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死闘の果てに レアルマドリードvsマンチェスターシティ

今季の真価が問われる戦い

舞台は整った。ついに1年前のトラウマを消し去る時がやってきたのだ。思えばこの1年は、攻撃の軸であったベンゼマがチームを去り、CB2人の大怪我による長期離脱するなど、不安要素だらけのスタートであった。だがその中でも、ベリンガムら新戦力の加入、大幅なシステム変更などによりチームに大きな変化を加え、トライアンドエラーを繰り返し新たな勝ち方を模索するシーズンとなった。この状況下でも持ち前のマネジメント力でチームをまとめ上げた指揮官アンチロッティの手腕は大いに評価されるべきだ。そして今の時点で間違いなく言えるのは、去年までのマドリーとは全く違うチームに生まれ変わったという事だ。前年王者を相手に迎え、その真価が問われる時が来た。

昨季、エティハドで4-0の大敗を喫した


シティ戦の戦績はほぼ互角、アウェイに限定すればマドリーは未だに勝利がない。今シーズンの彼らの戦いぶりを見ても、悲願のトレブルを達成した昨季同様に世界最高の質とロジックを武器に好調を維持している。また、デブライネが怪我から復帰したシーズン終盤戦では、例年通りチームの完成度に更に磨きをかけてきている(毎年この時期はほぼ負けない)。さすがはグアルディオラといったところだ。シティと当たると毎回思う事だが、正直彼らはマドリーが苦手とするタイプの筆頭だ。マドリーの弱点とシティの強みが完璧にマッチしている。世間の下馬評もAI分析も、もちろんシティ優勢だ。だがもう言い訳は必要ない。だって我々は“El Rey de Europa” レアルマドリードなのだから。この白いユニフォームに袖を通す者に、マドリーの勝利を信じない者はいない。これまでの歴史が体現してきた、最後まで諦めないマドリディスモの精神が、我々には宿っているのだ。



さぁ、始めよう。昨シーズンのマンチェスターでの一戦を糧に進化を遂げた新生レアルマドリードの姿を、マドリディスモを、世界に見せつけてやろうではないか。
 

1st leg マドリーホーム (2024/4/11)



昨季の三冠王者を、エスタディオ・サンティアゴ・ベルナベウで白い巨人が迎え撃つ。マドリーは特段サプライズこそないが、ナチョではなくフィジカルに優れたチュアメニをハーランド対策としてCB起用。対するシティはデブライネ、ヴィニ封じのウォーカーが不在。また、デブライネの代役が出来るが長く得点から遠ざかっているアルバレスをベンチに置き、古巣対戦のコバチッチを起用してきた。基本的にシティが保持する展開になるのは自明で、マドリーはそれを許容しつついかに守備ブロックを崩さず、特にポケットとバイタルをケアし続けられるか。また、少ないカウンターチャンスを最小限の手数と人数で完結できるかがポイントとなる。
 

配置・戦術

 


(*基本的にシティ保持の状態なので、マドリー保持時の配置は記述しない。)

シティは大型4CBで構え、普段であれば2列目、3列目に上がってくるストーンズ、アカンジのポジション移動の回数も少なかったようにみられた。これはカウンター対策として最終ラインの人数を増やすことでサイドでの守備を強固にし(特にマドリーが主戦場とする左サイド)、撤退守備時のリスク管理をしたいペップの意図だろう。それほどマドリーの前線(ヴィニ、ロドリゴ、ベリンガム)が発動する爆発的なカウンターを驚異と捉えているのだ。また、中盤の底にロドリ、インテリオールにコバチッチ、フォーデン、両ワイドにグリーリッシュ、ベルナルドシウヴァ、CFにハーランドという比較的シンプルな配置。ペップのお家芸である大一番での奇策は、今回は無しということになった。

