01 「Care Order」は地方当局に親責任が優先的に帰属。
前回#003において、イギリスの児童福祉においては、子どもの福祉を図るという点において、親がその子どもに対する親責任を果たしていない場合には、国(地方当局)が、親責任を保有し、子どもの福祉を図ることを「Care Order」という裁判所の命令で予定していると説明した。
親責任を、親責任者と地方当局で共有するが、地方当局に優先的地位を認め、実質的には地方当局の親責任に関する意思決定が優先される。
そして地方当局は、その親責任を行使する中で、子どもを里親に委託するなどして、子どもの福祉を図る。
児童福祉法第28条承認審判によって、日本の児童相談所は、子どもの親権を取得することはない。ただ、児童福祉法第33条の2が、一時保護された児童に親権者がいない場合には、児童相談所長が、親権者、未成年後見人が現れるまでの間、親権を行使できるだけである。
また、児童福祉法第33条の2以外も、児童相談所長は、親権停止、親権喪失の申立てをする権限が児童福祉法により付与されているが、これにより、児童相談所が親権を取得するわけではない。
ここに、親が子どもに対して親責任を果たさない場合において、親責任を国が引き受けてでも、子どもの福祉を図ろうとするイギリスの児童福祉政策の考え方が現れている。
日本の児童福祉法第3条の2には次のような規定がある。
この規定は、国に、第一に、子どもが家庭で心身ともに健やかに養育されるように保護者を支援することを求め、子どもを家庭で養育することが難しい場合には、第二に、必要な措置を講じることを求めている。そして、この必要な措置として児童養護施設、里親への委託の措置を児童相談所は講じるわけだがイギリスの「Care Order」と比較した場合、日本の児童福祉法は、国が親権を取得してでも、子どもの福祉を図るというわけではない。
02 「Care Plan」という地方当局への歯止め
日本と異なり、イギリスでは「Care Order」で地方当局が親責任を保有する状態となる。この効果だけから考えると、「Care Order」が一度発令されると、地方当局は、親の意向に反した医療行為でさえも子どもの福祉を図るためには実施できることが一応可能となる。
しかし、子どもの福祉を図るためとはいえ「Care Order」が発令されれば、いかなる国家行為も許容されるというのは、法律家として危惧感を感じる。
「Care Order」という裁判手続を経たとしても地方当局の親責任の行使が無制限に許容されることは合理的ではなく、かような観点から、「Care Plan」の策定が「Care Order」の裁判手続では求められる(1989年児童法第31A条)。
「Care Plan」とは、「Care Order」により地方当局が保有する親責任をどのように行使していくのか、どのように子どもの福祉を図るのかに関する取りまとめと考えればよいと思われる。
地方当局は親責任を「Care Plan」に基づいて行使しなければならない。
「Care Order」の発令に関する裁判手続を「Care Proceedings」というが、1989年児童法第31A条は、地方当局が「Care Plan」を準備し、裁判所に提出することを求める。
03 「Care Plan」の中身
「Care Plan」の内容について、「The Care Planning, Placement and Case Review (England) Regulation 2010)別表2には次のような定めがある。
上記別表2の定めは、地方当局が、親元から子どもを里親などへ委託する場合などにおいて「Care Plan」に定めておくべき事項に関するものであるが、⑶には、子どもの掛かりつけ医師として歯科医に関する定めも必要とされているのが確認でき、CarePlanが普段の養育の細かい事項にまで及んでいることがわかる。
04 「Care Plan」と「Care Order」の組み合わせがもたらすもの
「Care Order」により地方当局という国家権力が、自分の子どもに対して親責任を、親よりも優先して行使できる状態という点が、イギリスの児童福祉法が、子どもの最善の利益について、国家もが積極的に関与して実現する考えの現れであると前に説明したが、これは親側からすれば、国家に自分の子どもが好きなように扱われてしまうのではないかという不安に陥るのは必至である。そう考えると、日本の児童福祉法は、ここまでの権限を児童相談所に与えない点で安心感がある。
しかし、児童福祉法第28条承認審判を経れば、実質的には子どもは児童相談所の養育下に事実上置かれることになり、以後の養育の在り方について何ら具体的な計画が示されない点は、イギリスでは「Care Plan」で歯科医師の指定まで求められていることに鑑みると、日本の児童相談所のほうがその裁量の範囲が不明確であり、却って、親権を事実上制限する範囲・程度が大きいのかもしれない。おそらく、施設に入所した子どもをどの歯医者に通院させるのかについて、日本では児童相談所が自由に決めているのではないだろうか。
イギリスは「Care Order」で親責任を地方当局に付与する点で「Care Plan
」でその権限の行使範囲を明確にする点で、家族への介入の限界点を定め、より家庭、子どもの権利制限の範囲を限定しており、日本の介入は曖昧である。