ケンジローラモの慈悲である。

世界を救ったケンジローラさん


という夢を見ました。
やたら鮮明だったので牌姿を覚えているうちに書きました。
昨日、A1で素晴らしい闘牌を間近で見たので印象に残りすぎて夢に出たんだと思います。

藤島プロはA1への挑戦1年目にして、決定戦に進出し、佐々木寿人鳳凰位への挑戦権を得ることができるのか?

引き続き、佳境のA1リーグをお楽しみください。

おわり。


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