マドリーは押し込んでくるシティに4-4-2ブロックで対抗。前線の爆発力でカオスを起こし、一気に得点を狙う。この構え方はいつも通りだが、左SHにロドリゴ、左CFにヴィニは初の試み。絶好調ロドリゴのミドルサードでのゲームメイク能力と、カウンター時に最も相手の脅威になるヴィニをカウンター開始時により高い位置に残す事、を考えての配置だ。このシステムがうまくいけば、長年言われてきた、“2人とも左で同時起用出来たらいいのに”に1つの解を与えるかもしれない。残りのミドルブロックは重鎮クロースと鬼のカバー範囲を誇る働き者2人が勤める。そして最終ラインでは、リュディガー、チュアメニがSPの如くハーランドに張り付く。2CBが中央に寄るため、SB-CB間を埋める役目として時にはフェデあたりが最終ラインに吸収される場面も必要になるだろう。今日も彼にはもの凄い運動量とタスクが課されるに違いない。
 

前半


敵地で気負いすぎた前年王者
前半のシティは結果的に、この4CBウォールを基板とするシステムによるデメリットがメリットを上回ったように思える。このシステムでは必然的に攻撃に割ける人数が5人となり、どうしても選手間の距離が開き、パスワークで攻撃を組み立てていくのは難しくなる。その上、リュディガー、チュアメニによるハーランドのマンマークにより、CF起点の中央からの突破はほぼ皆無。また、せっかく両WGが司令塔タイプなのに、WGが大外で仕掛けたときにチャンネルランする選手がおらず、この動きが得意なデブライネ、アルバレスの不在が響くシーンが多々見られた(この動きを最多トライしたのはCBのストーンズ)。マドリーの2CBがハーランドに吸い寄せられ、SB-CB間に広大なスペースがあっただけに、シティズンにはもどかしい前半となった。

結局、立ち上がり2分の不意打ち弾を決めた後のシティはボールを保持するも、効果的なチャンスメイクは出来ず。いわゆる、“塩漬け”状態に陥った。ただ、マドリーの重心を極限まで下げさせた上でのロストが大半を占めた事、ネガトラ時に4CBが後ろでドシっと構えていた事から、カウンターはそれほど驚異にはならない、はずだった。
 
牙を剥いたマドリーのDelanteros

Joga Bonitoを披露したブラジルコンビ


シティの完璧なビルドアップから再三ファイナルサードに押し込まれるも、相手が愚策を弄した事で致命的なピンチは少なく、4-4のコンパクトなブロック守備を完遂したマドリーは、ギリギリのところでボールを奪い取ることに成功していた。あのクロースでさえもこの試合では高強度の守備タスクを担い、珍しく保持よりも非保持で躍動した。そしてここからが新生マドリーの真骨頂であった。前線で重しのように相手最終ライン付近でのしかかるヴィニ、ベリンガム。そして自陣深くから猛然とスプリントをかける両SHにボールを渡すや否や、幾度となくシティゴールに襲いかかった。顕著に優位性を保てたのは左サイドで、ブラジルコンビの技術、アイデア、コンビネーションは極上であった。逆転弾となった2点目はその結果生まれたゴールであったと言える。おまけに、相手守備陣をあざ笑うようなコロコロフィニッシュには度肝を抜かれた。また、多少保持が続いた場面でも、主にベリンガムがロングボールでディフェンスラインの背後を狙うシーンが目立ち、省エネながらも得点への意欲が感じられた。不運な形で失点はしたが、カマヴィンガの一撃から流れを変え、守り切って攻撃を少ない手数と人数で完結させることが出来た点で、マドリーにとってはそれなりに狙い通りの前半となった。

後半


綻びを見逃さなかったシティ
後半開始直後から、ペップはストーンズのポジション移動をデフォルトに設定した。これは前半の攻撃に足りなかった6人目のアタッカーを追加しただけでなく、ファイナルサードでのネガトラ時の前向きな守備にかける人数を増やし、そもそもボールの出口を塞ぐための強気な采配だ。また、フォーデンとベルナルドもより流動的にポジションを入れ替え始め、マドリーは後手にまわる頻度が徐々に増えていった。そうしてマドリーの4-4ブロックを揺さぶり続けたシティは、じわじわとその城壁にヒビを入れていった。結果66分、そのヒビが1箇所の綻びを生じ、フォーデンの同点弾が生まれた。左右に揺さぶられ続け、最終的にDF陣が寄せきれなかった事でフォーデンにバイタルエリアで余裕を持たせてしまった。このゴラッソは無慈悲と表現したいところだが、1箇所の綻びですら見逃さないのがマンチェスターシティというチームである。そして彼らは同点では満足しない。その後も勢いそのままにマドリー陣営を攻め続け71分、ついに逆転弾を許してしまった。これもまたクオリティを賞賛すべきゴラッソであった。
 
