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【オチのない話】 雨の断章
雨が降っていた。その水滴が窓ガラスをたたく音は、主人公の心の中の孤独と空虚感にぴったりと重なる。彼は小さなアパートの一室で、厚いカーテン越しにその音を聞いていた。部屋は薄暗く、何年も前に色あせた壁紙がはがれかかっている。彼の生活も、その壁紙のように、徐々に剥がれ落ちていた。
彼は仕事からの帰り道、いつものように無意味なルーチンを辿っていた。その日も、彼の仕事は何も成し遂げた感じがしない繰り返しで、彼自身がその中でどのような役割を果たしているのかさえわからない。だが、雨は知っているかのように降り続ける。彼の存在を無視し、彼の周りの世界に静かに溶け込む。
彼は窓辺に座り、外を見つめた。雨は人々を家に閉じ込め、街の活動を鈍らせる。しかし彼にとって、雨は彼が日常から逃れられる理由を与えてくれる。彼は外出する必要がない。彼は誰とも話す必要がない。ただ、雨音を聞きながら、自分が世界とどれだけ隔絶されているかを考える。
この日、彼は特に雨の降る音が心地よかった。それは彼の内面の荒れ模様と同期するリズムだった。しかし、彼がどれだけ聞き入っても、雨音は彼に何も語りかけてこない。そこにはただ、反復する音と、彼の生活の繰り返しの間に広がる深い断絶のみがある。
時が過ぎ、雨は強くなったり弱くなったりするが、彼の生活の単調さは変わらない。彼はまた、明日も同じ窓辺に座り、同じ雨音を聞くだろう。そして、彼の存在は、世界にとってあまりにも無意味で、あまりにも透明であるため、雨に洗い流されてしまうのかもしれない。しかし、今はただ座って、外の雨を眺める。何も変わることはなく、結末もない。
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