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My Learning Log of Law】児童福祉法in The U.K.#003】親責任への国家介入のあり方とCare Order

01 親に親責任を全うさせるための「Care Order」


 前回#002述べたように、親責任を1989年児童法に取り込むことは、子どもに対する親が有する責任に対し、それを監督させる役割を国に付与する意味を有する。親が、子どもに対して、例えば虐待をはじめとした不適切な養育をしていると考えられる場合、国は、親の「親責任」を全うさせるべく介入をすることが、1989年児童法を根拠に許容される。
 国による親責任に対する介入には色々なレベルがあると思われる。親の責任の不履行の程度が軽ければ、軽い介入しか許されないし、親責任の不履行の程度が重ければ、時には非常に重い介入さえ肯定されるのは当然である。
 しかし、家庭への国家の介入は、人権法8条でいう家庭内の自由・自治を制限するものであり重大な人権侵害の可能性があるため、6条の公正な裁判を受ける権利の保障のもと、裁判所の命令をもってして介入が初めて正当化されるというのがイギリス児童福祉法の建付けである。
 そのため、、国による親責任への介入に関して、司法関与は当然必要であって、介入を認める裁判所の典型的な命令が「Care Order」である。

02 介入の最大値(?)=「Care Order」の効果


 日本でいう児童相談所に相当するチャイルドソーシャルケア(以下「CSC」という。)は、日本と同様に、虐待など家庭の機能不全の兆候を発見した場合、直ちに裁判所に「Care Order」の申立てをするわけではない。
 ソーシャルワーカーが家族に働きかける「ソーシャルワーク」によって家庭の機能不全の改善を図る。そして、このソーシャルワークがうまく機能しない時に、CSCは、裁判所に「Care Order」の申立てを行う。この点、日本と同じ手順・思考と評価できる。
 では、CSCは「Care Order」を裁判所から獲得することで、具体的にCSCは何をすることとができるのか。「Care Order」の効果に着目すると、1989年児童法第33条第3項は「Care Order」の効果について次のように定めている。

(3) While a care order is in force with respect to a child, the local authority designated by the order shall—
  (a) have parental responsibility for the child; and
  (b) have the power (subject to the following provisions of this section) to
  determine the extent to which
    (i) a parent, guardian or special guardian of the child; or
    (ii) a person who by virtue of section 4A has parental responsibility for the
    child,
  may meet his parental responsibility for him.

https://www.legislation.gov.uk/ukpga/1989/41/part/IV/crossheading/care-orders#:~:text=(1)Where%20a%20child%20is,child%20was%20to%20live%20%5D;%20and 
Legislation.gov.uk

 この条項によれば、地方当局は、対象となった子どもの「親責任」を保有するとともに(第3項a)、地方当局は、対象となった子どもの親、後見人、特別後見人の親責任の範囲を決定する権限が付与されることになる(第3項b)。

 日本の児童福祉法第28条の承認審判の効果との違い

 他方で、日本の児童福祉法第28条第1項は次のように定めている。

第二十八条 保護者が、その児童を虐待し、著しくその監護を怠り、その他保護者に監護させることが著しく当該児童の福祉を害する場合において、第二十七条第一項第三号の措置を採ることが児童の親権を行う者又は未成年後見人の意に反するときは、都道府県は、次の各号の措置を採ることができる。
 一 保護者が親権を行う者又は未成年後見人であるときは、家庭裁判所の 
 承認を得て、第二十七条第一項第三号の措置を採ること。
 二 保護者が親権を行う者又は未成年後見人でないときは、その児童を親
 権を行う者又は未成年後見人に引き渡すこと。ただし、その児童を親権を
 行う者又は未成年後見人に引き渡すことが児童の福祉のため不適当である
 と認めるときは、家庭裁判所の承認を得て、第二十七条第一項第三号の措
 置を採ること。

https://laws.e-gov.go.jp/law/322AC0000000164
e-gov法令検索

 日本の児童福祉法第28条1項では、同法第27条1項3号の措置、いわゆる施設入所などの親子分離の措置を採ることが親権者や未成年後見人の意に反する場合に、家庭裁判所の承認を得て、その措置が取ることができるとするが、同法第27条1項3号の措置を親権者や未成年者の意に反することができないとされるのは次のような民法の規定があるからである。

(居所の指定)
第八百二十一条 子は、親権を行う者が指定した場所に、その居所を定めなければならない。

https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089/20200401_429AC0000000044/#Mp-Pa_4-Ch_4-Se_2
e-gov法令検索

 民法第821条は親権者に子どもの居所指定権を認め、児童相談所が、親権者の意に反して、児童養護施設などに入所させることは、親権者の居所指定権を侵害する。
 その侵害状態を回避する法制度が児童福祉法第28条承認審判である(厳密には、児童福祉法第27条4項が、親権者らの意に反して施設入所等をすることができないと定めているのが、侵害の直接的な帰結であり、その解消打開方法が児童福祉法第28条の承認審判となる。)。
 児童相談所が、家庭裁判所の承認を受けるのは、親権者の親権に含まれる居所指定権の侵害を、家庭裁判所の承認を得ることで正当化するという点にこそあり、それを超え、児童の福祉を図るための権限を家庭裁判所が児童相談所に積極的に付与するという意味は全くない。


04 子どもが健康に成長することに国も親と一緒に責任をもつ視点

 このように、日本の児童福祉法第28条は、親権に含まれる居所指定権に対する児童相談所の介入に対して裁判所が承認を与えるだけで、それ以上の効果はない。つまり、児童養護施設などに入所させることが「親権の侵害を構成しない」という効果にとどまる。
 これに対して、イギリスの「Care Order」は、地方当局が親責任を保有し、加えて親の親責任の範囲を決定する権限をも地方当局が保有することで、親よりも優先して親責任を遂行できる立場に置き、子どもの福祉を積極的に図ることを実現する地位を地方当局に付与するものである。
 これは、子どもが健康的に、幸せに成長していくことについて、地方当局という国の組織が責任を有し、実現することを「Care Order」が許容し、お墨付きを与える制度と評価できる。
 日本の児童福祉法は、子どもの福祉を図ることについて親が第一次的な責任を有し、国はその支援が義務付けられている。しかし、親が第一次的な責任を果たせない時、国が、その責任を共有してでも、子どもの福祉を図ることまで法が予定しているわけではないということが、児童福祉法28条と「Care Order」の効果を比べることで明確になる。
 1989年児童法が、親責任の規程を設け、同じ法律内にある「Care Order」が親責任を地方当局に優先的に共有させることを認めたのは、国家が児童の福祉を図ることに積極的な責任を果たすことを明言したと評価してよいと思われる。


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