王者の風格を見せたマドリー
“ホームで71分に逆転を許したから何だ、勝敗は180分で決まるんだ“。これを何の疑いもなく全員で共有できるのがマドリーだ。信じられないゴラッソ2発を食らったところで動じない。中でも落ち着いていた指揮官はここでロドリゴ、クロースに変えてブライム、モドリッチを投入。特にロドリゴは何度もトランジションでピッチを往復していたのでかなり疲労が蓄積しているはずだ。代わりに入るジョーカー、ブライムも守備強度と馬力はピカイチなので期待できる。モドリッチの投入意図は、より前からのプレスとボール保持時間を増やすためだろう。総じてこれは決して後ろ向きな交代ではなく、反撃するための交代であった。

久々の目が覚めるようなバルベルデ砲


そして79分、待望の同点弾が生まれた。ミドルサードで回収したボールをモドリッチが運びカウンター発動、左で受けたヴィニが素早くサイドチェンジし、カメラの死角から飛び込んできた”Alcon“フェデがお得意の矢のようなボレー。まさに一閃!という雰囲気のゴールだ。マドリーはまたもや奇襲に成功し、改めて試合強者ぶりを見せた。結果的に、この3点目の興奮冷めぬまま、マドリードでの試合は終了した。ベルナベウは異様な雰囲気に包まれていた事だろう。”思い通りやれた“と同時に、”もっとやれた“のだから。
 
最高峰の試合たる所以


3-3というスコアにはなったが、ゴール期待値はマドリー 0.70, シティ0.88という目を疑う数値を叩き出した。つまり、両者ゴールの可能性はほとんど無いにもかかわらず、難しいシュートを計6本も決めたという異常事態だ。それほど両チームが抜け目なく戦い、少ないチャンスをモノにしたという事である。フットボールはミスのスポーツと呼ばれるが、ごくわずかなミスがほぼ確実にゴールに繋がってしまったこの試合は、フットボールという競技の究極形と言って良いだろう。一流の選手、監督、戦術を持つ2チームの戦いでありながら、全てのフットボールファンにとって最高にエキサイティングな内容になってしまうのだから、やっぱりフットボールは面白い。果たして世界中のどれだけの人間がこの最高級のエンターテインメントの演者を務められるだろうか。今一度、90分戦い抜いた両チームを讃えたい。


ヴィニシウス
アタッカーとしてのあらゆる役目を超ハイクオリティで担当。2点目の背負ってからのスルーパスはまるでベンゼマでした。

ロドリゴ
攻守において多くのタスクをこなした。カウンターではヴィニと共に相手を翻弄。慣れないブロック守備も難なく対応。お疲れ様。

カマヴィンガ
こういう息苦しい試合で、個人でいろいろ打開してくれるのはチートすぎる。1点目の正対入れてからのシュートは見事でした。

リュディガー
通常運転。またしてもハーランドを完封。

2nd legに向けて


マドリーが”思い通りやれた“のは、一貫した狙いから勝利を目指せた点だ。最初に記述したように、「守備ブロックを崩さず」、「少ないチャンスを最小限の手数と人数で完結」することができた。任務遂行だ。それでも、思わぬ形で3点も取られてしまったために、”もっとやれた“という気持ちが沸いてしまう。実際に選手たちも試合後のインタビューで口を揃えて、「勝たなければいけない試合だった」と発言していた。だが、相手もそれは同じだ。あれだけ相手陣地に押し込んでいてドローは中々見られない(記憶に新しいものでいうと、W杯の日本対スペインのような試合展開だったかもしれない)。

アウェイとなるセカンドレグでは、マドリーはチュアメニが出場停止、シティはデブライネとウォーカーが復帰となる。正直、参ってしまう。今日のように、チャンネルをぽっかり開けるようなことがあればデブライネ(アルバレス)にすぐに攻略されるだろう。より意識的な高強度の守備が不可欠となる。また、カウンターも超人ウォーカーによって阻止される可能性は高い。だがここで1つ希望が見えるのは、ヴィニ、ロドリゴの左寄りでの同時起用により、そもそも彼に1対1で挑まないという策が使えるからだ。質でダメなら数で攻めればいい。基本的に試合展開は今回と変わらないだろうが、より一層気合いを入れて試合に挑まなければならない。何度も繰り返すが、シーズン初めから積み上げてきたものの真価が問われる試合だ。ベルナベウの魔法は使えないが、もうやるしかない。絶対に勝とう。

2nd leg シティホーム (2024/4/17)


難攻不落のエティハドに覚悟を決めて乗り込んだレアルマドリード。今度こそは勝ちたい。予想通りマドリーはCBにナチョ、シティはデブライネ、ウォーカーを起用してきた。マドリーとしては配置も変更無しのため、基本的にやることは変わらないが、特にデブライネへのチェックは怠ってはいけない。スタートから集中力を持って試合に望みたい。

完璧な立ち上がり

配置(シティ保持)


マドリーは保持時、ポジトラ時共に、ファーストレグでは前にボールを進めていたであろう場面でもセーフティな選択を取るシーンが目立った。むやみに前進して陣形を崩し失点、の流れを避けるのを優先し、慎重に機を伺おうという意図だ。1点が命取りになる事、立ち上がりでの失点が多い事を考えると、真っ当な戦略だと思う。一方のシティもファーストレグ同様の配置でかなり重めに来たため、開始10分ほどまでは見合いのような格好になった。

それでも12分、試合を動かしたのはマドリーだった。カルバハルのクリア気味のボールをベリンガムがスーパーなトラップで収め、フェデ→ヴィニでペナ内に侵入、ファーでフリーのロドリゴが押し込み先制という形だ。この得点への貢献の大部分はベリンガムのチャンスクリエイトにある。このようなハイレベルな試合でも違いを見せてしまう彼はやはりCrackだ。また同時に、ウォーカー起用が顕著に裏目に出たシーンでもあった。背後のカバーリングという彼の数少ない弱点を突き、ノーマークのロドリゴがシュートを打つことが出来たのだ。こうしてマドリーは敵地でリードする展開となった。もちろんポジティブに捉えられるが、1つだけ不安要素がつきまとう。“早すぎるリードは危険なこともある“のだ。
 

シティ戦にめっぽう強いロドリゴ

最終形態vs仁王立ち


マドリーが先制したことで徐々に前年王者のギアが上がっていく。ファーストレグ同様シティのパス回しに対しマドリーは4-4-2で対応。じりじりと押し込まれ、今回は上手くリュディガーのマークを外れたハーランド、ポケットを狙うデブライネ、ベルナルドを筆頭に多様な手段でチャンスを生み始めた。間違いなく、シティの理想とするフットボールであり、彼らの最適解を目の前で見せつけられた。

それに対しマドリーは“Park the bus”、11人の塊となってゴールを守り続けた。筆者は7年前から欠かさずマドリーの試合を見てきたが、こんなマドリーを見るのは人生で初めてだ。確かに今シーズンは4-4-2守備ブロックをある程度定石としてきたが、ここまでコンパクトで長時間続く守備は明らかに初めてである。勿論、守備ブロックを組んで構えるということはひたすらボール方向へ走らされるわけだから体力の消耗は尋常ではない。増して、前半のうちからそのようなスタイルで構えて90分まで続けられるとは考えにくい。しかし百戦錬磨の名匠の出した答えは明白だった。“最後まで、全員で守り切る“。自らのスタイルを捨ててでも勝利を目指す、その覚悟は画面越しでもひしひしと伝わってきた。

全ては勝利の為に “Se confie al final”


前半、マドリーの得点以降は何度も決定機を創出され、間一髪のところで失点をまぬがれていた。後半になっても勢力図は変わらず、1点のリードをギリギリ保つ状況が続く。むしろ、後半に入ってアカンジがポジションを上げたことにより、シティの攻撃は厚みを増し、バイタルでの保持やポケットの進入頻度が増え、こちらの体力を蝕んでいった。更にペップは追い打ちをかけるようにチートドリブラー、ドクを投入。イエローを貰い既に満身創痍のカルバハル、フェデの二人で見ざるを得なくなってしまった。そしてついに76分、そのドクのチャンスメイクから最終的にこぼれ球をデブライネに押し込まれてしまった。エティハドは歓声に湧いた。試合の流れから考えて、全てのシティズンが逆転を疑わなかったであろう。だが、マドリーは同点どころで心を折られるチームではない。2年前、ホームでセカンドレグの73分にマフレズに決められ2点差とされたとき、Capitanナチョはこう言った、“Se confie al final(最後まで信じるんだ)”。今回もピッチ上の11人に、下を向く選手など一人もいなかった。まだまだ勝機はある。最後の最後まで戦おう。

このゴールで一気に流れはシティに

マドリーは死なない “Nunca den al Madrid por muerto”


同点とされて以降もまだまだ台風のようなシティの攻撃は続く。彼らとしては90分で仕留めたい思惑からどんどん攻撃の火力を足していき、遂にはウォーカーまでもが上がってくる事態になった。だがそれでもマドリーは諦めずボールを追い続け、可能な限り相手を自陣深くから追い返し、また攻められては追い返しを繰り返す。結果、何度も決定機を作られるも首の皮一枚繋ぎ、90分を耐え抜いた。疲労困憊のマドリーだが、あと30分は少なくとも戦わなければならない。延長に入る前、入念にマッサージを受けるベリンガムが映し出された。彼の20歳とは思えない落ち着いた表情を見ていると、何故か安心する。自然と彼なら何かやってくれるという気になってくるのだ。延長に入っても、流れは変わらず、ひたすら自陣に侵入してくる水色のユニフォームを跳ね返す展開だ。延長ともなると確実に疲労は蓄積しており、とうとうヴィニ、カルバハルが足を攣る事態。だが状況はシティも一緒であった。だんだんと運動量が落ち、その攻撃の迫力が薄れていったのだ。ここまで来たら気力の問題だ。結局、オープンな展開の中で120分のホイッスルが鳴るまで両者必死にゴールを目指すも、得点は生まれずPK戦に突入となった。最後まで選手たちを信じよう。

死闘の果てに


“記憶に刻まれるのは常に勝者だ”。かつてクリスティアーノ・ロナウドが放った言葉だ。勝ったチームは、「あのときは強かった」と後まで語り継がれるが、負けたチームはどれほど良い試合をしてもそうなることは難しい。たとえそれがPK戦という刹那の戦いであっても、勝者と敗者が決められてしまう。両チームが最大値を出し合ったこの素晴らしいゲームでさえだ。

その重圧を最初に背負ったのは、最年長モドリッチだったが、エデルソンに読まれてしまう。シティは一人目が難なく決めるも、全く動じない男、ベリンガムが冷静に逆を突き流し込む。次のキッカー、ベルナルドシウヴァは真ん中を狙うが完全にルニンの読み勝ち。実はケパがチェルシー時代に同じコースに決められており、その事をPK前に伝達していたようだ(アッパレ!)。続くルーカスもウンデシマの再現の如くあっさり決め、コバチッチのシュートはまたもやルニンのビッグセーブ。ここで一気に流れはマドリーに。Capitanナチョも丁寧に決め、最後にスポットに向かっていったのはここまで幾度となく相手の攻撃を跳ね返してきたリュディガーだ。やはりここで5人目を蹴れる彼のメンタリティはクレイジーと表現する以外に無い。頼れる漢がゆっくりとボールをマーカーにセットする。昨季のリベンジ、今季の真価、王者のプライド、全てを託したそのボールは左ポストをかすめ、ゴールに吸い込まれた。

ボールは左ポストをかすめ、ゴールへ

これがマドリーの勝ち方 “Así gana el Madrid”

勝ったのだ。未だに信じられないが、この試合の勝者は、誰がなんと言おうとレアルマドリードだ。真っ先にファンのエリアにダッシュするリュディガー、ファンと共に高らかに“Así gana el Madrid”と叫ぶベリンガムの姿はアイコニックであった。今は、喜びに浸ろう。

リュディガーに駆け寄る仲間達


ベリンガム
120分間、ひたすら走り続け、最前線で圧力をかけまくった。容赦なし。得点に繋がった神トラップはジダンそのものでした。

バルベルデ
何で足攣ってないの?と聞きたい。今日も3つのバイトを掛け持ちピッチのあらゆるエリアをカバー。ちゃんと超過勤務手当貰ってね。

リュディガー
通常運転。ガッツ溢れる守備で何度も決定機を阻止。最後のPKは痺れたよ。トニは外すと思ってたらしいけど。

ルニン
値千金のPKストップを2回も!いくら得意とはいえ凄すぎる。勝った瞬間めっちゃ冷静なのオモロい。

決戦を終えて


試合後マドリーのコーチ陣は、この試合の守備戦術を練るために直近のアーセナルvsシティのアーセナルを参考にしたと明かし、アンチェロッティはこれを“シティに勝つための唯一の方法”だと表現した。対するペップは試合後のコメントで、“やれることは全てやったがそれでも負けた。これがフットボールだ。” と言い残した。まさに、現代フットボールを極めた2チームの戦いであったことが伺える。言葉で表現してしまうとどうしてもチープになるが、自分が人生で見た試合で最も質が高く、それでいてエモーショナルな試合だったと思う。少なくとも、数年に一度の一戦であることには間違いないだろう。全フットボールファンに是非とも見てほしい試合だ。この傑作を生んだ両チームの監督、選手全員に最大限の賛辞を送りたい。

データで測れないモノ”La Magia del Madrid”

試合終了のホイッスルは、この計210分に及ぶ戦いに勝ったと同時に、マドリーが今シーズン積み重ねてきた”モノ”が確かに自分たちを成長させる糧であったと証明された瞬間であった。それは決して戦術や選手の能力だけの話ではなく、少なからずチームとしてのメンタリティも含まれていると筆者は考える。今シーズンを振り返ると印象的なのは、ピッチ内外で選手達が楽しそうにしている事だ。その過程で育んだ結束力は決してデータで測れるものではない。満身創痍の選手たちを最後まで突き動かしていた原動力は、絆とプライドであり、まさしく“チーム一丸”と表現して相応しいものだった。だから今日の試合も、最後に一歩足が出るなど魂の籠もった守備が見られたに違いない。全員が勝利という同じベクトルを向いていたからこそ、自分たちのスタイルを捨てる事も厭わず、最後まで良い結末を信じて戦う事が出来たのだ。試合終了後の光景が全てをよく表している。ゴール期待値の差、AIによる計算勝率、全てのデータを覆し勝利を手にした喜びを爆発させる男たちの姿がそこにはあった。


きっとこのデータで測れない何かが、マドリディスモの正体なのかもしれない。むしろそうでないと説明がつかないと、歴史が証明してきた。それらの全ての歴史を背負うエンブレムに秘められた力は底知れない。そしてこの死闘を経て、胸のエンブレムに脈々と受け継がれる勝者のDNAはより一層強固なものになった。そしてそのDNAを継ぐ者達は、結局PK戦でも逆転するなど、またしても忘れられない魔法の夜を見せてくれた。もはやLa Magia del Bernabéu(ベルナベウの魔法)ではなく、La Magia del Madrid(レアルマドリードの魔法)と言っても過言では無い。

準決勝は久々のバイエルン戦。油断は出来ないが、リーグ戦で余裕がある分、CLに照準を合わせた後半戦を送れるのは確かだ(この執筆中にクラシコも逆転勝利)。まずは万全の状態でアリアンツに乗り込みたい。セカンドレグをベルナベウで行えるのも大きい。もう一度、マドリディスモを見せよう。15回目のビッグイヤーを掲げる準備は出来ている。

新たな歴史を刻むまで、あと少しだ。


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